第40話「いってらっしゃい」
──レグシア、冒険者ギルド前。
「それでは失礼します。ユージ様、必ずお越しくださいね。三日後ですぞ」
ディーノは馬車の荷台の窓から顔を覗かせている。
「は、ははは……」
俺は愛想笑いを浮かべながら、ディーノを見送る。馬車なんてあったんだな。
あ、でも馬の首に何やら印があるぞ。そうか、これが従魔契約の印なのか。
えっ、馬も魔物なの? この世界どうなってんの?
「なぁリディア、この馬も魔物なのか?」
「うーん、正確には人間も含めて魔素がある全ての生き物は魔物ってなってるわね」
「えっ、じゃあ人間も魔物なのか?」
「まぁ大きな括りで考えるとそうなるわね」
なんてこった……俺は魔物に転生してしまったのか。魔力はたったの5だけど。
俺たちはギルドへ戻り、テーブルについた。
「じゃあ同じ魔物同士で争ってるのか。なんだかやるせないな」
「同じって言っても、種族が違うからね。考え方も生き方も違うし、争いは絶えないわよ」
「種族ねぇ……人間は人族ってことか?」
「あら、正解よ。そして、人族と友好関係を築いてるのはドワーフ族やエルフ族、獣人族もそうね」
なるほど。この世界の関係が少し分かってきたな。今さらだけど。
「でもね、当然ながら敵対関係にある種族も存在しているわ……ユージ、魔族にだけは絶対に手を出しちゃダメよ」
「魔族……」
俺はその言葉に、アルミシアが口にしていた“魔王”の存在を思い出した。
「彼らは人間を敵視しているの。人族とか何族とか、そんなものは関係ない。いい? 魔族に会っても、絶対に戦おうなんて考えちゃダメよ」
「当たり前だろ! どうやったら俺が好戦的に見えるんだよ!」
「そりゃあ、ステータスを知ってるアタシにはそうは見えないけど……味方のはずのダイノスやマスターがああなのよ? 噂を聞きつけた魔族は絶対アナタに興味を持つわ」
終わったわこれ……どんどんスローライフから遠ざかってませんか? それどころか、魔族に狙われて逃走ライフが始まっちゃうよ!
「まっ、そんなことより王都に行く準備をしましょ♪」
「なんでお前がノリノリなんだよ! それに、そんなことって何だよ! 魔族に狙われたら助けろよな?」
「そんなの無理に決まってるじゃない。魔族は数も少ないし、出会わないことを祈るだけよ」
怖ぇよ……リディアでも敵わないのかよ。
こっちに来てからのフラグ回収率を考えたらさ、絶対に会うよなぁぁぁ……
「なぁ、王都って行かなきゃマズイのかな?」
「……アナタ、王様の誘いを無視する気なの?
この国に居られなくなるわよ?」
「だよなぁ。それにシロも一緒にって、絶対色々聞かれるよ……はぁ……」
やだなぁ。営業時代のクレーム対応並に腰が重たいよ。
んっ? いやいや、待て。そういえば闘技大会とか言ってなかったか?
「なぁ、闘技大会って何するの?」
「そんなの、冒険者同士が闘うに決まってるじゃない。まぁお祭りみたいなものだけど、王都の闘技大会は規模が大きいから国中の冒険者が集まるわよ」
「えっ、それに出ろってこと? そんなの無理だろ!」
「そんな訳ないじゃない。お祭りがあるから見てってねってことでしょ」
「……だよな! そうだよな!」
俺は少しだけ身体が軽くなった気がした。王様と会うっていう超緊張イベントこそあるものの、ほとんど観光じゃん。
シロを見せて、「フェンリルと仲良くなりました」ってところを見せればいいだけか。まぁそれなら……
「シロ、今度王都に行くけどお前も行けるか?
嫌なら全然いいんだけど」
『わぅふ! わん! わん!』
あっ、君もノリノリなのね。
「じゃあちゃんと母ちゃんに言っとけよ? 心配して王都まで探しに来たら大変なことになるからな」
『わんっ!』
「それで? 王都まではどれくらいかかるんだ?」
「そうねぇ、歩いて行くなら丸一日かかるから明日にでも発ったほうが良さそうね」
「えっ、そんなに遠いの? どうしよう、ワイバーンにお願いしようかな」
「やめなさいよ! 王都が大混乱になるわよ!?」
「あ、やっぱり?」
俺はワイバーンタクシーを諦めて歩いて行くことにした。普通に歩いて丸一日なら、俺なんて二日かかるだろうな……ちょっと行くの嫌になってきたな。
ひとまず王都までの食料や念のための回復薬を買い込み、この日は準備に終わった。
◆
──翌日。レグシア、門の前。
「じゃあ、行ってきます」
「おう! 気をつけてな! って、お前にはそんな言葉必要ないか! ワハハハッ!」
もはや恒例になったダイノスの勘違いを軽くあしらいながら、俺たちは門を出る。
ダイノスは依頼があるから一緒には行けないが、後から必ず来るそうだ。さてはコイツも観光目的だな。
門を抜けると、見覚えのある馬車が止まっていた。
「お待ちしておりました、ユージ様。さ、行きましょうか」
「あれ? ディーノさん!? 迎えに来るとか言ってましたっけ?」
「いやね、王様に来てくれる事を伝えたら『客人に出向かせるとは何事だ!』って怒られ──ゴホンッ! こちらからお誘いしたのですから当然です」
いやいや、誤魔化せてないだろ。
しかしあれだな、王様ってもしかしたら優しい人なのか? ちょっと安心だな。
俺たちは馬車に乗って快適に王都へ向かうことになった。
王都に着いたら何をしようかと話しながら、ワクワクして馬車に揺られていた。
この時までは──
次話へ続く




