第67話「さらばニニホン」
──侍の国、ニニホン。港。
俺たちは王都グランシアへ戻るため、港で船に乗る準備をしている。
リディアとは、あれから物凄く気まずい沈黙が続いていた。
いや、分かってる。最低なのは俺だ。記憶がないにしても一夜を共にした女性に直接「昨日の記憶がないんだが?」なんて言ったら怒るに決まってる。
あの後すぐに息子を確認したが、前世であまり経験がなかったせいもあり、よく分からん。
俺は、いや俺たちはしたのか、してないのか……
「──ジ殿? ユージ殿?」
ゲンリュウが俺の肩を叩きながら話しかけてくる。
「えっ? あぁ、ごめん。なに?」
「どうかされましたか? それにその頬の腫れは……?」
「あっ、いや何でもないよ。ちょっとぶつけちゃって。ははは……」
「それに、リディア殿も暗い様子で……」
うるさいよ。黙れゲンリュウ。それ以上ほじくり回すんじゃない。
「それじゃあ、そろそろ行くよ」
「はぁ、わかりました」
俺たちは船に乗り込んでいく。
「では! 私は色々と後始末がありますので、ここで失礼しますが……ユージ殿、本当にありがとうございました!」
ゲンリュウは深々とお辞儀をした。
「ああ! またニニホンに来ることがあったらよろしくな!」
船が港を離れ、ゲンリュウはどんどん小さくなっていく。アイツ、まだ手を振ってるよ。
完全に見えなくなったところで、俺はリディアを見た。
相変わらず下を向いて黙ってる……気まずいよぅ。
「なぁ、リディア。船酔いに効く魔法、かけてくんない?」
「……うるさい」
「あっ、はい。すんません」
◆
──王都グランシア、港。
「おぇぇぇっ! ゲフッ……ううっ……」
「旦那! 着きましたぜ! 旦那ってば!」
「分かった! 分かったから! 揺らさないで……うぷっ!」
俺はふらつきながら、なんとか船を降りていく。
あぁ、地上にいるのにまだ視界が揺れてるよ……
「うっぷ! あぁ……もう船は乗らねぇ……」
「……回復薬」
「……えっ?」
「……回復薬飲んだら少し楽になるよ」
そうなの? 俺は言われるがまま、回復薬を飲んでみる。
「……おぉっ!? 気持ち悪くない! リディア、ありがとう!」
リディアは黙ったままふいっと顔を背ける。
一向に機嫌が治ってくれないな。俺、そんなヒドイことしちゃったの!?
ここでリディアに「俺、なんかした?」なんて聞くのは火にガソリン撒くようなもんだよな……
このままパーティ解散……なんて嫌だな。
「あっ! やっと見つけた!
おーい! ユージ! リディア!」
聞き覚えのある大声に振り返ると、そこにはダイノスの姿があった。
神様、仏様、ダイノス様……! この気まずい雰囲気をドカドカとぶっ壊してくれるのはお前しかいない!
「ってか、ダイノス!? なんでこんなところに?」
「依頼があるから遅れて行くって言ったじゃねぇか!」
「あれ? そうだっけ?」
「……ったく。こちとら依頼中に闘技大会のチラシを見てビックリだぞ! 注目選手としてユージの名前がでかでかと載ってたからな!」
あー、そういえばディーノが「大々的に公表してた」って言ってたな。アイツ、チラシ配ってやがったのか……
「それなのに闘技場に着いたら中止だって!
聞けばユージが魔族を追い払って国の英雄になってるじゃねぇか! お前は話題に事欠かないな!」
久々のダイノスフィルター全開だ! コイツの目に俺はどう映ってるんだよ。まぁ、聞くだけ無駄か……
「んっ? この猿はまさか……これが例の猿獅子ってやつか? 初めて見たぞ……」
「えっ? なんでモモ……猿獅子のこと知ってんの!?」
「知ってるも何も、俺がどんだけお前らを探したと思ってんだよ! 英雄だって言うから、城に行けば分かると思って兵士に聞いたら「英雄様は猿獅子討伐に向かいました」なんて言われるし」
「英雄様!? 俺、王都でそんな風に呼ばれてるのかよ!?」
「国の危機を救ったんだから当然だろ!
でも村に行ったらもう解決済みで、村中で伝説のテイマーの再来だって大騒ぎだし……」
マジですか……。イースでも変な二つ名を付けられてたのね……
「結局入れ違いで王都に戻ったら、今度はニニホンを救いに行きやがった! お前凄すぎだろ!
王都と村を救ってその足で故郷を救うだと!?」
「本当に、そう聞くとめちゃくちゃだね……」
「それで港で待ってたってわけだ!
その様子じゃあ、故郷も無事に救ってきたんだろ? 流石だ……!」
「まぁ、俺は何もしてないんだけどね。魔族と闘ったのもシロとモモ、それにリディアと殿様だし」
「始まったな、お前のその謙遜。ユージに会えたって感じがするな! ハハハッ!」
そう言うとダイノスは俺の背中をバンバンと叩いた。痛い、痛いのよ。力加減考えろよ。
「ふふふっ」
あっ、リディアが笑ってる! 流石ダイノス様だ! 一気にぶっ壊しやがった!
「なぁ、おかしいよなリディア」
「えっ、うん……そうね」
……あれ? まだ雪解けはしてない感じ?
「……リディア? まさか、リディアなのか?」
突然後ろから声をかけられ、振り向くと若い男が立っていた。格好からして、お金持ちっぽい雰囲気だな。
「──ッ!」
「あっ、おいリディア!? どうしたんだ?」
リディアはその男を見るなり、走って逃げ出した。
「……えっ? 誰?」
次話へ続く




