第39話「噂のルーキー」
──レグシア、冒険者ギルド。
「噂……ですか?」
「えぇ。王都にまでユージ様のお噂は届いておりますよ。物凄い冒険者が現れた──と」
俺は咄嗟にマスターを睨みつける。きっとコイツだよ。誰彼かまわず武勇伝のように話してたからな。
尾ひれが付いてたらどうするんだよ、まったく……
「なんでも、野生のワイバーンやフェンリルを手なづけた上に、新発見のダンジョンも即攻略されたとか」
「ははは……」
なーんにも尾ひれなんて付いてなかったな!
正確に伝えられてるよ! 正確すぎて一切の否定も出来ないじゃないか!
「半信半疑で参ったのですが……」
ディーノはまじまじと俺を見てくる。
「本当にお若い……このお噂は事実でしょうか?」
「……事実です。事実なんですけどっ! 本当にたまたまでして……」
「なんと! いやしかし……この目で見てみないと、んっ? もしやこの子犬は?」
「あー、こいつはシロっていいます。なんというか、まぁ……」
歯切れの悪い俺にダイノスが割って入る。
「紛れもなくこの子犬が証拠だ! そいつは子どものフェンリル。攫ったわけじゃないのは、まだこの街が無事なことで証明している。そうだろ?」
「たしかに。フェンリルの子を攫ったとなれば、怒った親が街一つ消し去ってもおかしくない」
シロ、なんで今日に限って遊びに来たんだよ。
また変な誤解が広がってるじゃん。
「おや? 契約印がどこにもありませんな?」
「契約印? あぁ、従魔契約のことですか?
それならしてませんけど……」
「そうなんですね。従魔契約はしてない──って、契約をしてない!? ひぇっ……!」
ディーノは腰が抜けたように床にへたり込んだ。
なにしてんの? このおっさん。
「契約印の無い、そんな危険な魔物を街に入れるだなんて!」
「だっ、大丈夫ですよ。シロは襲ったりなんかしないですから」
「しっ、信じられん……まさか魔物と共存しているとは……」
ディーノはゴクリと喉を鳴らす。すると、シロが尻尾を振りながら近付いていった。
おいおいシロ、やめとけよ……
「ひっ、ひぃぃぃぃっ!」
──ペロペロ。
恐怖で身を丸くしているディーノの手を、シロがペロペロと舐めだした。
まさか「怖くないよ」アピールをしてくれてるのか? どんだけ頭良いんだよコイツ。
「ほっ、本当に契約印無しで人間に従ってるのか……!?」
「だーかーらー。違いますって! 従うとかそんなんじゃないんです。ただの友だちなんです!」
「は、ははは……」
ディーノは呆れたように笑いながら、そっとシロの頭を撫で始めた。
なんか懐かしいな。レグシアのみんなも最初あんな顔してたよ……また一人、勘違いしちゃったんだな。
「そ、そんなに従魔契約してないことって珍しいんですか?」
「珍しいもなにも、私の知る限りでは一人もいませんぞ……いや、いるにはいるが……」
「えっ? いるんですか?」
「私も直接見たことはありませぬが、伝説のテイマーと言われたお方が契約無しで魔物を従えていたとか……」
で、伝説!? ちょっと待ってディーノさん。それ以上何も言わないで。
「多くの冒険者を見てきて、自惚れていたのかもしれませんな。この年にもなってまだワクワクさせる方と出会えるとは」
なんでだよー。シロと友だちになっただけでおじさんをワクワクさせちゃったよ……
「──ゴホンッ! いやはや失礼しました。
ここから本題に入らせていただいてもよろしいでしょうか?」
「は、はぁ」
「ユージ様、是非とも王都までご足労願いたいのですがいかがでしょうか?」
「は、はい!?」
「実は王から勅命を受けておりまして。
ユージ様、あなたが王都の脅威となる人物か見極めてこいと……」
「えっ?」
「脅威となる人物ならば、即刻国外追放。
もしそうでなければ──」
「……そうでなければ?」
「王が直接お会いしたいと仰っております」
はぁぁぁぁぁ!? 王に会う!? 無理だよそんなの! 俺、社長との最終面接ですら緊張で噛みまくったのに!
「そんなの、俺なんかが王様に会うなんて──」
──バンッ!
俺が言いかけたところで、ダイノスが背中を叩いてきた。
「ハハハッ! 行ってこいユージ!」
「アタシも行きたい! あそこ、美味しいお店いっぱいあるのよね♪」
リディアまで……他人事だと思ってコイツら……
「えぇ、是非皆様でお越しください。
あっ、ユージ様。その時にはシロ様もご一緒にお願いいたしますぞ」
「えっ、まだ行くって言ってな──ってシロ?
従魔契約してないから入れないんじゃ……」
「その常識は先ほど木っ端微塵に打ち砕かれました。私の一筆があれば王都へは入れますのでご安心を」
「いや、だからまだ行くって──」
「それでは、私はこれで失礼します。
ユージ様、三日後の闘技大会楽しみにしておりますよ」
話を聞けぇぇぇぇぇっ!
次話へ続く




