第46話「優勝候補」
──王都グランシア、闘技場。
闘技大会が行われているここ王都グランシアの闘技場では、ブーイングの中、二回戦第一試合が終わった。
「なんだよ棄権かよー」
「シロちゃんの試合見たかったな」
「棄権したゲンリュウとかいう冒険者、Bランクらしいぞ」
「どんだけ強いんだよあのユージってやつ」
【ゲンリュウ選手棄権のため、二回戦第一試合はユージ選手の勝利です!】
クソッ! 先を越されちまった!
俺が棄権しようと思ってたのに!
俺はトボトボと控室へ戻っていく。
【おっと! 闘えなかった焦燥感からか、ユージ選手の背中が寂しそうにしております!】
煽るな! そんなんじゃねぇよ!
控室へ続く通路には、出場選手たちがずらりと並んでいた。
えっ? 何してるの?
「チッ、棄権か。情報は得られずか……」
誰かの呟くような愚痴が聞こえてきた。情報?
まさかコイツら、俺の闘いを見ようとしてたの!?
「ユージさん! お疲れっす!」
「なんもしてねぇよ! 闘技場に上がって、降りただけだから!」
「ハハハッ! たしかに!」
マジェルカが労ってくれたが、ハッキリ言って一回戦からなーんもしてない。俺に疲れがあるとすれば闘技場に続く階段を昇り降りした疲れくらいだよ。
「ケッ! マジェルカのやろう。腰巾着が……」
んっ? なんだコイツ聞こえないように小さい声で。営業時代にもこんな奴いたなー。
『グルルルルッ……』
「なっ、な、なんだよ……」
シロは俺の気持ちを察したのか、声の主に向かって威嚇を始めた。
「コラッ! シロやめろ。相手にしても無駄だよ」
『わぅふ!』
シロをなだめて通路を進んでいく。直接言えないことをああやって愚痴る奴は大したことない。
まぁ、俺はアイツにも勝てないだろうが。
俺たちが通り過ぎていくと、シロにビビったのか腰が砕けたようにへたり込んでいた。
それを見ていた周りの連中も後ろへ一歩下がる。
あぁ、ヤバい。誤解されてるわー。
「凄いじゃないっすか! いきなり優勝候補筆頭に躍り出たって感じっすね!」
「なんでそうなる!? 俺まだ、一回も闘ってないからね!?」
「だからっすよ! 誰もまだユージさんの闘ってる姿を見てないのに、もう準々決勝っすよ!?」
うーん、たしかに。客観的に見たらめちゃくちゃ怖い存在だな。
もうこうなったら煽って煽って全員棄権させちゃうか? いや、効かなかった時が怖いからやめとこう。
「おいお前。随分いい気になってるじゃねぇか」
控室に戻ると、本物の“優勝候補”、リューズが話しかけてきた。
「俺と当たるのは決勝か。ふんっ、運だけは良いみたいだな」
「ははは……そうみたいだね……」
リューズさん、さすが優勝候補です。そうなんです。僕、運だけは良いんですよ……
「次の試合をよく見ておけ。本当の闘いってやつを教えてやる」
物凄い自信だな。さすがAランクだ……
これは見ないと後が怖いやつだな。
【それでは気を取り直して二回戦第二試合です!
一回戦は辛くも勝利したクレイ選手! 二回戦で当たるのは優勝候補のリューズ選手です!】
あっ、早速始まるのか。はぁ……気が乗らないけど見るしかないかぁ。
俺は控室を出て闘技場へと向かった。
「おっ、リューズさんの試合っすね!
やっぱり気になりますか? やっと見る気になったんすね!」
そんなんじゃないよ。見ないと怖いからだよ。
決勝で当たる相手の偵察とかじゃないから。
俺たちが闘技場へ来ると、周りで見ていた選手たちがすっと避けていく。
あれ? 特等席で見せてくれるの? みんな優しいじゃん。
「なんか前で見れてラッキーだな」
「……やっぱアンタすげぇよ」
【さぁ両者向かい合って準備が整ったか!?
それでは! 試合開始です!】
──カーンッ!
試合開始の鐘の音とともに、リューズが背中の大剣をスルリと抜いた。あんな大きな剣を軽々と……。
その抜刀だけで強者だと伝わる。
「クレイってやつは素手なの!? さすがにリーチが違いすぎないか?」
「そうっすね……大剣に素手は分が悪いっす。
スピードでどうカバーするかっすね」
リューズは上段に剣を構え、クレイに向かって走り出した。マジかよ、あの巨体でなんてスピードだよ!?
「あんなのに……勝てるわけないじゃん」
一気に間合いを詰め──一閃。
──ギィィィンッ!
「……は?」
【なっ!? なんと! クレイ選手指一本でリューズ選手の大剣を止めているー!】
──ワアァァァァァァッ!
闘技場が一瞬の静寂の後に、大歓声に包まれた。
「マジかよ! クレイってやつ一回戦辛くも勝利とか言われてなかったか!?」
「……実力を隠してたんでしょ。これは……大番狂わせっすね」
リューズは咄嗟に後ろへ後退し、額には汗が垂れている。
「お前……一体……」
「やはりAランクと言っても所詮“人間”……脆弱ですねぇ」
なんだ? クレイってやつ、何を言ってるんだ?
めちゃくちゃ不気味なんだけど。
クレイの目が赤く怪しく光りだし、背中には黒い翼が現れる。
そして、ふわりと空中へ浮かび上がった。
「なにあれ? なぁマジェルカ……」
「なっ!? あ……あれは……ま、魔族……」
えっ? 魔族? 絶対に関わっちゃいけないっていう? 向こうから来てんじゃん。
「“人間”のみなさんごきげんよう。そしてさようなら」
次話へ続く




