↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
49/87

第49話「救世主」


──王都グランシア、闘技場。


「さっきまでの威勢はどこにいったんですか?」


「グッ! ガハッ……!」


 クレイは俺の襟元を掴み、軽々と持ち上げている。くっ、苦しい……

 クソッ! どう足掻いても俺なんかが勝てる相手じゃない。


 ……ガシッ! ……ガシッ!


 俺は力なくクレイを蹴る。動く度に締め付けが強くなり、今にも意識が飛びそうだ。


「せっかくメインにしてあげたのに、正直がっかりですね」


 クレイが俺を投げ捨てると、倒れていたシロの側まで飛んでいった。


「ガハッ!」


 痛え……身体中痛えよ……もう、動けねえ。


『グッ……グルルッ……!』


 シロは意識も定かでないまま震える足で起き上がり、クレイを睨みつける。


「はぁ……その子を少しは見習いなさい。貴方のために、死にかけでも起き上がってるじゃないですか」


「シ、シロ……やめろ……」


 俺は力の入らない腕で必死に身体を起こし、シロに覆いかぶさるように抱きついた。


「もういい。もういいから、死ぬな」


「おぉっ! なんと美しい! その愛に免じて二人一緒に殺してさしあげますよ!」


 クレイは手のひらに火球を作り出し、ゆっくりと近付いてくる。


 あっ……これは完全に終わったな。俺はシロを思い切り抱きしめ、目を閉じた。

 リディアが俺の名前を叫ぶ声が聞こえる。お前だけでも逃げてくれよな……


 その時──


『ガオォォォォォォッ!』


 闘技場の外からとんでもない咆哮が上がった。

 会場全体が揺れている。ゆっくりと目を開くと地面の石がカタカタと震え出した。


「な、なんだ……?」


 視線を空へ向けると、逆光の中に黒いシルエットが浮かび上がる。

 そのシルエットは徐々に大きくなり、闘技場に降り立った。


 ドォォォォォンッ!!


 砂煙の中から姿を現したのは、雪のように白い巨狼。

 全身を覆う毛先は蒼く輝き、その黄金の双眸は王者の風格を宿していた。


『アォォォォォォォンッ!』


 その遠吠えは闘技場内の空間そのものを揺らし、脇で見ていた選手たちが一斉に腰を抜かした。

 観客席で怯えていた観客たちがバタバタと失神している。


「は、ははは……シロ! 母ちゃんが来てくれたぞ!」


『わぅ……クゥゥゥン……』


 シロは安心したのか、地面に倒れ込み再び意識を失った。待ってろ、今回復薬を……


「フェンリルの成体……! 私も初めて見ましたよ。これは……格が違う……!」


 クレイは笑顔を浮かべているが、その頬には汗が伝っていた。


 そして──


『ギャァァァッ! ギャオォォォォォッ!』


 逆光で姿は見えない。だが、その上空には二匹のワイバーンが悠然と翼を広げていた。


 クレイが一瞬だけ空を見上げた。


「なんと、ワイバーンまでも……これは、なかなかマズイですね」


 おぉ、ワイバーンも来てくれたのか。よし、クレイが気を取られてる隙に……


「マ、マジェルカ……」


 俺のか細い声に気付いてくれたマジェルカがそっと近付いてくる。


「ユージさん! 大丈夫ですか!?」


「……大丈夫に見える? それよりも、俺の鞄から回復薬を持ってきてくれないか? もう動けなくて……」


「──っ! 了解っす!」


 マジェルカがそそくさと会場をあとにする。クレイはその姿を目で追うが、動けない。

 それもそのはずだ。ジリジリとシロの母ちゃんが詰め寄っている。


「クッ! これも貴方が呼んだんですか?

 フェンリルの成体にワイバーン……さては本気を見せていなかったのですね……!」


 何言ってんの? 本気も本気。俺はお前に手も足も出ねぇよ。


「……いいでしょう。ここはいったん引かせてもらいます」


 えっ? マ、マジすか?


「私は、魔王軍四天王ロズワール様直属第一部隊長、クレイと申します。

 貴方とはまたいつか会えるでしょう。どうぞよろしく」


「は、はぁ……」


「それでは、失礼します」


 クレイが翼を丸め、身体を包み込むと、紫色に渦巻きながらその姿は消えてしまった。

 なにあれ? 瞬間移動?


 っていうか、魔王軍だ四天王だって話が大きくなってない? あの強さで四天王ですらないの?


「これ、人間じゃあ勝てないじゃん」


「ユージさん! 回復薬っす!」


 マジェルカが身を潜めながら戻ってきた。


「どうぞ! ……って、あれ? 魔族は?」


「なんか、帰ってっちゃったよ」


「か、帰った!? じゃあ助かったんすか?

 や、やったぁぁぁっ!」


 マジェルカが思い切り抱きついてきた。痛いから。身体中ボロボロだから。早く回復薬よこせ。


 俺は回復薬を受け取ると、シロへ飲ませた。


 ──パアァァァァッ!


『わぅふ!』


 はははっ。いつもの調子に戻ったな。俺はもう一本をぐいっと飲み干し、ようやく息をつく。


「ふぅ。シロ、ありがとな。カッコよかったぞ!」


 俺はシロをわしわしと撫でる。


『わぅふ! クゥゥゥン……』


 甘えてきやがって! 可愛いなぁ。

 シロと戯れていると、母ちゃんがのしのしと近付いてきた。

 その目は、我が子を心配してるようにも見えるが、明らかに俺へ向けて怒りが滲んでいる。


「そうだよな……。シロの母ちゃん、子どもを危険な目に合わせちゃってごめんな」


 シロの母ちゃんは「分かればいいんだ」と言わんばかりにぷいっとする。

 そして、シロとなにやらやり取りをして闘技場をひとっ飛びで出ていった。


 上空にいたワイバーンも、もう大丈夫だと判断したのか『グワッ!』と一言だけ残して飛び去っていく。


「ようやく、終わったな……」


 俺は疲れて地面に座り込むと、観客席からは割れんばかりの拍手が巻き起こった。


 ──ワァァァァァッ!


「ありがとう! ありがとう!」

「救世主様だ!」

「シロちゃーん! こっち見てー!」


 物凄い大歓声に包まれながら、シロを撫でる。


「良かったな、シロ! 救世主だってよ!」


「何言ってんすか! 救世主はユージさん、アンタでしょ!」


 えっ、俺? この歓声って俺に!?




 次話へ続く

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。