第41話「王都グランシア」
──王都へ続く道。
馬車が小高い丘を越えた瞬間、思わず息を呑んだ。
「……デカい」
視界いっぱいに広がる巨大な城壁。その中心には、青空へ向かって突き刺さるような白亜の王城がそびえ立っている。
レグシアなんて比べものにならない。
城壁の外には畑や牧場がどこまでも続き、街道には荷馬車や旅人が列を作っていた。
商人、冒険者、貴族らしき馬車まで、ありとあらゆる人が一つの街へ吸い込まれていく。
「ここが……王都グランシア」
「ふふっ、田舎者みたいな顔してるわよ」
「いや、田舎者だからな!?」
リディアは肩を震わせて笑う。
その間にも馬車はゆっくりと進み、巨大な城門が近付いてきた。
近くまで来ると、その大きさはさらに圧倒的だった。城門だけでも三階建ての建物くらいあるんじゃないか?
左右には完全武装した騎士が並び、槍を手に街へ出入りする人々を厳しく見張っている。
その横では、荷馬車の検査や身分証の確認まで行われていた。
「すげぇ……」
思わず声が漏れる。
レグシアとは比べものにならない。
ここは本当に、この国の中心なんだ。
ディーノの馬車は騎士へ一枚の書状を見せると、検査もなく城門をくぐっていった。
「ようこそ王都グランシアへ」
ディーノが穏やかに微笑む。その余裕の表情も納得だ。この街を毎日見てたら、そりゃ余裕も出るよな。
初めて東京を生で見た時よりも衝撃がデカいぞ。
馬車のドアが開かれると、勢いよくシロが飛び出した。コイツには馬車は狭すぎたようだな。
『ハッハッハッ……わぅふ!』
ハハッ、だいぶ興奮してるな。
「シロ! 王都は凄いな!」
『わんっ!』
「それでは私はここで失礼します。どうぞごゆっくりお楽しみください」
ディーノは深々と頭を下げる。そんな、この人俺なんかよりも偉い人だろうに。
出来た人だなぁ。俺もこんな上司の下で働きたかったよ……
「宿屋は大通りを真っすぐ行った突き当たりにある『ヤマイヌ亭』です。話はつけていますので私の名前を出していただければ大丈夫です」
「宿の手配まで! ありがとうございます!」
「では、王城でお会いするのを楽しみにしております」
◆
──王都グランシア、大通り。
馬車を降りた俺たちは、宿へ向かって大通りを歩き始めた。
「うわぁ……」
思わず声が漏れる。
道幅だけでレグシアの三倍はありそうだ。その両脇には武器屋、防具屋、魔道具店、服屋、食堂……ありとあらゆる店が立ち並び、人で溢れ返っている。
「見て見てユージ! 新作のローブ出てる!」
リディアは一直線に魔道具店へ駆けていく。
「ちょ、おい! 勝手に行くなって!」
「すぐ戻るから!」
絶対戻らないやつだこれ。
仕方なく店先を眺めていると、ガラスケースの中に一本の剣が飾られていた。
【白銀鋼の剣 金貨八十枚】
「高っ!」
家買えるんじゃないのか?
「田舎者丸出しね」
剣と値札を交互に見比べる俺に、近くにいた客がぼそりと呟いた。
「うるさい。俺の財布が泣いてるんだよ」
その隣には杖。
【賢者の杖 金貨百五十枚】
「棒じゃん!」
「棒じゃないわよ!」
いつの間にか戻ってきたリディアが、俺の頭を軽く叩く。
「魔力の増幅率が全然違うの」
「そんなにするの!?」
「むしろ安い方よ」
怖っ。
王都怖っ。
俺は二度と店に入らないことを心に誓った。
「ねぇユージ!」
今度はリディアが屋台を指差す。
「串焼き!」
「さっきローブ見てなかった?」
「それとこれは別よ」
女って怖ぇ……
焼きたての肉から香ばしい匂いが漂ってくる。
グゥゥゥ……
「あっ」
「鳴ったわね」
「……鳴ったな」
「食べる?」
「食べる!」
俺たちは屋台で串焼きを買い、歩きながら頬張った。
「うっま!」
「でしょ?」
外はカリッとしていて、中は驚くほど柔らかい。
王都ってすげぇな。何でも美味いのか? もうほぼ東京じゃん。
『わんっ! わんっ!』
「なんだシロ、お前も食いたいか?」
串焼きを近付けると、クンクンと匂いを嗅ぎすぐに食いついた。一口食べた瞬間、目を見開いてがっつきだした。
おいおい、口の周りがソースだらけじゃないか。
「ハハッ! シロ、落ち着けって。ゆっくり食べろよいっぱいあるから」
「あっ! ワンちゃんだ! 可愛いー!」
シロに気付いた女の子が近寄ってくる。
「ねぇ、触ってもいい?」
「どうだろうな。シロ、触ってもいいか?」
『わぅふ!』
「いいみたいだな。大丈夫だよ」
女の子は目をキラキラさせながらシロを触りだす。
「わぁ♪ ふわふわで気持ちいいー!」
シロは満更でもない表情で気持ち良さそうにしている。こうやって見ると普通の犬だな。
女の子が満足して去っていくと、リディアが袖を引っ張ってきた。
「次はあっち!」
「まだ行くの!?」
リディアに引っ張られながら歩いていると、不意に周囲がざわついた。
「おい、あれ見ろ」
「今年の優勝候補だ」
「強そうだな……」
人だかりの先には、大剣を背負った大男が堂々と歩いていた。
筋肉の塊みたいな身体に、背丈ほどある大剣。
「うわぁ……」
「闘技大会の有名選手よ」
「すげぇな」
まぁ俺には関係ない世界だけど。
そう思いながら、俺は串焼きの最後の一口を頬張った。
次話へ続く




