第65話「国を想い、民を想う」
──侍の国、ニニホン。廃村近くの林を抜けた広場。
「なんで魔族が刺さってんの?」
「知らないわよ。アタシに聞かないで」
俺たちは地面から飛び出していた両足をガチガチに縛り、そのままリーガを引き抜いた。
「ガハッ! ゴホッ! 助かった……?
なんなんだよあのバケモノは! クソッ!」
「助かってなどおらぬ」
殿様が、リーガの前に仁王立ちする。その圧に気圧されたのか、リーガはもぞもぞと後ずさる。
「ヒィッ……!」
もはやそこに魔族のオーラは感じられない。コイツはきっと下っ端だ。
「ゲンリュウ。連れて行け」
「はっ!」
ピィィィィィッ!
ゲンリュウが指笛を鳴らすと、どこからともなく忍者が数名現れた。
色々抜けてるけど、こういうところはカッコいいんだよな。
「ヤメロ……俺は……俺はどうなるんだ!?」
忍者に抱えられ、連行されるリーガが尋ねる。
「それは、お主次第じゃ。魔族のこと、洗いざらい吐けば楽に殺してやる。そうでないなら……」
殿様は鋭い眼光でリーガを睨む。
「たしか……ターブだったか。おい、仲間を見せてやれ。“元”仲間をな」
「……は? おい、ターブに何をしやがった!
離せ! 離せよ!」
抵抗して暴れるリーガのみぞおちに忍者の鋭い拳が入ると、大人しくなった。
そのまま死んだターブの方へと連れられていく。
「怖っ」
「ハハハッ! 殿は敵に情け容赦はかけないので」
リーガに一瞥もくれずに、殿様は林へと戻っていった。
「あれ? 殿様? どこ行くの?」
「きっと、民と見廻り衆の元です。我々も行きましょう!」
殿様を追うゲンリュウ。
『グルルルルッ! ガウッ!』
『キキッ!』
シロとモモは相変わらず喧嘩を続けている。コイツらいつまでやってんの?
「お前ら……いい加減にしろ!」
『クゥゥゥン……』
『ウキー……』
俺が一喝すると、急にしおらしくなる二匹。まったく、仲良くしろよな。
俺たちはゲンリュウの後をついていった。
「さすがですユージ殿。魔族を相手にもしないあの二匹を簡単に……」
「いやいや、友だちを怒っただけだから」
「本で見たヤマト様そっくりです」
「えっ? それって大昔ニニホンを救ったとかいう?」
「はい。ヤマト様も従魔を従えていたというより、懐いていたと文献に載っております」
「そうなのか」
「ですから、普段は国に誰も入れない殿も、ユージ殿ならと了承したのです」
「いやいや、それにしちゃあ俺への態度は民と比べて全然違ったぞ?」
ゲンリュウはふっと笑みを浮かべて、続けた。
「殿は……誰よりも民を第一に考えておられるので。そう、自分自身よりも」
そう言うと、ゲンリュウは空を見上げた。
「さぁ、急ぎましょう! 見廻り衆が無事なら良いのですが……」
「あぁ、そうだな。行こう」
◆
──侍の国、ニニホン城。本丸御殿。
「ユージよ。魔族の生け捕り、大義であったぞ!」
「は、はい。ありがとうございます……」
殿様は城に戻ると相変わらずだな。さっきまでカッコよかったのに。
あとね、例によって俺は何もしてないの。魔導銃ぱすぱす撃って力尽きただけだから。
「あの、それで……魔族はどうなるんですかね?」
「もうすでに拷問にかけておる。ニニホンの拷問に耐えられる奴はいない。今ごろ『もう殺してくれ』って懇願しとるわ。ヒッヒッヒッ!」
やめてくれ殿様。もうそれじゃあ悪代官だよ。本当この人は民以外のことになるとポンコツだな……
まぁ、見廻り衆も幸い命に別状はなかったから嬉しいんだろうなきっと。
「して、ユージよ。お主はこれからどうするのじゃ?」
「これから? そうですね、レグシアに戻ろうと思います」
「えっ?」
俺の言葉に、リディアが反応した。
「てっきり、王都に拠点を移すと思ってた」
「やっぱり、俺はあの街が好きだから……それに、みんなの顔が恋しくなってるしな」
リディアは「そう」とだけぽつりと呟くと、下を向いた。
なにそれ? どういう反応なの? まさか王都でジャンジャン討伐依頼をこなそうとしてたのか?
「お主さえ良ければ、ニニホンに住んでも構わぬのだが。戻るというなら留めはせぬ」
「ははは……遠慮しときます」
「そうか……ゲンリュウよ」
「はっ! ユージ殿、こちらをどうぞ」
ゲンリュウは俺の前にスッと重箱を差し出した。
「なにこれ?」
蓋を開けると、そこには金色に輝く小判が十枚ほど入っている。
すげー、本でしか見たことないや。
「えっ、貰っていいんですか!?」
「もちろんじゃ。お主らがおらんかったら、今ごろニニホンは魔族の手に落ちていたかもしれんからの」
「あ、ありがとうございます」
えっ、これ普通に使えるのかな? どうすりゃいいんだ?
俺の困惑顔で何かを察したのか、ゲンリュウが耳元で囁いてきた。
「そのままでは使えないので、鑑定屋に持っていって換金してくださいませ」
「あっ、なるほどね」
「お主たちの働き、見事であった。今後ニニホンを訪れる際は、無条件で入国を許可するぞ」
「いいんですか?」
「もちろんじゃ」
「ユージ殿、さすがでございます! 長い歴史でヤマト様以来のことですよ!」
「は、ははは……ありがとうございます」
多分ヤマト様は実力で救ったんだろうな……
なんか申し訳ないです。
「して、いつ戻るのじゃ?」
「そうですね、明日にでも出発しようと」
「そうか。それじゃあ今夜は馳走を用意しよう。
ゲンリュウよ、みなに触れを出せ」
「はっ! ユージ殿、今夜は国をあげて祝勝会です。楽しみにしておいてくだされ」
えぇっ!? いやいや、そんな大層な……
次話へ続く




