第35話「最深部」
──土のダンジョン。??階。
「この扉は絶対そうだよなぁ」
俺は既視感のある扉を前にして、頭を抱えていた。この扉の先は、きっとボス部屋に繋がってる。
ここまではたまたま魔物に出会わなかったが、流石にボスは回避できそうにない。
たしか、前回のボス部屋は入ったら最後ボスを倒すまで扉は閉ざされたんだよな……。
「……ここで二人を待つしかないのか?
最深部だぞ? いつ追いついてくるんだ?」
絶望と不安に駆られながらとりあえず待つしかない俺は、なるべく空気になるように、魔物に気付かれないように静かに身を潜める。
すると──
ドゴォォォォンッ! ドガァァァァァンッ!
「何なんだよ……」
徐々に近付いてくる爆発音とともに、揺れによってパラパラと天井から小石が落ちてきた。
あぁ、このままダンジョンの崩落とともに死ぬのか──そう思った時。
「あっ! いたぞ! ユージだっ!」
「ホントに!? あぁ、良かった……やっと見つけた!」
なんとそこにはダイノスとリディアの姿が。
これは幻か? いや、現実だ……。良かった。もう怖くて寂しくて、安心感から腰が抜け、その場に座り込んでしまった。
「大丈夫かユージ!?」
ダイノスに肩を借りてようやく立つことが出来た俺の目には、薄っすらと光るものが。
「良かった……もうダメかと思ったよ」
「何言ってんだ、らしくない……んっ?
この扉は……ボス部屋か! ユージ、まさか一人でここまで辿り着くとは……流石だな」
ふふっ、今はお前のその勘違いすらも心地よくなってるよ。
「二人もよく無事だったな。なんかこのダンジョン凄いことになってたから。大丈夫だったのか?」
「それが、聞いてくれよ! リディアのやつ『ユージを探さなきゃ!』って半べそかきながらな」
「ちょっとダイノス!? 言わない約束でしょ!?」
なんだよリディア……可愛いとこあるじゃん。
「ユージを探そうって言い出したまではよかったんだ。だが、魔法を撃つたびに通路は崩れるわ、魔物は吹っ飛ぶわ、俺まで吹っ飛ぶわで散々だったぞ……」
んっ?
「魔法で通路が崩れる?」
「そうなんだよ! もう、めちゃくちゃ。
しまいにゃ魔物はコイツを見るだけで全部逃げ出す始末だ。大変なんてもんじゃなかったぞ!?」
リディアは顔を背けて赤らめている。照れてるのか? 「テヘッ♪」ってか?
……全部、お前の仕業だったのかぁぁぁぁっ!!
じゃあ、あの天井の崩落も、遠くで聞こえてた爆音も、魔物の大群も、全部リディア、お前のやらかし魔法かよ。
「リディア……お前……」
「なっ、なによ!? 助かったんだからいいじゃない!」
おっ? なんだおい、逆ギレか?
俺が睨みつけていると空気を察したのか少し俯きながらぼそりと呟いた。
「……一人で最深部まで来れたなんて、流石ね」
こいつ……それで丸く収めたつもりか?
俺が何も言えないとでも思ったか?
「死ぬとこだったんだぞ? 俺が一人じゃ何も出来ないって知ってるだろ?」
「はいはい、ごめんなさいね!」
「なんだよ! その言い方は!」
ダイノスに聞こえるようにあえて大きい声で言ってみた。さぁ、どうだ?
あっ、ダメだ。痴話ゲンカを見守る父親みたいな顔してる。
「おいおい、二人ともその辺にしとけ。
それよりも、いよいよボス部屋だぞ……」
そうだ。俺にはまだ不可避イベントがあったんだった。どうせこの部屋も入らずに外で待ってるなんて出来やしないんだ。
「……入るのか?」
「──当然だ!」
ダイノスはそう言うと、扉に手をかけた。
──ガッ、ガッ。
「ありゃ? 押しても引いても開かねぇぞ?」
「げっ! まさか鍵付きなの!?」
「なんだ? 鍵付きってどういうことだ?」
「たまにあるのよ……特に長い間未踏破のダンジョンなんかは、ボス部屋の鍵が見つからずに魔核の破壊ができてないパターンが多いわね」
「クソッ! 鍵を探しに引き返すしかないか……
こんなことしてる間にスタンピードが起きちまう!」
ドンッ!
ダイノスは歯を食いしばり扉を強く叩いた。
そして俺は、物凄く嫌な予感がして一歩後ずさる。そんな俺の違和感をリディアが見逃すはずがなかった。
「ユージ、もしかして鍵持ってるの?」
「えっ、な、なんのことだ?」
俺は咄嗟に鍵のことを隠そうとしたが、前世でもクソ真面目に人生を送ってきたせいで嘘が苦手だ。挙動不審な態度に、右手は鍵の存在を教えるようにポケットへと伸びていた。
「まさか……」
ダイノスが俺のポケットへ手を突っ込んできた。
違う、ダイノスそれじゃない。そう、それだ……
「鍵だ……!」
ダイノスは早速扉へと向かい鍵穴へ差し込むと、鍵を捻った。
──ガチャン!
「……開いた。ユージ、お前凄すぎるぞ」
たまたま拾った鍵でボス部屋が開くって、出来すぎだろ……こんなとこで運がまた俺を死地へ追い詰めてくる……
「いいか? 開くぞ……!」
ギィィィッ──
扉がゆっくり開く。
ドスン……ドスン……
闇の奥で何か巨大なものが動く。
赤い瞳が二つ開いた。
「……なんだ、あれ」
次話へ続く




