第50話「英雄」
──王都グランシア、闘技場。
鳴り止まない声援と拍手。このすべてが、俺とシロに向けられている。
こんな大歓声、人生で初めてだ。どうしたらいいか分からん。
「ユージさん! なにやってんすか! せっかく声援もらってんだから、手でも挙げて応えてやってくださいよ!」
マジェルカはニヤニヤと笑いながら言ってきた。
いや、無理だよ。恥ずかしすぎる。
シロだって……あっ! 胸張ってちょっと誇らしそうにしてる!
「ほら! シロ君は分かってるじゃないっすか!」
「は、ははは……」
俺は言われるがまま、恐る恐る手を挙げる。
【さぁみなさんっ! 王都の……いや、この国グランシアの新たな英雄の誕生に、いま一度大きな拍手をっ!】
ワアァァァァァァッ──!
「──静粛に!」
特別席からの兵士の声に、闘技場内の声援が止む。兵士が一歩下がり、王様が前に立つ。
「冒険者ユージよ。大義であった」
一言。それだけで闘技場に静寂が落ちる。
あの王様も、判断こそ間違えたが間違いなく国民のために動いていた。
アンタこそ、国民のためによくやってたよ。
「すげぇ……アンタやっぱすげぇよユージさん!
王様に名前覚えてもらえてる冒険者なんてグランシアにも数えるほどしかいないんじゃないか!?」
「それに、リューズ。そしてディーノも。
よくぞ魔族に立ち向かってくれた。感謝する」
いつの間にか目を覚まして、壁にもたれ掛かるように座っていたリューズは深く溜め息をつく。
「ふんっ、俺は無様にやられただけだ……」
リューズは俺に視線を向けた。
「まさかあのBランクにしてやられるとはな……」
……パチ、パチ……パチパチ
誰ともなく始まった拍手が、徐々に大きくなっていく。みんな、リューズとディーノの闘いを目の前で見ている。
やられはしたが、その勇姿は目に焼き付いていたんだろう。
王様が手を挙げると、拍手がピタリと止む。すげぇな。ただのおじいちゃんかと思ってたのに、こうやって見ると王様にしか見えねぇや。
「不測の事態により、今大会は中止とする!
しかしだ。必ずや後日再び開催する。その時はユージよ、また参加してくれるかの?」
会場中の視線が俺に向けられている。待ってましたと言わんばかりに、実況がマイクを向けてきた。
「……はい。その時は必ずや」
ワアァァァァァァッ!
中止となった闘技大会はブーイングに包まれるどころか、この日一番の盛り上がりを見せて終了した。
王様の側近が明日の朝にヤマイヌ亭まで迎えに来るとの伝言を残して闘技場をあとにしていった。
そうだった。元々王様に会いにこの国にきたんだった。
なにがどう間違って魔族に殺されかけたんだよ……
闘技場の出口でリディアと合流し、ヤマイヌ亭へと向かう。
「ユージ。なんであんな無茶な闘いを挑んだのよ!? バカじゃないの!?」
「成り行きでそうなっちゃったんだよ!
俺だってこんなことになるなんて思ってねぇよ!」
言い方こそトゲトゲしかったが、リディアの目にはうっすらと光るものが見えた。
相当心配かけたんだな。ごめんな。
「リディアも、ありがとな」
「なによ、アタシはなにもしてないわよ」
……いいんだ。ちゃんと守ろうとしてくれた。
それだけでお前がいい奴って伝わってるよ。
◆
──王都グランシア、ヤマイヌ亭。
帰ってきた。回復薬じゃ傷は治せても、疲れまでは取れない。
ヤマイヌ亭に入った瞬間、どっと身体が重くなった。
「あら! おかえりなさいな! 大変だったねぇ」
「おばちゃん、ただいま」
ディーノがとってくれた宿屋がここで良かった。
下手なホテルなんかより、こうやって温かく出迎えてくれるヤマイヌ亭が「帰ってきた」って思わせてくれる。
「アンタ、凄い冒険者だったんだねぇ。人は見かけによらないね」
「ははは……」
あれ? なんでもう知られてるの?
いや、見かけによらないってなんだよ。失礼だな。前言撤回するぞ。
「約束通り、腕によりをかけて晩ごはんを作ってるよ! 疲れただろう? 早く食べな!」
「マジで!? お腹ペコペコだよ!」
食堂へ入った瞬間、香ばしい匂いが鼻をくすぐった。
テーブルいっぱいに並んでいたのは、こんがり焼き上げられた肉のソテー。肉汁がじゅわりと溢れ、横には湯気を立てる山盛りのマッシュポテトが添えられている。
籠には焼きたてのパンが積まれ、香草をたっぷり使った野菜スープからは優しい湯気が立ち上っていた。
色鮮やかなサラダに、甘酸っぱい果実のソース。
そして締めには、大きな果物を丸ごと使った手作りのタルトまで並んでいる。
「お、おぉ……」
思わず言葉を失った。
「今日はサービスだからね! アンタはこの国の英雄なんだから、これくらい当たり前さ!」
「英雄って……」
いやいや、そんな大げさな。
けど──
「いただきます!」
一口目の肉を頬張った瞬間、思わず目を見開いた。
「うっま!!」
表面は香ばしく、中は驚くほど柔らかい。噛むたびに肉汁が溢れ、香草の香りが鼻へ抜けていく。
「だろう? 今日は朝から仕込んだからね!」
スープを飲めば、疲れ切った身体に温かさがじんわりと染み渡る。
「……生き返る」
「生き返るって……大げさよ」
リディアは目を細めながら、パンを頬張る。
シロの前にも、同じ料理が並べられていた。
ガツガツガツ──
「ハハハッ! 慌てなくても、全部アンタのご飯だよ!」
気づけば、全員が笑っていた。
次話へ続く




