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第59話「侍の国」


──侍の国、ニニホン。


 船がゆっくりと港へ近づいていく。


「おお……」


 思わず声が漏れた。

 そこに広がっていたのは、まるで江戸時代にタイムスリップしたかのような街並みだった。


 瓦屋根の建物が整然と立ち並び、軒先には木製の看板や暖簾が揺れている。


 街を行き交う人々は、老若男女問わず皆が着物姿。腰には刀を下げた者も多く、石畳の上では──


 カラン、カラン。


 下駄の軽快な音があちこちから響いていた。


「すげぇ……」


 ちょんまげこそ結っていないものの、この雰囲気はまさに侍の国だ。

 時代劇の撮影所じゃない。本当に江戸時代へ迷い込んでしまったような錯覚さえ覚える。


「ユージ殿。ようこそ、わが国ニニホンへ」


 ゲンリュウが誇らしげに微笑む。


「いやぁ……これは驚いた。ここまで日本っぽいとは思わなかったよ」


 異世界なのに、どこか懐かしい。

 そんな不思議な感覚を胸に、俺は初めてニニホンの地へ足を踏み入れた。


 桟橋へ降り立つと、木の香りと潮風が混ざった空気が鼻をくすぐる。


「ユージの国はこんな感じだったの?」


「うーん、そうだけどちょっと違うかな。

 ここは俺のいた日本の昔の景色って感じかな。

 どちらかと言うと、グランシアの方が近いかも」


「へぇー。ちょっと行ってみたいかも、地球♪」


「……死んだらいけるかもな」


「えっ、それってどういう──」


「しっ! お二方、殿です!」


 と、殿!? 普通城にいるんじゃないの? なんで街に来てんの!?


「ご苦労ゲンリュウ。この者がそうか?」


 この人が殿か。格好はお殿様って感じだけど、やっぱりちょんまげじゃない。なんだか中途半端な江戸時代だな。


「はっ! こちらのユージ殿が妖術使いにございます」


 ……はい? 妖術? 何言ってんの?


「ほうほう。してこの妖怪を従えているのか」


 殿はシロとモモを品定めするように、下から上へと視線を送る。

 そんなことより妖怪って、失礼だな。


「左様でございます。外界では妖怪ではなく魔物と呼んでおるようです」


「その方、ユージと申したか。後ほど城へ来い」


「は、はぁ……」


 なんだか偉そうなおっさんだな。グランシアの王様を少しは見習ったらいいのに。

 殿は従者を連れながら、去っていった。えっ? まさかこのためだけに港まで来たの?


「ユージ殿、お気を悪くなさらないでくださいね。殿は外界を知らぬゆえ、少々性格に難が……」


「……少々?」


「さぁ、せっかくですので! 城へ参るついでに街を見ていってはいかがですか?」


「いいけど……魔族は大丈夫なの?」


「今はまだ、睨み合いが続いている状態ですので。たまに襲撃はありますが、侍が追い払っております」


 侍! しかも魔族を追い払えるほど強いのか!


「強いんだな! 侍!」


「魔族と言ってもピンキリですので。闘技大会にいた魔族は別格ですよ……」


 そうなの!? みんながみんなあの魔族みたいに強くはないのか。良かった。

 んっ? でもアイツ四天王ですらなかったよな?


 うん。考えてもしょうがないな。


「城はこの大通りを真っすぐに行った先にある、あの建物でございます」


 ゲンリュウが指差した先にある馬鹿デカい城。

 そこへ続く城下町には、馬車三台が余裕ですれ違えるほど広い大通りが伸び、その両脇には活気ある店々が立ち並んでいる。


 江戸を思わせる団子茶屋もあれば、魔道具店や冒険者ギルドも目に入る。


「なんだこれ。江戸と異世界が融合してるじゃん」


「凄い……これがニニホン」


 リディアも目を丸くしてる。ここは同じ異世界でも、文化がまったく違う国なんだな。


「ユージ! 報酬は受け取ってるの?」


 リディアはキラキラした目でこちらを見ている。

 そうか、魔道具店があったもんな。


「貰ってるから、ここで山分けするか!」


「やっっったぁ! 新しい杖が買える!」


 闘技大会と農村イースで稼いだ報酬、金貨二百枚をリディアと分けた。

 一人当たり金貨百枚、二千万円だ。これで家が買えるぞ……!


『ワンッ! ワンッ!』


『キャッ! キャッ!』


 えっ? なに? お前らも欲しいの? 金貨あげても使えなくない?


「……分かったよ! 好きなもん食っていいから」


 二匹は、キャッキャしながら喜んでいる。こうやって見るとやっぱり子どもなんだな。喧嘩はめちゃくちゃ怖かったけど。


 それにしても、魔道具店か。非力な俺でもなんか戦闘の役に立つ魔道具とかってないのかな。


 俺は淡い期待を抱きながら魔道具店に入っていく。


「おじさん、これください!」


「はいよ〜。お嬢ちゃんお目が高いね! この杖はニニホンの職人が作った最高級の魔法樹から作られた逸品だよ! 金貨八十枚だが買えるのか?」


「はい、どーぞ」


「毎度あり〜」


 アイツ……もう八十枚使ってやがる。俺も何か買おうかな。

 んっ? これは……


「なぁ、おっちゃん! これって──」


「おっ! 兄ちゃんも良いモンに目をつけたな!

 そいつは最新の護衛用ピストルだ」


「ピストル! これなら闘えそうだ!」


「だが、ちと高いぜ? どうする?」


 うーん、金貨二十枚……家は少し遠のくが背に腹は代えられないか。


「……買った!」


「あいよ!」


 俺はついに念願の火力を手に入れたぞ。これで魔物を遠くから倒して、経験値を稼いで、一気にレベルアップだ!

 全然上がらない運以外の能力を、レベルで無理矢理上げまくってやる……!


「ユージ、なんか嬉しそうね」


「ふふふっ、まーな! もう戦闘で足を引っ張ることはないぞ!」


「えっ、あ、うん」


 あっ、コイツ信じてねーな。このやろう。




 次話へ続く

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