第56話「村と猿と護り神」
──王都グランシア、寂れた農村。
「おぉっ……まさか猿獅子様と話せる日が来ようとは。長生きはするもんじゃの……」
村長は感動のあまり泣いていた。どうやら猿獅子が話せることを知らなかったみたいだ。
ていうか、話せるなら最初からそうしてくれたらシロたちが喧嘩せずに済んだんじゃ……
「グスッ、この村イースには昔からの言い伝えが……あってじゃな……グスッ」
泣くなよじいさん。いい年して。
村長の長い話を要約すると、この村は毎年猿獅子の住む森にお供え物をして、魔物の脅威から守ってもらっていたそうだ。
そして、猿獅子の子どもが生まれてからは、子どもが興味本位で村を訪れては農作物を荒らしていたと。
「子どもには困っていた。だが守ってもらっている手前、下手に手を出せなかったってことか」
「そういうことじゃ……」
そもそも子どもであの強さなら、手を出したところでだな。
『マサカ村ヲ荒シテイタトハ。スマナイ』
子どもの悪さで親が謝るのは人間も魔物も同じか。まさか、あんなに恐ろしい猿獅子が人間に頭を下げるなんて……。
「じゃあもう村を荒らすことはないのか?」
『アァ。ヨク言イ聞カセル。心配ナイ』
「良かったなじいさん! もう大丈夫だって」
「あぁ……。あなた方にはなんとお礼を言うべきか……」
よせって。俺は何もしてないから。
『ソノ代ワリト言ウカ……ソノ……』
「何だよ。言いづらそうに……」
嫌な予感しかしないんだが。
『マタ、子ドモト遊ンデヤッテクレナイカ?』
猿獅子はシロを見ながら尋ねた。……遊ぶ?
えっ、あれ遊んでたの?
『わぅふ!』
『オォ……スマナイ。アリガトウ、フェンリルノ子ヨ……』
会話が成立してる。猿獅子は魔物の言葉を理解できるのか。
「なぁ、アンタの子どもも人間と話せるのか?」
『マダ話セカイガ、理解ハシテイルハズダ』
「そうか……」
話せないのか。残念だ。
「猿獅子を通してシロの言葉が分かるかと思ったのにな……」
「いや、アンタたちは言葉が通じてなくても分かりあってると思うわよ?」
「……そうかぁ?」
シロは俺の言葉を理解してくれてるだろうが、俺はあんまり分かんないんだよな。
スキル“言語理解”も対人間だけだし……
「こうなったら、猿獅子の子どもに言葉を教えるか……」
「ちょっとアンタ何考えてんの!?」
「なぁ。アイツには名前ないのか? 猿獅子の子どもって長くて。普段はなんて呼んでるんだ?」
『名前……私タチニ名前ハナイ』
「えっ!? 名前ないの!?」
『ソウダ、オマエガ息子ニ名前ヲツケテクレ。
フェンリルヲ従エル強キ者ヨ』
えっ!? 勘違いって人間だけじゃないの!?
まさか猿獅子も俺が強いって思ってるの!?
「お、俺は強くなんかないよ!?」
『強サトハ、力ガ全テデハナイ。オマエニハ周リヲ惹キツケル何カガアル』
「は、はぁ……」
『ソレデ、名ハ何ニスル?』
うーん。難しいなぁ。名前なんてペットにしかつけたことないからな。
「じゃあ……モモでどうだ?」
『モモ……イイ名ダ』
「アンタそれ、猿獅子のお尻の色じゃないの?」
「いいだろ? シロだって毛の色なんだから」
「適当すぎるのよ!」
「猿獅子だって『イイ名ダ』って言ってんだから大丈夫だよ」
だが、肝心のモモ本人が拗ねて森に帰っちゃったからな……。
「じゃあ俺たちは王様に報告に行くから、モモによろしくって伝えといてくれ!」
『アァ、伝エル。ソレト、コレヲオマエニ渡シテオク』
そう言ってモモの母ちゃんが俺にくれたのは木で出来た笛のような物だ。
「……なにこれ? 笛?」
「そっ、それは猿獅子の呼笛……!」
村長が目を見開きながら俺の手を覗き込む。
「呼笛? なにそれ?」
「我々も伝承でしか聞いてないが、大昔にいた伝説のテイマーがこの笛で猿獅子様を呼び国を救ったとされておる」
「……マジ? こんなの貰っていいのか?」
『オマエハ、アヤツト同ジ匂イガスル』
あやつ? 伝説のテイマーのことか?
俺、テイマーじゃないんだけどな。
『マタ会オウ。強キ者ヨ』
ドシンッ……。
ドシンッ……。
「行っちゃった……」
「なんかまた勘違いされたな。テイマーだってよ。笑えるな」
「全っ然笑えないんだけど!? あとアナタ、テイマーとしての自覚ないの!?」
「なんで!? テイムしたことなくない!?」
「ワイバーンにフェンリルに猿獅子……普通に一国を潰せる戦力を仲間にしといてそりゃないわよ」
「ハァ!? 国を潰す!? そんなことしないし、仲良くなっただけだからアイツらは」
「アナタはそうかもしれないけど、周りはそうは思わないでしょうね……」
平和に暮らしたいだけなのに、どうしてこんな事に……
「とりあえず、王様のところへ報告に行きましょ」
「あぁ……」
村人たちに別れを告げて、王城へ向かう。
リディアが変なことを言うからめちゃくちゃ行きたくないんだが。
嫌な予感しかしない……
次話へ続く




