第52話「子猿と侮るなかれ」
──王都グランシア、王城。謁見の間。
「して、どうじゃ? この依頼、受けてくれるのか?」
ズルいぞ王様。先に褒美を与えてから討伐依頼だと? コイツ、なかなかの策士だな。
「い、依頼となりますと、仲間の意見も聞かないと何とも……」
「仲間の意見か。たしかにな……ディーノよ」
「はっ! お仲間は王城にて待機しておりますのですぐにお呼びいたします」
ははっ。仕事が早ぇな、ディーノよ……
そもそもこの依頼を受けさせるためにリディアも招待してたのか? 一体どこから王様の手のひらの上だったんだ?
「……さすがですね」
「ホッホッホ。なんのことかな?」
このたぬきオヤジめ……営業時代にもいたなー。
優しい笑顔の上客かと思ってたらいつの間にか値下げ交渉に持ち込まれてるあの感覚だ……。
◆
「お連れしました!」
兵士に連れられて、リディアが謁見の間に入ってきた。うん、非常に困惑してるね。俺の気持ちを味わいやがれ。
俺の隣に立つなり、袖を引っ張ってきた。
そして、小声で文句を言ってくる。
「ちょっと! どういうことよ!? なんでアタシが呼ばれるわけ!?」
「しょうがないだろ! いつの間にか依頼の話になったんだから!」
「なんでそんなことになるのよ!? ちょっと話すだけじゃなかったの!?」
「俺だって話して終わりって思ってたよ!
でも褒美も貰っちゃったし、受けるしかないじゃん!」
「だからって……そもそもなんの依頼なの?」
「なんか猿獅子を倒すとかなんとか──」
「猿獅子!? バカなんじゃないの!? そんなの無理に決まってるじゃない!」
「でも子どもって言ってたぞ?」
「子どもだったらなによ!? アナタ、シロに勝てるの!? 猿獅子はフェンリルと同じSランクなのよ!?」
「──ゴホンッ! 話を進めてもよいかな?」
俺とリディアは背筋をピンと伸ばし、話に戻る。
「どうじゃ? 依頼内容は、なんとなく分かったようじゃが……」
「あのっ、王様……! いくらなんでも猿獅子の討伐は無謀だと思うのですが……」
リディアはいつになく丁寧に話してる。コイツ、こんなふうにも話せたのか?
「だからこそじゃ。なにも闘って死ねとは言っておらん。この国の英雄ならあるいはと思っただけじゃ。対峙して無理だと判断しても誰も責めん」
「それでしたら……いや、しかし……」
「ふむ……なんとも煮え切らんのう」
「わかりました。この依頼、お受けします。ですが、無理だと判断したら──」
「その時は農村は捨てる。村民には王都に移り住んでもらうとする」
なんだ。王様は最初から移住も考えてたんじゃないか。つまり、ダメ元の依頼ってわけだな……
「なぁリディア。早々に諦めて──」
「そんなことはしない。やるだけやりましょ」
えっ? 急にやる気だしてどうしたんだ?
「ところでそなた、名前はなんと言う?」
「……リディアです」
「リディアか……はて。どこかで会ったことがあるかの?」
「いえ……闘技場にいましたので、その時ではないでしょうか?」
「そうか。ふむ……まぁよい。では、頼んだぞユージ。そしてリディアよ」
◆
──王都グランシアの外れ、寂れた農村。
王都を出て一日。
街道を外れた先にあった村は、思っていた以上に寂れていた。
木造の家々はあちこち傷み、屋根には穴を板で塞いだ跡が目立つ。
畑へ目を向けると、収穫間近だったであろう野菜は無残に踏み荒らされ、引き抜かれた作物がそこら中へ転がっていた。
柵は何かに体当たりでもされたのか、大きくひしゃげている。
「……ひでぇな」
畑仕事をしている村人はほとんどいない。
皆、家の前でため息をついたり、壊れた柵を黙々と修理したりするばかりだった。
子どもたちの笑い声も聞こえない。
聞こえてくるのは、風に揺れる草木の音と、どこか重苦しい空気だけ。
「これ全部……猿獅子の仕業なのか?」
「どうだろう。村の人に話を聞いてみましょ」
俺たちは、畑で売り物にならなくなった野菜を集めている年配の女性に話しかける。
「あのー、少しお話を聞いてもいいですか?」
「……見ない顔だね。どうしたんだい? こんな何もない村に」
女性の顔は、疲れと焦燥感からかなりやつれている。
「畑がひどいことになってますけど……この野菜はどうするんですか?」
「……傷物の野菜は売れないし、食べると病気になるかもしれないからね。悲しいけど、全部捨てるのさね」
「そんな……これ全部、猿獅子のしわざですか?」
「……さぁね。わたしにゃあ分からんよ」
んっ? 分からない? 王都では把握しているのに本人たちは知らないのか?
その後何人かの被害者に話を聞くも、みんな口を揃えたかのように「知らない」、「分からない」とくり返すばかりだった。
「ちょっと、ユージ」
「あぁ、分かってる。この村、なにかおかしい」
「みんな何かを庇ってる? それとも本当に知らないの?」
「どうだろうな……」
とは言ったものの、村人は嘘をついてる。あの目は、仕事で起きたミスを隠す時の目だ。
ただ、一体なんのために? なんかちょっと怖くなってきたな。
「あんたら、村中を嗅ぎ回って何をしとるんだ?」
振り返ると、小柄なおじいさんが杖をつきながら俺たちを睨んでいた。
「あなたは?」
「ここで村長をやっとる。そんなことはええ。
何しにこの村にきたんだ?」
「あのっ! アタシたちはこの村を救いに来ました! 国から猿獅子討伐依頼を受けてやってきた冒険者です!」
「……討伐だと?」
村長の顔に、緊張が走る。
「……猿獅子様を?」
は? 今なんて言った? 猿獅子“様”?
次話へ続く




