第44話「ルーキー対決」
──王都グランシア、闘技場。
大歓声に包まれた闘技場へ上がっていく俺。階段を登る足は小刻みに震えていた。
【さぁ! 両者が闘技場に登場しました!
早くも睨み合っております!】
どこがだよ! っていうかなんで俺が出場者なんだよ! 闘技場に立つ実況のお兄さん? リングアナ? に思わずツッコミつつ、怒りの矛先はアイツに向いていた。
ディーノのやろう……騙しやがったな……!
俺は観客席を見渡す。一際眺めのいい場所にあるあそこが特別席か。
一番奥には、長い白い顎ひげを撫でながら穏やかに笑う老人が座っていた。
その隣には、見覚えのある顔。
「いた……! ディーノめ、ニコニコしやがって」
特別席の端にちょこんと座っているリディアの姿も見えた。あれはあれで、ちょっと恥ずかしくてやだな。
いや、出場するよりは何倍もマシだ。さっさと降参してあっちに行こう。
「おい! 何をよそ見してるんだ? 彼女でも探してるのか!?」
おっと、そうだった。今からコイツと戦うんだった。たしかマジェルカっていったか……強そうだな。
「悪い悪い、ちょっとディーノを探してて」
「……っ! ディーノ“さん”だろ? この野郎……絶対に許さん!」
あっ、ヤバい。コイツはグランシア出身だったっけ。流石に国の役人を呼び捨ては煽ってるな。
【さぁ、両者準備はよろしいでしょうか!
それでは、第一試合……開始です!】
──カーンッ!
大きな鐘の音が響き試合が始まってしまった。
試合開始と同時にマジェルカが飛び出してきた。
剣は持ってない。格闘タイプか?
「ちょ、ちょっと、タンマッ!」
「待つかよ! くらえ!」
俺は咄嗟に目を瞑った。しかしマジェルカの攻撃はやってこない。
恐る恐る目を開けると、拳を振り上げたままピタリと固まっている。
「な、なんだ……? なにがどうなってんの?」
「クッ! お前、その犬なんなんだ!?」
マジェルカは冷や汗をかきながら、俺に手を出せずにいた。その目はシロを見ている。
『グルルルルッ……!』
「クソッ!」
そう言うと、大きく後ろへ飛び退いた。
「あっ、危なかった……! 今アイツに攻撃してたら間違いなくあの犬に殺されてた」
もしかして、シロが守ってくれたのか? 俺がシロに視線を送ると『わんっ!』とだけ返してきた。
頼もしい限りだな。
「おい、お前! その犬……何なんだよ」
「何って、シロだよ」
「シロ!? ふざけた名前付けやがって……!」
マジェルカが攻め手に欠いていると、観客席から野次が飛んでくる。
「おいおい、マジェルカ何やってんだよー」
「おーい、もっと打ち合えよー」
「もしかしてあの犬にビビってる? ぷぷぷっ!」
観客の声が聞こえてきた。えっ、マジェルカはシロにビビってくれてるのか? だったら……
「シロ、いけそうか?」
『わぅふ!』
「分かった! でも無茶はするなよ? 無理そうだったらすぐに棄権するからな?」
『わんっ! グルルルルッ……!』
「……っ! 来る!」
マジェルカは咄嗟に拳を上げて構えた。
シロは左右に跳ねながら一気に間合いを詰める。
「クッ! 右か左か……どっちからくるんだ!?」
ボゴォッ……!
「ぐ……ぐふっ!」
ス、スゲェ……左右どちらかかと思ったら、まさかの体当たりかよ。
マジェルカは予想できてなかったみたいだな。めちゃくちゃ苦しそうだ。
「ガハッ!」
マジェルカが咳き込むと、口元から血が飛び散った。
「ちょ、ちょっと待って……」
『グルルルル……ワンッ! ワンッ!』
「クッ……! ま、参った! 俺の負けだ!」
へっ? か、勝ったのか?
【な、なんとここでマジェルカ選手が棄権したーっ! まさかの結末に闘技場内がざわついております!】
マジェルカはゆっくりと立ち上がると、ふらつく足で俺に近付いてくる。
「アンタの犬……強いな。コイツ、シロだったか。本当にただの犬なのかよ……」
そう言うと、手を差し出してきた。俺はそれに応えるように握手を交わす。
【ここで両者が固く握手だーっ! 互いに認め合う二人に熱い拍手を!】
場内に大きな拍手と声援が飛び交った。いつの間にか野次は無くなっている。
「マジェルカー! よくやったぞー!」
「なんだよあの犬! 強すぎるだろ!」
「強くて可愛いなんて反則よ! アタシあの子のファンになる!」
鳴り止まない声援は、マジェルカの健闘とシロへと向けられていた。何もしていない俺には当然無い。そりゃそうだ。
俺はマジェルカの名誉のためにも、本当の事を打ち明ける。
「犬っていうか、フェンリルの子どもだよ」
「なっ!? フェンリル!? ……マジかよ。どおりで手が出せなかったわけだ……」
【な、なんと! ここで新事実が発覚だ!
ユージ選手の連れていた従魔は、まさかのフェンリル! これは衝撃の事実だーっ!】
「だから、従魔じゃないって!」
従魔、従魔うるさい実況に思わず声を張り上げてしまう。
【従魔じゃない? どういう事なのでしょうか!
勝利者インタビューも兼ねて聞いてみましょう】
ツカツカと歩み寄ってくる実況。これ、説明すればするほどみんな勘違いしないか?
【従魔じゃないとのことですが、お二人の関係は何なのでしょうか?】
「……友だちです。従魔契約はしてない、ただの友だちですよ」
【えっ!? 従魔契約してない!?】
一気にざわつき出す会場。
実況はシロをまじまじと見ている。
【ほ、本当です! どこにも契約印がありません! なんとユージ選手は従魔契約をせずにフェンリルを従えている!】
「えっ、そんなこと出来るの!?」
「いやいや、初めて聞いたぞ……」
「じゃあ、あのユージってやつはフェンリルより強いのか……?」
あーあ、言っちゃった……
会場に沈黙が流れる。
そして──
ワアァァァァァァッ!
「スゲェ! この大会はプレミアもんだぞ!」
「あとでサイン貰おう! 伝説のテイマーだ!」
「キャァァァァァッ! カッコいい!」
会場はこの日一番の盛り上がりを見せた。
俺は特別席でリディアが頭を抱えているのを見て、あぁ、やっぱりやっちゃったんだなと悟った。
次話へ続く




