第68話「リディアを知る男」
──王都グランシア、港。
「アンタ一体何者なんだ……?」
俺はリディアを知っている謎の若い男に尋ねる。
横には紳士的なおじさんまで連れてるし、何なんだコイツ。
リディアは、コイツの顔を見た途端に逃げ出したんだ。怪しさしかないぞ。
「失礼。私はアルフ=ハートクランといいます」
……誰? ん? でもハートクランって聞いたことあるような……
「ハートクランっていやぁ、そこそこ有名な貴族じゃねぇか。なんでまたリディアのこと知ってんだ?」
そう言うとダイノスは、顎に手を当てながらまじまじとアルフを見る。
なるほど貴族か。じゃあ横にいるのは執事か何かか?
──ハッ! まさか、リディアってけっこう可愛いし、コイツもしかして昔リディアに振られたのか?
「ところで、あなた方は?」
「俺はダイノス。こっちはユージだ。リディアとは冒険者ギルドの仲間だ!」
「冒険者ギルド……? そうか、リディアは冒険者になっていたのか……」
なんだこの違和感は……? コイツは一体……
「あの、リディアとはどういう関係なんです?」
「あぁ、すまない。彼女、リディアは私の──」
「お前、アルフ=ハートクランだな?」
は? 今度はなんだよ……
「アンタに恨みはねぇが、仕事なんでね。怪我したくなかったら大人しくついてきてもらおうか」
「くっ! 賊か……!」
「若旦那様! お逃げください! ここは私が」
執事のおじさんがアルフの前へ守るように立ちはだかる。
しかし賊はそれを意に介さず、腹部への一撃で、おじさんは崩れるように倒れた。
「あっ! セバス! 大丈夫か!?」
なんだ? なんだ? 何が起きてんの?
セバスって、いかにも執事です! って名前だな。いやいや、そんなことはどうでもいい!
「シロ! モモ!」
『グルルルルッ……! ワンッ!』
『……』
「あれ? おーい、モモ?」
『……キャキャッ!』
モモは一言鳴くと、どこかへ行ってしまった。
あんの気まぐれザルめっ!
しかし、シロが詰め寄り威嚇をすると、賊はその場で腰を抜かした。あれ? もう終わり?
「まったく、何なんだこれ」
訳もわからず巻き込まれた形になったが、ダイノスが賊を縛り上げ、衛兵につき出して一応は事なきを得た。
「まさかユージの前で犯行に及ぶとは、あの賊命知らずだな!」
「いやいや……」
でも確かに。なんか危なそうな場面だったが、不思議と恐怖はなかったな。
ここ最近、魔族だのなんだの立て続けに恐ろしい敵ばっかりだったからか、あんなの何人いても平気になっちゃったのか?
いや、俺自身は弱いままだ。ここで調子に乗ると命を落とすことに……いかんいかん。
「セバス! セバス! しっかりしろ!」
アルフは意識のない執事のおじさんに必死に呼びかけている。どうやら、悪いやつではなさそうか?
でもリディアはアルフの顔を見た途端、逃げ出したからな……
「これ、使ってください」
俺は回復薬をアルフに渡す。
「ありがとうございます!」
アルフは回復薬をセバスに飲ませる。
「……うっ、わ、若旦那様……ご無事でしたか。
申し訳ありません……」
「いい、セバス。今は喋るな」
「良かった、回復薬効きましたね。じゃあ、そろそろ……本題に……」
「あぁっ! そうでしたね。私はリディアの……」
ゴクリ……
「兄です」
「へっ!? おっ、お兄様!?」
「……お兄様? は、はい。
リディアは7年前にハートクラン家を出ていって、それ以来会ってなかったので……見つけたとき、つい声をかけてしまい……」
……つい? 兄妹なら自然なことじゃないの?
「なんでリディアはハートクラン家を出ていったんですか?」
「それは……」
アルフはセバスに視線を送る。
セバスは黙ったまま首を横に振った。
「すみません。理由は、お話できません」
怪しい! 絶対に怪しい!
出ていった理由が言えないなんて、コイツらに原因があるに違いない!
「申し訳ないが、リディアと会わせてくれないだろうか? 礼なら必ずします!」
「理由も言えねぇってんじゃ……どうする? ユージ」
「リディアがあなたを嫌がってる以上、協力するわけにはいかないです」
「そう……ですか。そうですよね……。いいんです、いつかリディアが帰ってくる日を待ってます」
怪しい……! だけど、悪い兄ではないのか?
普通、もっと食い下がるよな? うーん、考えても分からんな。
「それじゃあ、私はこれで失礼します。
あっ、ユージさん。リディアは、元気に冒険者をしてますか?」
「あっ、はい。元気にというか、冒険が大好きなんだなって感じですね。昔からそうなんですか?」
「ふふっ、そうですね。リディアは小さい時から魔法が得意で……『私は大きくなったら王宮仕えの魔道士になる!』って言ってきかなかったんですよ」
「笑い方、そっくりですね」
「そうですか? もう一人兄がいるんですが、リディアは私とばかり遊んでいたので、もしかしたら似ているのかもしれませんね」
俺はアルフたちと別れる。礼儀正しい兄は深々とお辞儀をしていた。
「ユージ。アイツ……いい兄貴だったな」
「そうだな。リディア、どうしちゃったんだろうか」
「それは、本人に聞いてみるしかないな」
「それで、その本人はどこに行ったんだ?」
何の手がかりもない俺たちは途方に暮れる。
『ハッ、ハッ、ハッ!』
なんだシロ? そんなに尻尾振ってどうした?
「……あっ」
「シロがいたわ」
次話へ続く




