第45話「フェンリルを従える男」
──王都グランシア、闘技場控室。
【さぁ、例年にない盛り上がりを見せる闘技大会!
続いては第二試合! クレイ選手対オルデカル選手の試合です! 始め!】
──カーンッ!
あっ、試合始まったな……そういえば、他の選手たちはどこに行ったんだろうか?
俺が辺りを見渡すとマジェルカと目が合った。
俺は何もしてないけど、試合した相手と顔を合わせるのはちょっと気まずいな……
そう思っていると、マジェルカの方から話しかけてきた。
「あの……ユージさん? さっきはありがとうございました!」
「あ、うん。こちらこそありがとう」
「他の人の試合は見ないんすか?」
「そ、そうだな。あんまり見ないかな」
見たところでみんな俺より強いのは分かってるし、怖くなるだけじゃん。
「なるほど。他の人には興味ないって感じっすか」
あれ? もう勘違い始まってたの?
しまった。入り間違えたからこれもう止まらないぞ……
「いや、そうじゃなくてね。試合見ても自信無くすだけだから見ないだけだよ」
「…………」
おっ、もしかして今回は勘違い回避に成功したのか?
「……俺に勝っといてそんなこと言わないでくださいよ!」
えーっ!? 怒られるパターンもあるの!?
「いやいや、勝ったのはシロだから!」
「そのシロ君を契約印無しで従えといてよく言いますよ!」
ダメだ! もう無理だよ!
これ、俺が何か言う度に誤解が誤解を呼んでる気がしてきたぞ……
──ワアァァァァァァッ……!
【それまで! 第二試合は辛くもクレイ選手の勝利です! 皆様、クレイ選手に大きな拍手を!
それでは勝利者インタビューに──】
「あっ、試合終わったな」
実況の声が聞こえてきて入場口の方に視線を送ると、なにやらざわつき始める。
「どいてどいて! 怪我人が通るぞ!」
担架に乗せられ、先ほどの試合の敗者と思われる男が運ばれていく。
力なく下に垂れた手からは血が落ちていた。
「えっ、あんな大怪我するの!?」
「そうっすね。毎年怪我人は後を絶たないっすよ。なんてったって殺すこと以外なら何でもアリの大会だからっすね」
マジかよ……
あっ、そういうことか。だから従魔もオッケーなのね……
「でもあれだな。何でもアリなのに従魔連れてる選手はいないんだな。テイマーって少ないのか?」
「いや、テイマー自体は結構いますよ?
ただ、闘技大会に連れてくる人はいないっす」
「そうなの?」
「普通はCランクくらいが限界なんすよ。Aランク以上になると、契約する前に殺されるっす」
マジかよ! 従魔契約も命がけなんだな。
そりゃそうか。シロの母ちゃんを無理矢理従魔契約なんて、考えただけでもゾッとするよ……
「それに、Aランク以上の魔物は契約自体が効かない奴も沢山いますから」
「じゃあシロと仲良くなれたのってかなり奇跡なんだな」
「奇跡なんてもんじゃないっすよ! フェンリルのランク知らないんすか!? Sっすよ!?」
えっ、シロってSランクなの!? どおりで子どもなのに強いわけだよ。
「経緯はどうあれ、フェンリルを連れてるって事実は変わんないっすよ。ユージさん、それ以上謙遜すると嫌味に聞こえるっす」
「……はい。気をつけます」
「それに、いくらSランクっていってもシロ君はまだ子どもっす。リューズさんには敵わないっすよ」
リューズ……Aランクの冒険者か。たしかに、あのガタイには勝てる気がしないな。
「まぁリューズさんとは反対のブロックみたいっすからね。決勝まで当たらないのは運が良かったっすよ!」
「け、決勝!? そんなに残れないって!」
マジェルカは目を細めて睨むように俺を見てきた。えっ、これも謙遜になるの!?
「が、頑張って決勝まで……行きます」
めんどくせぇな。もう次の試合で「お腹痛い」って言って棄権しよう。さっきの選手みたいに大怪我で済めばいいけど、死んだら終わりだしな。
【さぁさぁ! 一回戦の全試合が終了しました!
ここまでは順当といったところでしょうか!】
えっ、順当なの? 俺、順当に勝ち上がったの?
まぁたしかにランクはマジェルカより上だったか。
【それでは早速二回戦にいきましょう!
このまま初出場で初優勝することができるのか!? レグシアからの刺客! ユージ選手と従魔、もとい! 相棒のシロ選手の入場です!】
──ワアァァァァァァッ……!
「いよっ! 待ってました!」
「このまま優勝しちゃえー!」
「シロちゃーん!」
……なんか物凄い声援なんだけど。棄権しに闘技場に上がるだけだから気まずいな。
「ユージさん、スゲェっすね! この大会で一気に人気者じゃないっすか!」
「はは、ははは……」
謙遜するなって言われても、実力じゃないからな。苦笑いしかできねぇよ……
「じゃあ、いってきます……」
「俺も応援するっす! 頑張ってください!」
うーん、棄権するからあんまり期待しないほうがいいよ?
俺は重い足取りで闘技場へ上がる。声援が胸に突き刺さるなぁ。みんな期待してるんだろうな……
【一気に今大会の主役に躍り出たユージ選手の快進撃を止める事ができるのか!? 極東の国よりやってきた剣士! ゲンリュウ選手の入場です!】
うおっ!? 着物じゃん! めっちゃ侍感ハンパない剣士だな! それにあの剣。刀みたいだし。
極東の国……もしかして侍の国なのか?
【さぁ両者の準備はよろしいでしょうか!
それでは──】
「すまない! この試合、棄権させてくれ!」
【なっ、なんと! ゲンリュウ選手、棄権だー!】
おいぃぃぃぃぃーっ!!
次話へ続く




