第61話「ニニホンの秘密」
──ニニホン城、本丸御殿。
「それで、魔族はどこにいるんですか?」
俺は、乗り気はしないがひとまず話を進めることにした。この性格悪そうな殿様にゲンリュウが従う理由が分からない。
「魔族は、島の外れにある廃墟を拠点にしておる」
「そこまで分かってるなら攻め込めないのですか?」
「それがそうもいきません」
ゲンリュウが話に割って入る。
「我らニニホンは堅守防衛。攻めに転じれば、城の守りが手薄になってしまうのです」
なるほど。たしかに城を見ても守ることに関しては素晴らしい作りだが、そこに攻めは見えないな。
「でも、守ってばかりだと拠点に魔族が増えていかないか?」
「そこは心配いりません。今ニニホンは移動中ですので発見は難しいかと」
「は? 移動中? どういうことなの?」
ゲンリュウの言ってることがよく分からん。移動中ってなんだよ。国が移動してるってこと? これも妖怪や妖術みたいに何かの表現違いか?
「何じゃゲンリュウよ、天守閣は見せておらぬのか?」
「はっ、一刻も早く殿にお会いをと思い」
「……そうか。よしユージよ、ついてまいれ」
「は、はぁ……」
◆
──ニニホン城、天守閣。
「ここが我が城の天守閣じゃ」
「うわぁ……」
眼下には瓦屋根が整然と並ぶ城下町。
碁盤の目のように区画された町を、人々が忙しそうに行き交っている。
その向こうには黄金色の田畑が広がり、さらに先では青く穏やかな海が島全体を包み込んでいた。
「思ったより広くないんだな」
天守が高いからだろうか。
島の端から端まで見渡せるほどではないが、視界には海岸線がゆるやかな弧を描いている。
ふと目についた一角。そこだけが、妙に暗かった。
海沿いに崩れかけた石造りの建物がいくつも並び、まるで町がそのまま時を止めたように朽ち果てている。
「あれが……」
「はい」
隣に立つゲンリュウが静かに頷く。
「あれが魔族どもの拠点。かつて人々が暮らしていた港町の跡にございます」
潮風が吹き抜け、瓦を優しく鳴らす。
美しい城下町と、不気味な廃墟。
その距離は決して遠くない。
平和と脅威は、同じ島の中で向かい合っていた。
「あそこに一体何人の魔族が……?」
「確認できているだけで二人です」
二人……。人数だけ聞くと大したことなさそうだが、クレイ並みの魔族だったら手の打ちようがないぞ。
「でも一気に攻めてこないってことは──」
「はい。闘技大会で会った魔族よりは格下かと思われます。それでも脅威には変わりありませんが」
だよねぇ……。でも無理に攻め込まないってことは、まさか援軍を待ってるのか?
「なぁゲンリュウ。移動中だから発見できないってどういう意味だったんだ?」
「それは……あちらをご覧ください」
ゲンリュウの指差した先を見る。
俺は海岸線の波の方向に違和感を覚えた。普通波は岸に向かって流れているが、明らかに横向きに波が立っている。
「なにあれ? どういうこと?」
「このニニホンという島そのものが動いております」
「……はい?」
理解が追いつかない。島が船みたいに浮くなんて、まず信じられん。
「ユージ殿。今、『島が浮くわけがない』と思われたでしょう?」
「……なぜ分かった」
「“船みたいに浮く島”があるわけない。まずその固定観念をなくすことです」
……どういうこと?
「そうではなく、“島のように大きな船”。それがニニホンです」
「……ハァ!? これ、船なの!? いやいや、デカすぎだって!」
そんな嘘みたいなことが本当にあるのか!?
いや、そうだとしてこんな馬鹿デカい島をどうやって動かしてるんだ?
「最初からこんなに大きな島ではなかったのです」
「えっ?」
「これは伝承になるのですが、ニニホンは元々、どこにでもあるような普通の村でした」
ハァ!? それがどうしたらこんなことになったの!?
ゲンリュウが言うには、ニニホンという国は小さな侍の集落だったそうだ。
領土争いに巻き込まれて村を追われた侍たちは、家族を連れて海へ飛び出した。
海上で生活していくうちに、増えていく家族のため船を継ぎ足しながら少しずつ大きくしていったらしい。
「いやいや、そうだとしてもこうはならんだろ」
「祖先が海に出たのが、五百年前です」
「ご、五百年間ずっと海上で生活してたの!?」
「補給のために陸に着けることはあったそうですが、陸上での生活はしていません」
マジかよ……。五百年という途方もない年月で少しずつ船を大きくしていった結果がこの島国ってこと? 意味分かんねぇ……
「でも帆も何もないのにどうやってこの馬鹿デカい船を動かしてんの!?」
「動力は魔石です」
「まっ、魔石!? 魔石ってこんな島みたいな船を動かせるの!?」
俺が驚きを隠せずにいると、横からリディアが割って入る。
「そんなの無理よ……船を魔石で動かしてるなんて聞いたことない」
「それは“普通の魔石”の話、ですよね?」
「普通じゃないってことなの?」
「この島を動かしている魔石は、一間四方はあろうかという巨大な魔石にございます」
「一間四方!? ……ってなに?」
「失礼。両手を広げたよりも少し大きいほどです」
両手を広げたくらいか……いや、それでもデカすぎるだろ! 魔核よりも余裕で大きいじゃん。
「そんなに大きな魔石なら、ここからでも見えるのか?」
俺は島中を見渡すもそんな魔石は見当たらない。
「はっはっはっ! 魔石は島の中心、最初の船のあった場所の地下にございます。ここから見ても分かりませんよ」
「あっ、そうなのね……。でもその魔石が壊されたら、この島は動かなくなるんだよな?」
「そうですね」
「なぁ、魔族の狙いってその魔石なんじゃね?」
「なっ!? なんですと!?」
次話へ続く




