第38話「ただいま」
──土のダンジョン、ボス部屋。
「じゃあ、そろそろ行くか」
魔核の破片を拾い集めた俺たちは、ボス部屋をあとにする。
帰り道は一本道。途中恐ろしいほどに崩壊している場所を除けば、魔物もいないのでスムーズに入り口へと向かっていけた。
「おいっ! ここの階段はボロボロだから気をつけろよ!」
先頭を歩くダイノスが声を荒げる。足元には、今にも崩れそうな階段が続いていた。
避けようにも、上に行くにはこの階段を上るしかない。俺は慎重に進んでいく。
──ボゴンッ!
「うわっ!? 何だよこれ! 気ぃ抜いたらまた下に落ちるぞ!?」
「うるさいわね! 黙って歩きなさいよ!」
「誰のせいだよ!? お前が無鉄砲に魔法連発したからだろ!?」
「元はといえばアンタが転移なんかされるからでしょ!?」
「俺の転移とお前の暴走魔法は関係ないだろ!」
「まぁユージよ、そう言ってやるな。ああは言ってるが、リディアはお前が消えてからずっと心配してたんだぞ?」
「ダイノス! まだ殴られ足りないの?」
「あぁ、すまんすまん。言わない約束だったな──って、うわっ!?」
ボゴンッ! ガラガラ……ズシャァァン!
気をつけろと言っていたダイノスが見事に落ちていった。
「おーい! ダイノスー? 大丈夫かー?」
「イテテテ……あぁ、なんとかな。俺はすぐ追いつくから先に行っててくれ!」
「オッケー! 気をつけて来いよー?」
俺とリディアは二人で入り口へと向かっていく。二人きりはなんか久しぶりに感じるな。
ついこの間も二人で依頼してたけど。
「……そんなに心配してくれてたのか?」
「……うるさい」
「なんだよー。ちょっと嬉しかったのに」
「──からよ」
「えっ? なんだって?」
「だ、か、ら! アンタのステータスが貧弱だからよ! 子犬にだって負けちゃうでしょ?」
「おいおい! 失礼なやつだな! 子犬くらいならギリギリ勝てるっての!」
「ギリギリとか言ってる時点で怪しいわよ!」
何だよ。ちょっと可愛いとこもあるなって思ったらこれだよ。
心配してた奴の態度とは思えん。
◆
遅れて追いついてきたダイノスが今度は天井の崩落に巻き込まれはしたものの、俺たちはなんとか無事(?)にダンジョンの入り口へと戻ってきた。
「うぉっ!? 眩しいな……」
「ハハハハッ! 外に出てきたってことだ!
ダンジョン攻略後の太陽は気持ちいいだろ!」
うーん、よく分からん。いつか魔物を倒せるようになったらダイノスの気持ちが分かるのか?
『わぅふ! わんっ! わんっ!』
「って、うわっ!? シ、シロ!? なんでここに!?」
ダンジョンを抜けたところで、子フェンリルのシロが駆け寄ってきた。シロは俺にすり寄ってきてクンクンと匂いを嗅いでいる。
「あっ、まさか匂いで分かったのか?」
『わぅふ!』
「賢いなぁ! えっ、俺に会いにきてくれたのか?」
『わんっ! わんっ!』
可愛いなぁコイツ! わしわしとシロを撫でながら戯れていると、ダイノスの鋭い視線が刺さる。
これはまた何か始まる予感……
「ユージ、お前それまさかフェンリルの子どもか?」
「そ、そうだけど」
「お前とリディアがフェンリルとワイバーンに乗って街に帰ってきたのは聞いていたが……子どもまで手なづけていたとは……」
「手なづけてって、そんなんじゃないって!
ただ、シロとは友だちになっただけだよ」
「ハハハッ! “友だち”ときたか……!
その様子じゃあ、従魔契約はしてなさそうだな」
「へっ? 従魔契約?」
「やはりしてないか──って、まさか知らないのか!?」
「ははは……」
「ったく、お前はどうしてこうも順序がめちゃくちゃなんだ。
まぁ、レグシアではお前の事を知らない奴はいないからいいが、王都では従魔契約をしてない魔物は入れないぞ?」
よく分からんが王都に行く用事なんてないから大丈夫だよ。変なフラグを立てるんじゃないよ。
「そもそも従魔契約ってなに?」
「従魔契約ってのは、主人の命令には逆らえない契約だ。それをしないと街の人が安心して暮らせないからな」
逆らえない契約ってなんだよ。まるで奴隷みたいじゃんか。
「そんなのしなくても、シロは街の人を襲ったりなんかしないよ。なぁシロ?」
『わぅふ!』
「それは分かってる。レグシアではそんな心配する奴はいないさ。でも王都では──」
「だから王都には行く予定なんてないって!」
しつこいぞダイノスよ。さっさとレグシアに帰ろうぜ?
「シロ、お前も一緒に来るか?」
『わんっ! わんっ!』
「よし行くか! でもいいのか? 母ちゃんにちゃんと言ってきたか? また心配するぞ?」
『わぅふ! アオォォォォーン!』
『…………ァォォォォン!』
シロの馬鹿デカい遠吠えに遠くの方で応えるように遠吠えが返ってきた。
行ってきます! ってか?
「よし、帰ろう!」
◆
──レグシア、冒険者ギルド。
「マスター! 今帰ったぞ!」
ダイノスが勢いよく扉を開けると、ギルド内がざわつき出した。どうやらスタンピードを止めに行ったことはみんな知っているようだ。
俺たちに気付いたギルドマスターが近付いてくる。
「おぉ! 帰ったか! それで、スタンピードはどうなったんだ?」
「あぁ、バッチリだ! もうスタンピードは起きないぞ!」
──ウォォォォォッ!
ギルド内に歓声が溢れ、みんな喜んでいる。スタンピードってのは相当に恐ろしいことなんだな。
「流石だな、ダイノス。ユージ、リディアもよくやった!」
おぉ、珍しくダイノスが一番に褒められてる。マスターも遂に気付いたか?
「マスター! あとでたっぷりユージの活躍を話してやるからな!」
おいやめろ。水を差すんじゃないよ。
「ふふふっ。あぁ、たっぷり聞かせてくれ。
ところで、ユージ。お前にお客さんだぞ」
「えっ?」
ギルドマスターの横で、カウンターに腰掛けていたおっさんが立ち上がり俺に近付いてくる。
「どうもどうも。ワタクシ王都で役人をやってるディーノと申します。ユージさんのお噂はかねがね聞いておりますよ」
あらやだ、なんのお噂でしょう……
次話へ続く




