第43話「闘技大会」
──王都グランシア、闘技場。
会場へ続く石畳を歩いていると、次第に歓声が大きくなってきた。
──ウォォォォォォッ!
「うわっ!?」
曲がり角を抜けた瞬間、思わず足が止まる。
「……デカすぎるだろ」
目の前には、巨大な円形闘技場がそびえ立っていた。
外壁は何十メートルも積み上げられた白い石で造られ、無数の旗が風を受けてはためいている。
入り口は十か所以上。
そのどこにも長蛇の列ができ、武器を背負った冒険者や貴族、商人、子ども連れまで、人の波が絶え間なく飲み込まれていく。
屋台からは肉を焼く香り。
酒場では朝から乾杯する声。
大道芸人まで芸を披露していて、まるで街そのものが祭りになったようだった。
「これ全部、闘技大会のお客さんか?」
「そうよ。毎年各国から強い冒険者が集まってるもの」
リディアは当たり前のように答える。
「毎年何万人も来るのよ」
「何万人!?」
フェスじゃん! 見上げると、闘技場の最上部には王家の紋章が描かれた巨大な旗が揺れていた。
そのさらに奥には、一般席とは明らかに造りの違う豪華な観覧席が見える。
白い柱。
赤い絨毯。
黄金に縁取られた椅子。
「……あれが特別席?」
「そうみたいね。王族や各国の要人が座る場所ね」
うわぁ……。本当にあそこへ行くのか。
今からお腹痛くなってきたぞ。
その時だった。
──ゴォォォォォンッ!
巨大な鐘の音が王都中へ響き渡る。
歓声はさらに大きくなり、人々は一斉に闘技場へ流れ込んでいった。
「もうすぐ始まるわよ」
「……いや、始まるのは闘技大会だけでいいんだけどな」
入場口に並んでいると、いよいよ俺たちの番がきた。
「こんにちはー! チケットを拝見します」
笑顔の素敵な受付の子にチケットを見せる。
「えっ!? 特別席!? 申し訳ありません!
言ってくだされば並ばずにご案内させてもらったのに……」
「いやいや大丈夫ですよ。そんなに並んでないんで」
「あっ、若い男の人と青白い子犬……もしかして、ユージ様でしょうか?」
すごーく嫌な予感しかしないが、そうだと応える。
「ディーノ様から聞いております! こちらにお名前をよろしいでしょうか? 従魔のお名前も書いてください」
「は、はぁ……」
シロは従魔じゃないんだけどなぁ。まぁ、言っても仕方ないか。
「ありがとうございます! それではお連れ様を特別席にご案内いたしますね。ユージ様はこちらにお願いします」
「えっ? 別の席になるんですか?」
ペット同伴は別席になるのか? 意外とちゃんとしてるんだな。
俺はリディアを見送ったあと、案内係のお姉さんに連れられて通路を進む。
「こちらで少々お待ちください」
そう言って扉が開かれた。
ギィィ……
「失礼しま──」
部屋へ足を踏み入れた瞬間、空気が変わった。
「……」
静かだ。
部屋には十数人の冒険者がいた。
壁にもたれ掛かる者。
椅子に腰掛けて黙って目を閉じる者。
剣を膝に置き、刃を静かに磨く者。
誰一人として無駄口を叩いていない。
張り詰めた空気だけが部屋を支配していた。
「……なんか控室って感じだな」
俺がぽつりと呟くと、近くにいた大男がこちらを見た。
ギロリ。
「ひっ……」
目つき怖っ! 喧嘩売ったつもりなんかないぞ!?
部屋の隅では、ローブ姿の男が小声で何かを唱え続けている。
別の場所では、筋骨隆々の戦士が拳を握ったり開いたりを繰り返していた。
みんな緊張してるんだな。
まぁ、闘技大会に出る人たちの控室なんだから当然か。
「えっと……俺、観客なんですけど」
誰に言うでもなく呟いてみた。
もちろん返事はない。
『くぅーん?』
シロだけが不思議そうに首を傾げていた。
まさか、招待客の紹介なんて始めないよな!? 人前に出て紹介されるような人間じゃないからそんなの嫌だな。
すると、一人の男が近付いてくる。あっ、大通りにいた“優勝候補”って言われてた人だ。
こうやって近くで見ると物凄い威圧感だな。
「……お前、冒険者ランクは?」
「えっ? Bですけど……」
「お前がぁ!? ハッ、最近の冒険者も落ちたもんだな」
なんだコイツ? 急にランク聞いといてなんだよそれ。そりゃそうだろ、成り行きでBランクになってしまったんだからな。
貧弱そうで悪かったな!
「……あなたこそ、ランクは何なんですか?」
「お前、俺を知らないのか?
去年の大会準優勝、大剣使いのリューズだ。ランクはA」
ランクを聞いただけなのに名乗ってきた。Aランクってことは、ダイノスより強いのか。
しかもこんなに威圧感バリバリの強者でも準優勝……こりゃ観戦が楽しみだな!
「俺はユージっていいます。頑張ってくださいね! 応援してますよ!」
「はぁ!? 応援!? ……なんだコイツ」
リューズは呆れるようにして離れていった。
すると突然、闘技場内にアナウンスが流れ始める。
【さぁ皆様、お待たせいたしました! 本日は年に一度の王都グランシア闘技大会!】
おぉっ、いよいよ始まるぞ。
【今年の優勝は誰の手に!?】
控室にも一気に緊張が走った。みんなの表情が引き締まる。
【それでは第一試合、選手の入場です!
まずは、ここグランシア出身の期待の星! 冒険者ランクはCですがその実力はいかに!
期待のルーキー! マジェルカ選手の入場!】
会場は割れんばかりの歓声で溢れかえった。王都の出身だからか、物凄い声援だな。
「ふぅ……よしっ!」
若い冒険者が立ち上がり入場口へと向かっていった。彼がマジェルカ選手か……いやいや、全然強そうだぞ? これがCランクの冒険者?
「めちゃくちゃ楽しみだな。というか、俺はどこから観戦すればいいんだ?」
【続いて対戦相手の入場です!
おっと、こちらもルーキーだ!
レグシアからやってきた王室推薦枠!
冒険者登録から一ヶ月も経たないうちにBランクに駆け上がった実力は本物なのか!?
ユージ選手が従魔を連れて入場です!】
「…………」
次話へ続く




