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第37話「三十六計逃げるに如かず」


──土のダンジョン、ボス部屋。


「おいっ! こっちを見ろよデカブツがっ!」


 俺の叫び声にアースゴーレムが反応した。

 ダイノスはニヤリと笑った。


「今度は何を見せてくれるんだ?」


 リディアは俺の弱さを知ってるからか、顔面蒼白だ。


「ちょっとユージ!? アンタ何する気なの!?」


 まぁ見てなって。一回こっきりの隠し球をお見舞いしてやる!


「ダイノス! 右手は頼んだぞ!」


「ハハハッ! 何をするのかは分からんが、任せとけ!」


 ダイノスは剣を強く握り直し、アースゴーレムの右手に集中攻撃を浴びせた。

 アースゴーレムはダイノスの攻撃を防ぐだけで手一杯になる。


 俺は大きく息を吸い、力の限り叫んだ。


「これでも喰らいやがれ! ウォーターボール!」


「なっ!?」


「えっ!? 魔法出せたの!?」


 右手を使えないアースゴーレムは仕方なく左手で俺の“魔法”をガードした。いや、してくれた。


『ゴォォッ?』


 ──パリンッ!


 俺は、とびっきりの決め顔でニヤリと笑う。


「──残念。それは回復薬だ……!」


 土の弱点は水。そんなのはこの世界の“常識”だろ? いいのか? 心臓がガラ空きだぞ?


「リディア!」


「──もう狙ってる! ファイアアロー!」


 勢いよく放たれた火の矢が、真っすぐにアースゴーレムの心臓を射抜いた。貫いた穴に火がのぼる。


『グ……ゴッ……!』


 アースゴーレムの動きが止まり、部屋には静寂が落ちる。


「なんだなんだ? 倒れないのか?」


「そんなはずは……間違いなく心臓を射抜いたわよ!?」


 ガラッ……ドゴォンッ!


 アースゴーレムの右手が外れ、地面に落ちる。

 そして、ゴロゴロと崩れ始めた。


 ズシィィィィィン……!


 ダイノスはまだ剣を構えたまま、じっとしている。


「終わった……のか?」


「えぇ。もう起きてはこないわね……」


 俺は脱力感からその場にへたり込む。やっと終わった……たいして何もしてないけど。


「あっ! そうだ! 魔核は!?」


 俺はボス部屋内を見渡すも、魔核らしき物が見当たらない。


「そういえば、見当たらないな」


 ダイノスもキョロキョロと辺りを見渡す。

 えっ? 魔核ないの? スタンピード止まらなくない?


 俺たちが魔核を探していると、リディアはツカツカと崩れたアースゴーレムの元へ歩いていく。


 コンッ──


 リディアが杖先で貫いた心臓をコツンと叩いた。


「きっとこれがこのダンジョンの魔核よ」


「えっ!? そんなパターンもあるの!?」


「本来なら、魔核はボスとは別に守らせているの。でもこれは違う……」


「違う?」


「意思を持った魔核が、自分自身を魔物化したのよ」


「魔核に……意思がある?」


「それが証拠に、地震が止まってるわ」


 たしかに、スタンピードの前兆って言ってた地震がまったく起きなくなったな。


「なぁダイノス、これはスタンピードが止まったってことでいいのか?」


「あぁ。間違いなく止まったようだ。

 しかし流石だなユージ! 回復薬をボスに投げる奴なんか見たことないぞ!」


「ははは……たまたま手元にある水がそれしかなかったから……」


「それに、ウォーターボールのハッタリもよく思いついたな! でも、本当は魔法も使えたりしてな」


「いやいや、それはないよ! 魔法はからっきしだから……」


「お前は謙遜しながら全部やってきたからな。流石の俺もその言葉は信用できんな! ハハハッ!」


 だーめだこりゃ。信じてほしい事はまったく信じてくれないのに、信じなくていい事は勝手に勘違いしていく。何だコイツ。


「そうだそうだ、魔核を回収しないと」


 俺はアースゴーレムの残骸へ近付いていく。リディアが綺麗に貫いたから、塊で残ってるな。

 胸の所にすっぽりハマってるから、これ抜けるのかな?


「魔核は塊の方が高く売れるからな。壊さずに抜けたら儲けもんだぞ?」


「えっ? そうなの? ……中々抜けなくて」


 取っ掛かりがないから抜くの大変だな。

 俺は力の限り引き抜いてみた。筋力は5しかないけど。


 ──ズルッ!


「あっ……」


 バリンッ──!


 抜けた勢いで魔核は床へ落ち──ものの見事に粉々に砕けてしまった。


「……なんかごめんね」


「何やってんだよ! まったく……」


 ダイノスは呆れたように言った。だがその顔には笑みが溢れている。

 やれやれ、お前でもそんなミスをするんだな。って言いたげな顔してるな。どんだけ勘違いしてるんだよ、まったく……


「壊したから、ユージの取り分から引いとくわね」


「え〜、そんな〜」


「ふふふっ、冗談よ」


「ハハハハッ!」


 三人で笑い合っていると、ダイノスはリディアに視線を送り真剣な表情に戻った。


「リディア、すまんかった!」


「えっ、なによ突然……」


「俺、お前を疑っていた。お前は何か隠してる、パーティが解散したのもお前が何かしてるんじゃないかって思ってた」


「……」


「でも、お前といて分かったんだ。リディア、お前はそんな事するような奴じゃない」


「……もういいわよ。過去のことなんか」


「いや、良くない! 俺を殴ってくれ!」


 おいおいなんでそうなる。どんだけ脳筋なんだよ。


「嫌よ! なんで殴らなきゃいけないの!?」


「頼む! そうじゃなきゃ俺の気が収まらん!」


「リディア、ダイノスはもう一歩も引かないぞ?

 ひと思いにやっちゃえ」


「えぇっ!? ……もう、なんなのよ……」


 リディアは渋々ダイノスの方へと近付いていく。


 そして──


 ボカァァァァンッ!


「おぅふ!」


 えっ? コイツ、杖で思いっ切りいきやがった!

 ダイノス……死んでないよな? なんかピクピクしてるけど……


「さっ、帰りましょ♪」


 怖っわ……




 次話へ続く

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