第32話「嫌な予感」
──レグシア、冒険者ギルド。
俺たちは、エリスちゃんがいる一階に降りてきた。依頼の報告と、アルナ草の買い取りのためだ。
「エリスちゃん。この依頼の達成報告がしたいんだけど」
「あっユージさん! はい、たしかアルナ草の採取でしたよね? 何枚くらい採れましたか?」
「あー、ごめん。枚数は数えてないや」
「えっ?」
俺はカバンからアルナ草を取り出しカウンターに置いていく。
次々と積み上げられていくアルナ草を前に、エリスちゃんの表情がみるみる強張っていった。
「──これで全部なんだけど、どうかな?」
「ユージさん? また市場を崩壊させる気ですか?」
そう聞いてくるエリスちゃんの引きつった笑顔が怖い……。
アルナ草は高級化粧品の材料って書いてたからな。普通、こんなに採れないんだろう。
「ちょっと想定外なので、換金は時間がかかりそうです。依頼主に相談しないと」
「そういえば、依頼主って貴族かなんかなのか?」
「最終的に化粧品を買うのは貴族ですが、この素材の依頼主はエイルさんです」
おおっ! あの美女エルフのエイルさんか! もしかしたらまた会えるのかな。
あの握手した時の感触、まだ覚えてるよ……
「エイルさんが来るなら待ってようかな」
リディアがじーっとこちらを見ている。
なんだ? リディア。そんな顔して……もしかして、妬いてるのか? コイツ、可愛いところあるじゃん。
「ユージ……まさか……」
「そ、そんなんじゃないって!」
「まだ何も言ってないわよ」
とにかく俺たち、いや、俺はもうすぐギルドにやってくるエイルさんを待つことになった。
◆
──レグシア、冒険者ギルド。
一時間程待っただろうか。ご飯を食べながら待っていたら、エイルさんはやってきた。
「ユージさん! 申し訳ありません。お待たせしてしまいました」
「エイルさん! いえいえ、ご飯食べてたんで大丈夫ですよ」
来たぁぁぁっ! 相変わらずお美しい!
俺は舞い上がる気持ちを悟られないように、全力で平静を装う。
「それで、早速で悪いのですが、採ってきたアルナ草を見せてもらいたいのですが……」
エイルさんがそう言うと、カウンターの上にある布をエリスちゃんがめくる。
「こちらになります」
目の前にうず高く積まれたアルナ草を下から上まで視線で追い、エイルさんの喉がゴクリと鳴った。
「これまた……沢山ですね……」
俺とどっこいどっこいの作り笑顔でこちらを見てくる。次からは、相場の枚数を聞いてから採取に行こう。
「こ、今回は初回なので、適正価格で買い取らせてもらいますね。ただユージさん、高級素材は市場との兼ね合いもあるので……」
「はい、すみません。次からは採りすぎないようにします……」
「まぁ、本来そう簡単に採れる物じゃないんですけどね。貴族の方は品質はもちろんですが、その価格だからこそ買っていただいてるので」
あぁ、たしかに地球にもやたらブランド品で身を固めてる人いたな。
なるほど、住む星は違えど人は見栄を張りたがるものなのか。
「エイルさんは貴族のことをよくご存知のようで」
「薬師という仕事柄、懇意にしてもらってるので。良ろしければユージさんを紹介しましょうか?」
「えっ?」
俺が驚いていると、リディアが割って入ってきた。
「いや、大丈夫です! ユージ、買い取り終わったんなら行きましょ。それじゃあエイルさん、アタシたちはもう行くので」
「リディア……。えぇ、またよろしくお願いしますね」
おい、ちょっとリディア! 引っ張るなって!
せっかくのエイルさんが……あぁ、どんどん離れていく……。
「なぁリディアちょっと待てって! 貴族に紹介されると何かマズイことでもあんのか?」
「そうじゃないけど、貴族のお抱えハンターにでもなったら一生言いなりなのよ? それでもいいの?」
えっ? それって貴族のお金で一生採取が出来るってこと?
「むしろ、好都合じゃね?」
「あぁ、アナタはそうだったわね……」
リディアは頭を抱えながら続ける。
「アタシはご免よ。そうなったら、アナタ一人で行ってね」
「それは無理だ! よし、貴族と仲良くなるのは諦めよう!」
少し残念だが、リディアが付いてきてくれないなら無理だ。討伐依頼とかされたらもうおしまいだからな。
「貴族とのパイプは諦めるけど、たまにある高級素材の採取依頼は受けるからな」
「たまにならいいわよ。いい? あくまで“たまに”ならね!」
まぁ、良しとするか。安い討伐依頼でリディアを満足させておいて、採取で俺の安心安全を確保する……。
これで行くしかないな。
「次の依頼は、何を受ける?」
俺がそう言うと、リディアはニヤリと笑った。
「そうね。次は──」
──バンッ!
「おおっ! ユージ! ちょうどいい所に!」
振り返ると、ギルドの入り口にダイノスの姿が。なにやら慌てている様子に、嫌な予感が止まらない。
「ダンジョンが溢れそうなんだ! 手を貸してくれ!」
ダンジョンが溢れる? なにそれ美味しいの?
次話へ続く




