第73話「家族のため」
──王都グランシア、港。シルホーク家の倉庫。
「なっ!? 一体どうやって牢を抜け出したんだ!?」
俺たちを捕まえた賊が、目を見開いている。
シルホーク家の貴族が賊を睨みつけた。
「まったく……使えない連中だな。だが、こんなところにノコノコと……さっさと捕まえろ!」
「へい!」
賊たちがジリジリと距離を詰めてくる。
ちょっと数が多すぎないか? また捕まったら抜け出した意味ないぞ……
「待て! やめろ!」
アルフが俺たちの前に立つ。
「妹には、手を出すな!」
あれ? 俺は? 俺はいいの? お兄様?
「取り引きはする。だから、妹だけは……」
「……っ! ダメよ! そんなことしたら──」
「いいんだ。俺たちはリディアに何もしてやれなかったからな」
お兄様、かっこよすぎだぞ。それに比べてこの貴族は……
だいたい、こんな奴をあの王様が許すはずがないんだけど、なんでこんなに大きな顔が出来るんだ?
「それに、タダで渡すはずがない。こいつらの悪事はこの書簡に全部書いてある。
これを王城に届ければシルホーク家も終わりだ」
アルフがそう言うと、貴族は不敵な笑みを浮かべる。というかお兄様? そういうこと敵に言ったらダメじゃない?
「それを? 王城に? クックック……!」
「何がおかしい!」
「弱小貴族のハートクラン家と、我々シルホーク家……城はどちらを信用するかな?」
いやいや、信用も何もないだろ。
んっ? この自信は……もしかして……
「お兄さ──アルフさん、もしかして王城にも……こいつらから賄賂を貰ってる奴がいるんじゃ……」
「そんな。じゃあ書簡を持って行っても……」
「偉い人に渡る前に、握り潰される」
アルフは膝から崩れ落ちる。それを見た貴族は高らかに笑う。
「弱者は弱者らしく、背伸びなんかせずに慎ましく生きればいいんだよ! ハッハッハッ!」
「クッ……! この野郎……!」
こんな悪徳貴族の好き勝手にさせたくはないが、打つ手がない……
「これ以上、家族に手は出させない……!」
リディアが拳を握りしめる。ダメダメ! 魔法は危ないって!
「リディア! 杖なしで魔法は危ない!」
「……でも! アイツらを許すわけには……!」
クソッ! 王城に届けても、偉い人に渡る前に握り潰される……いや、待てよ。途中にコイツの息のかかった奴がいるのなら、直接渡せばいいじゃん。
「ディーノさんに渡せば……」
「ディーノさん? だと?」
貴族の笑みが消える。
「俺が直接ディーノさんに渡せば、なんとかなるぞ!」
「……お前が? ……クックック! ハァーッハッハッハ! お前みたいなたかが冒険者がどうやって渡せる?」
「クッ!」
「それに、この状況を見ろ! どうせお前はここで死ぬんだよ!」
そうだ……ここを切り抜けないと、書簡を渡すどころじゃない。どうする?
ダイノスとシロが異変に気付いて探してくれれば……いや、アイツらのことだ。きっとまだ寝てる。
「どうやって仲間を呼べば……んっ? 呼ぶ?」
俺はポケットをまさぐる。たしかここに入れてたはずだ。
「あった……! 呼笛!」
「なんだその笛は?」
──ピィィィィィッ!
俺は息の続く限り笛を吹いた。甲高い笛の音が倉庫内に響く。
「なんだ? 仲間でも呼んだのか?」
「さぁな。どっちが来るんだろうな」
「仲間が来ると面倒だ! さっさと捕まえろ!」
「へいっ!」
賊たちが近付いてくる。
「女は取り引きに必要だ。殺すなよ?」
だから俺は!?
その時、リディアがピクリと反応した。
「──何か来る!」
えっ?
『キシャァァァァァッ!』
倉庫内にいた全員が一瞬固まった。
外に、何かいる──
ガシャァァァァァァンッ!
窓を突き破り、中に入ってきたのはモモだった。
モモ、ドアって知ってるか?
「なっ、なんだこの猿は!?」
モモが睨みを効かせると、賊たちは一歩、また一歩後退りしていく。
「何をしている!? こんな猿、さっさと殺せ!」
貴族の声にも、賊たちは動けずにいた。モモの強さを肌で感じ取ったのか?
「モモ! ありがとう! コイツら、倒せるか?」
プイッ
「あ、あれ?」
モモは賊たちに興味を示さない。コイツ……弱い敵だと燃えないタイプかよ。
「なんだよ……モモが戦ってる間に書簡を届けようと思ったのに」
『キキッ!? ウキャキャッ!』
モモはアルフの手にある書簡を奪うように取り、ぴょんぴょんと飛び跳ねている。
「なんだ? まさか届けたいのか?」
『キャッキャッ!』
まぁたしかに、弱い敵と戦うよりは楽しそうだけど……
「お前、ディーノさん分かるのか?」
『……キャ?』
「やっぱり……。ほら、アレだよ。いつも王様の隣にいるあの人! 王様! 分かる? 王冠被ってるおじいちゃん!」
『キャ? キャッキャッ!』
モモは何か閃いたのか、書簡を手にしたまま、入ってきた窓から飛び出していった。
「ホントに大丈夫なのか? ちゃんとディーノさんに届けられるだろうか……」
「クックック……! 猿は証拠を持って逃げたみたいだな! ざまぁない」
……あっ、これヤバいやつじゃね?
次話へ続く




