第47話「人ならざるもの」
──王都グランシア、闘技場。
「なんだ? なんだ? アイツ、空飛んでないか?」
「それにあの翼と目は……」
「まさか、魔族?」
「魔族? そんなの本当にいたのか?」
クレイとリューズの試合を見ていた出場者たちがざわめいている。
あれがリディアの言っていた魔族?
「なぁ、マジェルカ。本当にあれが魔族なのか?」
「はい……。見た目も、ビンビンに感じる魔力量も、まさに聞いてた通りっす」
魔力? 俺にはさっぱり分からねぇ。リディアならなにか分かるのか?
俺は特別席に座っているリディアへ視線を送る。
リディアは、両手で口元を押さえ震えているようにも見えた。
間違いない。あれが魔族だ……!
クレイが周囲を見渡し不敵な笑みを浮かべる。
「さて、どうしましょうかね……うーん、面倒ですね。一瞬で灰になってもらいましょう」
そう言うと両手を広げ、手のひらの上に赤黒い火球が作り出された。
えっ、ちょっ! いきなり大技!?
「──舐めるなよ!」
声に振り返ると、リューズが再び剣を構えていた。いけるのか!? さっき見事にやられてたけど!?
「……脆弱で悪かったな。たしかに先ほどの一撃はお前を甘く見ていた……!」
リューズの全身に白色のオーラが浮かび上がる。
「身体強化、“剛”!」
おぉっ! リューズの身体が少し大きくなったぞ!? 身体強化って、魔法でそんなこともできるのか!
リューズの筋肉が一回り膨れ上がる。鎧の軋む音とともに、地面が沈み込んだ。
……俺も身体強化したら少しはマシになるのか?
リューズが一瞬で間合いを詰める。今度はその動き出しすら目で追えなかった。
気付いたら、すでにクレイに切りかかっていた。
「これは中々──ですね!」
クレイは両手に出した火球を消し去り、攻撃に備えた。今度は指一本ではなく、“左腕を使って”剣を受け止める。
どうなってんだよアイツの身体は。なんであの剣を普通に止めてるの!?
「くっ! 切れない……だと?」
リューズは歯を食いしばり、力を込める。しかし、あと一歩が及ばない。
「身体強化が自分だけの専売特許だとお思いで?
まったく、面白い冗談ですね」
リューズの剣がじわり、じわりと押しやられる。
「まさか“あと一歩”などと勘違いしてませんか?」
クレイが空いている右腕をリューズの方へ向ける。リューズの目の前で構えた拳はまさかのデコピンの形だ。
「その勇気に免じて手加減して差し上げます」
──バチーンッ!
リューズの身体は弾丸のように吹き飛ぶ。
石壁が轟音とともに砕け、土煙が闘技場を包んだ。
煙の向こうで倒れているリューズは、すでに意識がどこかへ飛んでしまってる。
「次からは身体強化“柔”と言いなさい。まぁ、次があればですが……」
これは……無理だ。次元が違いすぎる。
コイツが魔族? もうこれ、魔王なんじゃないか?
暴走魔法使いが暴走しないってだけで、コイツのヤバさは痛いほど伝わる。
本当に、手を出しちゃいけない存在なんだ……
闘技場にいる選手も、観客も、誰一人その場を動かなかった。
いや、正確には動けなかった。それほどまでに絶望的な力の差が魔族と人間の間にはあった。
「少し、よろしいかな?」
なんだ? 声のする方へ視線を送ると、特別席の奥から、白く長い顎髭をたくわえたおじいちゃんが出てきた。
危ないよ、おじいちゃん。なにしてるの?
クレイはおじいちゃんを見ることもせず応えた。
「……あなたは?」
「失礼。私はこの国、グランシアの王アルヴェリオ三世」
お、お、王様だったの!? めちゃくちゃ優しそうなおじいちゃんかと思った……
「これはこれは。この国の王が一体何の話でしょうか?」
「ここは一つ、我々に猶予を与えてはくれまいか?」
「……は?」
「ぐっ……! 一つ、身を引いてはくれないでしょうか……」
その声は、微かに震えていた。おじいちゃん。いや、王様よ。それは悪手だ。
飛び込み営業でも基本中の基本。絶対に引いてはいけない。また後日、なんて言ったらこちらにもう手が無いって言ってるようなもんだ。
「クククッ……。一国の王ともあろうお方が、たかが魔族一人に屈すると?」
ほら見ろ。底を見せてはいけないんだよ。
「王よ。おやめください」
王の前に一人の男が立ち塞がる。あれは……ディーノ?
「貴方は頭を下げてはいけない。ここは私がいきます」
「ディーノ! よせ!」
王様の制止も聞かずに、ディーノは闘技場へと降り立った。あの高さから飛び降りても平気って、まさかディーノって強いんじゃ……
「リューズよ、お主は自分に過信しすぎだ。
──だから私に勝てない」
ディーノは倒れて動かないリューズへ一瞥する。
だから勝てないって、まさか前回優勝したのディーノなの!? さすが王様の側近だ……
「……ユージ様」
ディーノがこっちへ近付いてきた。そして、俺を真っすぐ見据えた。
「な、なんでしょう?」
「おそらく私でもあの魔族には勝てないでしょう。
しかし、ユージ様ならもしかすると……」
「……はい?」
「あとは頼みましたぞ……」
そう言うとディーノは魔族に向かって構えを取り走り出す。
残された俺は一人、佇んでいた。
「……俺にどうしろってんだよ」
次話へ続く




