第33話「スタンピード」
──レグシア、冒険者ギルド。
「ダンジョンが溢れるって何だよ?」
俺は焦るダイノスに戸惑いながら質問した。
「スタンピードだ! ダンジョンが成長限界になると魔素が暴走してモンスターがダンジョンから溢れ出てくる!」
……はい? 溢れ出てくるって、モンスターの大行進ってことか。ふふ、ゲームみたいだな。
俺は恐怖が一周して、思わず笑ってしまった。人間、怖すぎると笑っちゃうんだな。
「……コイツ、笑ってやがる……!」
あっ、違うよダイノス。これは武者震いとかそんなんじゃないから。ただの死の予感です。
ん? でも待てよ……。
「おかしいぞダイノス。俺たちは確かにダンジョンの魔核を壊した。スタンピードは起こらないはずだろ?」
「おいおいユージ、ダンジョンはこの世界に大量に存在してるんだぞ? そんなの常識……そうか、お前に常識は通用しないんだったな」
おい、また馬鹿にしただろ。
「今回溢れそうなのはお前が踏破したダンジョンとは別だ」
おいおい、話を進めるんじゃないよ。
「そんなの、ダイノスが魔核を壊しに行けばいいじゃん」
「お前なぁ、そんな簡単に言うなよ。普通はお前みたいに単独踏破なんてしない」
「あっ、そういえばそんな事言ってたね」
「まったく、どんだけ規格外なんだよお前は。
とにかく、今からパーティを募って大規模な遠征なんてしてる時間は無いんだ!」
いや、だからって俺かよ! なんでこうも俺には不幸が舞い降りてくるんだよ。何が運5000オーバーだ……。
「ダイノスと俺たち三人で行くのか?」
「あぁ、状況が状況だけに急ぐ必要がある。
……リディア、いいか?」
「アタシは構わないけど、ダイノス、アナタはいいの? アタシと行っても……」
リディアがそう言うと、ダイノスは溜め息を一つ吐き俺を見た。
「正直まだ信用はしていないが、ユージが信じてるんだ。俺はユージの判断を信じる」
「そう……分かったわ。じゃあ早速行きましょ」
ちょっと待てよ。まだ俺が行くって言ってないだろ。
「二人が組むなら安心だな。じゃあ俺は──」
「何言ってんのよ」
「お前も行くに決まってるだろ」
あっ、もうそれは決定事項なんですね。なんだよ、お前ら息ぴったりじゃねぇか。
◆
──レグシアより西に20キロ、土のダンジョン。
「ここだ。準備はいいか?」
「ちょっと待って、準備よくないです」
こんなに歩くなんて聞いてないぞ。もう、体力の限界なんですけど。
「ここで一旦休憩しないか?」
「そんな悠長なこと言ってられるか! すぐ入るぞ!」
「えっ? 準備は? お前が聞いてきた──」
嫌がる俺をダイノスが無理矢理引っ張っていく。
そんな俺をリディアがクスクス笑いながら見ている。お前、覚えてろよ?
ダンジョン内に入ると、壁にはランプが設置されその先へ道が続いていた。
「えっ? なんで明かりが付いてるの?」
「あぁ、それは前に来た冒険者が魔石入りのランプを設置しているんだ」
それは助かるな。けど……
「えっ? もう冒険者来てるの? じゃあ魔核壊せるんじゃ……」
「残念だが、最深部には誰も到達していない。それに、スタンピードが近いと分かったら皆逃げやがった」
そりゃそうだ。誰だって自分の命は惜しい。
「でも、この間のダンジョンはすぐに魔核の部屋だったぞ?」
「そりゃまだ小さいダンジョンだって事だな。
このダンジョンは少なくとも20層以上はあるぞ」
なるほど、ダンジョンは成長するってそういう事か。成長したら広く深くなるんだな。
「えっ、じゃあ魔物もその分強いのか?」
「そうだが、ワイバーンとフェンリルを従えたお前なら一捻りだろ! ワハハハッ!」
俺が一捻りにされちゃうよ!? 実力で従えてないからね!?
しまったな、シロを連れてくれば良かったぞ……
「ちょっと、ユージ」
リディアが俺の袖を引っ張ってきた。
「ダイノスはアナタの実力、知らないの?」
ダイノスに聞こえないように小さく話しかけてくる。
「知らねーよ。何回言っても信じてくれねーんだよ」
「どうすんのよ? 本当は弱いってバレちゃうじゃない」
「その方がいいだろ! このままじゃいつか死んじゃうよ!」
「おいおい二人して何をこそこそ話してるんだ?」
「いや、何でもないわ。早く行きましょ」
何でもなくないだろ! この際ここでダイノスにちゃんと説明して、誤解を解かなきゃ!
その時、ダンジョン内が大きく揺れた。
ゴゴゴゴゴッ──
「なっ、なんだ!? 地震か?」
「マズイな……」
「マズイって?」
「これは、スタンピードの前兆よ。この揺れの間隔がどんどん短くなっていくの。
そして、耐えられなくなった時に──」
「──ドカンだ! その瞬間魔物が地上に溢れかえるぞ! 急ごう!」
あっ、ちょっと。まだ心の準備が……二人とも置いて行かないで!
俺が急いで一歩踏み出した時、足元が光り出しそこに魔法陣が浮かび上がる。
「あ? なんだこれ?」
「なっ!? それは転送魔法陣──」
「ちょっと! ユージ!」
光に目が眩み、俺は目を閉じる。
次に目を開けた時、そこにダイノスとリディアの姿は無かった。
「……ここはどこ? あれ? 二人はどこ?」
静寂の中、俺は一人ダンジョンのどこかに転送されていた。
これは……確実に死んだな。
次話へ続く




