第74話「ヒーローは遅れて登場する」
──王都グランシア、港。シルホーク家の倉庫。
「クックック……! どうする? 状況は変わらず、いや、書簡が無くなったからむしろ悪化したのかもな!」
貴族が高らかに笑い、蔑むような視線を向ける。
クソッ! その顔、ムカつく!
だが、状況が変わらないのは事実だ。このピンチになんで運が発動しないんだよ! なんのためにレベルアップしたんだ……
「ユージ……やっちゃっていい?」
「やっちゃわないで!? 暴発したら全員丸焦げだよ!?」
「大丈夫! 気をつけるから!」
「杖ありで暴走してたヤツがどうやって気をつけるんだよ!? 頼むからやめてくれ!」
「じゃあどうすんのよ!」
ホントにどうしようか。リディアはいいよな、捕まるだけだから。
俺は……賊に殺されるか、リディアに焼き殺されるかの二択? もう泣きたいよ。
「そろそろいいかな? こっちも暇じゃあないんでね」
しびれを切らした貴族が賊たちに目で合図を送る。賊たちが近付いてきた、その時だった──
パリンッ!
倉庫内のランプが割れ、明かりが消えると、辺りは何も見えないほどの闇に包まれた。
「な、なんだ?」
「うぎゃあぁぁっ!」
「ぐふっ!」
「ぐわっ!」
暗闇の中、叫び声や苦しそうなうめき声が響いている。
「おいっ! 一体どうしたんだ!? 何が起きてる!?」
貴族の問いに、賊たちは答えることができないみたいだ。
辺りは静寂に包まれている。
「あれ? 電気どこだ?」
んっ? この声はまさか……
パチン──
倉庫内に明かりが灯り、そこには倒れて動けない賊たちと、呆然と立ち尽くす貴族の姿があった。
そして、俺たちの前にはシロとダイノスがいる。
「やっぱり! ダイノス……シロぉぉ。ありがとう……」
半べそをかきながら、シロとダイノスに抱きつく。
「おいおいユージ、大げさだぞ」
『ワンッ! ワンッ!』
大げさなもんか。本当に殺されるかと思った……
「んっ? それにしても、よくここが分かったな?」
「それがよ、シロに叩き起こされて部屋に行ったら二人ともいないだろ? 俺は気にすんなって言って寝ようとしたんだが、シロが引っ張って離さないんだよ」
シロ……お前最高かよ。
「本当は、リディアが飛び出した時には着いてたんだが、どうせユージがいるから大丈夫だろうって眺めてたんだよ」
「……は?」
「そしたらシロがいきなりランプ割って突撃するだろ? びっくりしちゃったよ! ハハハッ!」
俺、いつかダイノスに見殺しにされそうだな……
「おいっ! お前たち! 早く立て! お前らに幾ら使ったと思ってやがる!」
「うぅっ……」
貴族は倒れている賊たちを蹴りながら文句を言っている。
「ほらよ、リディア!」
ダイノスはリディアに杖を投げた。
リディアは杖を受け取ると、すぐさま構える。
「よくも……ハートクラン家に喧嘩を売ったわね!」
杖先に光が集まり、巨大な火の玉が現れる。
「ひっ、ひぃっ!」
貴族は尻もちをつく。
「リディア! やめろ!」
「……でも!」
「コイツらを殺してもリディアが悪者になっちまう! それに、殺す価値もないだろう」
俺の言葉に正気を取り戻したのか、リディアが杖を下ろすと火の玉は霧散した。
「ダイノス。コイツらを縛って兵士に渡そう」
「おしっ! 任せとけ!」
俺たちは手分けして全員を捕縛した。
「クックック……! 無駄なことを。俺はすぐに解放されるのになぁ!」
貴族は反省する様子もなく、悪態をついている。
「それはどうかな?」
「……ハッ! たかが冒険者が偉そうに!」
◆
ダイノスが呼んできた兵士に、賊たちとシルホーク家の貴族は連れて行かれた。
「おいっ! 離せ! 俺に触るな!」
貴族は最後まで偉そうに、兵士たちに文句を言いながら連れられていく。
「本当に、これで大丈夫だったのか? アイツらすぐに釈放されなきゃいいが……」
「大丈夫。今日はもう遅いから、明日にでもディーノさんに話しに行くよ」
「それならいいが……」
俺はリディアに近付いていく。
「リディア、今日はどうする? ハートクラン家に帰るか?」
「大丈夫。ヤマイヌ亭に戻りましょ。私が家に帰ったら、どうなるか分からないし」
その言葉にアルフが反応する。
「リディア……」
「……分かってる。私は離れてもハートクラン家の人間よ。お兄様たちも、いや、家族みんなのことも嫌いにはなってないわ」
「リディア……すまない。俺たちだって、お前のこと……」
「大丈夫。いつか、このスキルが無くなったらまた……家族になってもいい?」
リディアの目に涙が浮かぶ。アルフは強く抱きしめた。
「当たり前だ! お前の家は昔も今も変わらずハートクラン家だ! 必ず……帰ってこい」
お兄様……やっぱりいい奴だなぁ。クソッ! 目にゴミが入っちまった。
「うおぉぉぉっ! 愛だ! コイツぁ愛だ!」
なんでダイノスが号泣してんだよ! お前事情を知らないだろ!
俺たちはヤマイヌ亭に戻り、その日はぐっすりと眠りについた。
翌日、王城から使者がやってきたことは、言うまでもない。
次話へ続く




