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第51話「謁見」


──王都グランシア、王城。


「はへー、なんだこりゃ」


 思わず口が開いた。

 目の前にそびえ立つ王城は、まるで山そのものだった。


 白い石で積み上げられた城壁は何十メートルもの高さがあり、等間隔に並ぶ塔の先には、グランシア王国の紋章が描かれた旗が風を受けてはためいている。


 巨大な正門は人が何十人と並んでも余裕で通れそうなほど大きく、その両脇には全身を銀色の鎧で包んだ衛兵が微動だにせず立っていた。


 門をくぐると、磨き上げられた白い石畳が真っすぐ城へと続いている。


 左右には色とりどりの花々が咲き誇る庭園。噴水の水音が静かに響き、手入れの行き届いた芝生には一枚の落ち葉すら見当たらない。


 城内へ足を踏み入れると、さらに息を呑んだ。

 赤い絨毯が奥まで真っすぐ伸び、見上げるほど高い天井には豪華なシャンデリアが幾つも吊り下げられている。


 壁には歴代の王たちの肖像画や巨大なタペストリーが飾られ、窓から差し込む朝日が白い大理石の床を眩しく照らしていた。


「これ……掃除する人、大変だろうな……」


「はっはっはっ! たしかに、メイドは常時二十人。庭師だけでも五人働いとりますぞ」


 ディーノが俺の声に反応する。ヤベッ、聞こえてたのかよ。


「それより、シロも連れてきちゃって良かったんですか?」


「もちろんですとも。シロ様も、わが国の英雄のお一人ですから」


 シロが「ふふん」と鼻を高くしている。そんなに嬉しいのか。


「ねぇ、ちょっとユージ!」


 リディアが俺の袖を引っ張る。


「なんだよ?」


「どう考えてもアタシは場違いでしょ! なんで一緒に行かなきゃいけないのよ!」


「なんだよ。パーティなんだから当然だろ?」


「あの、それがユージ様……」


 んっ? なんだよディーノ。そんなモゴモゴと。


「リディア様は謁見の間には入れないです……」


「えっ!? そうなの!?」


「ほらね、だから言ったでしょ!」


「いや、しかし。大事なお客様の一人ですので、どうぞその間王城でおくつろぎくださいませ」


 リディアは足を止め、表情がこわばる。


「こんな物々しい王城で、どうやってくつろぐのよ……」



◆



──王都グランシア、王城。謁見の間。


 重厚な扉が開く。


「うわっ……」


 思わず息を呑んだ。


 左右には近衛兵と貴族たちがずらりと並び、その全員の視線が一斉に俺へ向けられる。


 誰も喋らない。

 静かすぎて、俺の足音だけがやけに大きく聞こえた。


 うわー。みんなこっち見てるよ……って、そりゃそうか。なんでシロはこんなに堂々と歩いてんの!?

 あっ、闘って得た名声と運だけの俺との違いだ。


 緊張で歩き方がぎこちないのが自分でもわかる。

 ふと視線を上げた。その先、一段高い玉座にはアルヴェリオ三世が堂々と腰掛けている。


 闘技場の時とはまた違う。

 これぞ王様! って感じだな。


 ディーノが立ち止まったので、俺も同じように止まる。そして会釈をし、左右に作られた列に混じっていく。


 ──静寂。


 えっ……これ、どうしたらいいの? 取り残された俺は、威厳漂う王様の前でソワソワとしていた。


「──ユージよ」


「えっ? あっ、はい」


「田舎から出てきたと聞いておる。そう硬くならずともよいぞ」


「は、はぁ……」


 いや、無理だろ? ここで「いやー王様お疲れ!」なんてできるかよ。


「ふふっ、まぁよい。そなたが傍若無人な冒険者じゃなくて良かった」


 そう言うと、王様は席を立ち、俺に向けて頭を下げた。


「今回は本当にありがとう。そなたのお陰で、国は救われた」


「いやいや、頭を上げてくださいよ!」


 左右に並ぶ貴族や側近たちがざわめきだす。

 一国の王がたかだか冒険者一人に対して頭を下げたんだ。そりゃ大ごとになるよ。


「……そなたは、『この国の英雄だ』と偉そうに振る舞うのか?」


「いやいや、そんなことはしませんって!」


「ふふっ、だからだよ。私は人を見る目はたしかなのだ。そなたからはそんな空気を感じない」


 うーん。たしかにそんなことはしないけど、人を見る目はないぞ? 俺は英雄になれる実力がないからな。


「して、今回の褒美なのだが……」


「へっ? ほ、褒美?」


「領地を与え、貴族としての地位を──」


「いやいやいやいや! そんなの無理です!」


 再び、謁見の間がざわめきだした。そんなの無理だよ。領地経営なんて、ド素人の俺に務まるわけないじゃん!


「ユ、ユージ様……王の話を遮るのは……」


 ディーノが耳打ちをしてきた。あっ、そっち!?

 遮ったらダメなヤツなの!?


「ふむ……そうか。領地と地位はいらぬと申すか」


 あれ? 怒ってない?

 なんだよディーノ。ビックリさせやがって。


「それなら、欲しいものを申してみよ」


 えぇーっ!? むっず!

 どのラインまで大丈夫なんだよ……


「じ、じゃあ、小さな家を建てるお金がほしいなーなんて……あっ、ごめんなさい! やっぱり──」


「ほう。そんなことでいいのか。ディーノよ」


「はっ! すぐに用意いたします!」


 えっ? いいの!? マジかよ……

 あれ? これ人生ゴールじゃね? もう怖い討伐依頼なんてこなさなくていいじゃん!


「あ、ありがとう……ございます」


「はっはっはっ。かまわんよ。して、ここからが本題なのだが……」


 んっ? 本題?


「最近国の外れにある農村に猿獅子の子どもによる被害が出ていての……」


 えっ? 猿獅子? なにそれ?


「ユージよ、その農村を救ってくれんかの?」


「えっ? 国に討伐隊みたいなものはないんですか?」


 再び、謁見の間がざわめきだした。なんだよ。これは普通の質問だろうが。


「ユージよ。そなたなら容易かろうが、猿獅子の成体はSランクじゃ。子どもとて人間にはどうすることも出来ん」


 ……俺も人間なんだが?




 次話へ続く

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