第58話「故郷ニニホン」
──王都グランシア、王城。謁見の間、前。
「異世界から転生って、何の冗談なの?」
「冗談じゃないって! こことは別の惑星、地球から転生してきたんだ」
「ハァ!? アナタ、いつも意味わかんないけど、こればっかりは本当に意味不明よ?」
だよなぁ。いきなり「転生してきました」なんて言っても信じてもらえるわけないよな。
「……じゃあ何? ニニホンは本当の故郷じゃないってことなの?」
「えっ? 信じてくれるのか?」
「信じられないけど、アナタは嘘をつかないってことは知ってるから」
「リディア……」
「それで? どうするの? ゲンリュウって人が来たら、さすがにバレるでしょ?」
「そうなんだよ……どうしようか。いっそのこと王様に本当のこと話すか?」
「そんなことしたら──」
「おや? お二方、どうしてここに?」
俺の背後に聞こえた声に振り返ると、そこにはディーノとともにゲンリュウの姿があった。
もう見つけてきたの? 仕事が早すぎるよ。
「早速連れてきましたぞ。さぁ、中へどうぞ」
えっ、もう!? ちょっと待って、まだ作戦会議が終わってないから!
◆
──王都グランシア、王城。謁見の間。
「王よ、連れてまいりました」
「早かったな、ディーノよ」
いや、本当に。早すぎるよディーノさん。
「いやなに、ゲンリュウ殿が『ユージ殿はどちらにおられる?』と探しておりましてな」
「えっ? 俺を探してた?」
すると、ゲンリュウは突然俺に向かって土下座を始めた。なにこれ、どういう状況?
「ユージ殿! 恥を承知でお願いいたします!
わが国ニニホンへともに来てほしい! そして魔族の脅威から救ってくださいませぬか!」
「……はい?」
「ゲンリュウよ。救うも何も、ニニホンはユージの故郷じゃ。当然戻るぞ。なぁユージよ」
「は、はぁ……」
「……故郷?」
「どうしたんじゃ?」
「いっいえ! ユージ殿! ともに故郷を救いましょう!」
んん? ゲンリュウ、なぜ本当のことを言わないの?
「港に船をつけております。すぐに出発いたしましょう」
早い、早い! 話が早いって!
「ではユージよ、行ってまいれ!」
おいぃぃぃぃぃっ!
◆
──王都グランシア、港。
俺は、あれよあれよという間に船に乗り込んでいた。
「なぁ、ゲンリュウ。なんで──」
「良いのです。なにか事情があったのでしょう?」
えっ?
「私としては、国を救える人材を探すために出た闘技大会でユージ殿を見つけた時から、必ず連れて行くと決めておりましたので」
そういうことね。
「ごめんな。勘違いで始まったことだけど、国の名を勝手に使っちゃって」
「構いません。むしろ、国を救ってくださるのなら、ニニホンを故郷と思っていただけるだけで光栄です」
おぉっ……懐が深いな。ちょんまげこそないけど、着物といい、腰に下げた刀といい、まるで侍なんだよな。
それに鎖国国家ときたもんだ。江戸時代風の国が容易に想像できるな。
「それでは、船を出しますね。おーい! 出港するぞ!」
錨を上げ、船が出ようとしたその時──
港が突然、ざわめきだした。
「なんだあれ……なにか来る?」
港町の屋根伝いに、太陽光を反射して金色に輝くモモがやってきた。
「モモ!? 何してんのアイツ……」
大きくジャンプをし、くるくると回転しながら船に着地した。衝撃で船が大きく揺れる。
「なに? お前も行きたいの?」
『ウキャ!』
ウキャ! じゃないのよ。何のために呼笛をもらったんだよ……
呼んでないのに来るなよ。
『グルルルルッ……!』
『キシャァァッ……!』
「おいおい、やめろよ? ここで喧嘩するなら二人とも置いていくぞ?」
『クゥゥゥン……』
『キャッ……』
コイツラ……。仲いいのか悪いのか分からん。
「ユージ殿? この猿は一体……」
「あぁ、コイツはこの間知り合ってね。
その……猿じゃなくて、猿獅子なんだけど」
「は!? え、猿獅子!? フェンリルだけじゃなくて、猿獅子も従魔に!?」
「いやいや、従魔じゃなくて……」
このやり取り面倒くさいな。もういいか従魔で。
「いやはやなんとも……凄いですな」
◆
──沖合い。
船で揺られて二時間が経った。いまだにニニホンどころか島一つ見えてこない。
シロとモモは、最初こそ初めて見る海にテンションが上がっていたが、変わらぬ景色に飽きたのか、ずっと寝ている。
そして俺は、魚にエサをあげ続けていた。
「おえ〜っ!」
「だ、大丈夫? アナタ、出発してからずっと吐いてるけど……」
「大丈夫じゃないだろ、どう見ても……おえっ!
なぁリディア、船酔いに効く魔法ないの?」
「そんな都合がいい魔法あるわけないでしょ!」
だよねぇ……。なんでリディアは平気なんだよ。
お前も海は初めてって言ってたよな? んっ?
「リディア……なんかお前、浮いてない?」
「えっ? そう?」
よく見ると、リディアはほんの少しだけ浮き上がり船の揺れを受けていなかった。
「まさか……風魔法か?」
「……なによ? なんか文句あるわけ?」
「大ありだよ! 俺にもかけろよな! なんで自分だけ浮いてんだよ!」
「魔力制御が大変なの! 一人が限界よ!」
「だったら、俺にかけやがれ!」
俺はリディアの腕を掴み、無理矢理船の床へ引きずり下ろした。
「ちょっと! やめてよ!」
「お二方は仲がよろしいですな!」
「「どこがだよ!」」
「ハハハッ! 息もぴったりだ! ほら、見てください! ニニホンが見えましたよ!」
ゲンリュウが指差す方へ視線を向けると、遠くの方に島が見えてきた。
「おおっ! まだ遠いけど、たしかに見えるな!」
「ようこそニニホンへ! 救世主様!」
救世主はやめろよ! 恥ずかしいだろ!
次話へ続く




