第30話「神獣と翼竜と」
──ロゼント山脈、中腹。
俺の前に広がる光景は、睨み合うワイバーンとフェンリル。そしてその二組に吠え続けているシロだ。
「リディア、これどういう状況?」
「あっ、アタシが聞きたいわよ……なんでフェンリルがこんな所に……」
「フェンリルってやっぱり珍しいのか?」
「珍しいなんてもんじゃないわ。アタシも歴史書でしか見たことない。あの見た目は、まさにフェンリルそのもの。それに、ステータス……」
「ステータス? 魔物のステータスも分かるのか?」
「ええ。あの高ステータスはまさに神獣よ。
ユージ。絶対ないだろうけど、フェンリルには挑まないようにね」
うん、絶対無いから大丈夫。ほら、見てみろよ。
あの唸り声。
『グルルルルッ!』
遠目からでも、近寄っちゃいけないって分かるよ。
しかし問題はシロだ。なんでアイツはそんなヤバそうな神獣とよりによってワイバーンに喧嘩を売ってるんだ?
『ギャオォォォッ!』
ワイバーンが、威嚇するように大きく翼を広げ雄叫びをあげる。
ビクッ! っと驚いたシロが後ろにたじろいだ時には、俺はワイバーンに向かって駆け出していた。
「ちょ、ちょっとユージ!?」
気付いた時には、俺はワイバーンの前に立ち塞がり、両手を広げ制止していた。
「まっ、待ってくれ! 俺が分かるか?
お前、落ち着けよ!」
『ギャオォォォッ! ギャァッ! ギャァッ!』
まるで、そこをどけと言わんばかりに吠え続けるワイバーン。
それでも俺は、説得を続ける。
「なっ? 頼むから……一旦落ち着いてくれ」
『ギャオォォ……ギャァッ! ……ギャァ……』
怒りで我を失っているように見えたワイバーンの瞳に、ようやく俺が映る。
『ギャァッ! グワッ! グワッ!』
そして、シロは何を思ったのか、今度はフェンリルに向かって吠えだした。
『ワンッ! ワンッ!』
やめろ、シロ。これ以上事を荒立てないでくれ。
『グルルルルッ! グルルルル……』
えっ? まさかフェンリルも落ち着いてくれた?
っていうか、シロ? お前がやったのか?
「シロ……お前一体何者なんだ?」
『わふっ!』
ペロペロ……
なんと、フェンリルはシロの顔を舐め始めた。
この光景は、転生前によく見たことあるぞ。
まさか──
「シロ……お前、フェンリルの子どもだったの?」
『わふっ!』
わふっ! じゃねぇよ。そうならそうと先に言ってくれよ。
「ちょっとユージ! これ、どういう状況なの?」
「……俺が聞きたいよ」
どうやら、親とはぐれて怪我をしていた仔フェンリルを俺たちが看病して、子どもを探していた親フェンリルがここいらを縄張りにしていたワイバーンを疑っていた。
こんな感じか? そして、そのワイバーンと知り合いの俺が止め、親フェンリルはシロが止めたと。
「ユージ?」
俺は、推測をリディアに話す。最初は信じられないといった顔をしていたが、シロのステータスを見て納得していた。
「その仮説、多分合ってるわ。シロのステータス、馬鹿げてるもの」
「えっ?」
「ユージはともかく、多分アタシもダイノスでもシロには勝てないと思う」
そんなに? 仔犬かと思って完全に油断してた。
んっ? ユージはともかく? あれ? 俺今ディスられてる?
「あれ? 今、失礼なこと言わなかったか?」
「これ、この後どうするの? 一件落着ってことなの?」
おい、聞けよ。無視すんな。
どうするもなにも、もうこの二匹が争う理由もないんだし、終わりで良いんじゃないの?
「なぁ、ワイバーン。もういいよな?」
『クァッ!』
『わっふ!』
『クゥゥゥン……』
ワイバーンが頷き、シロも元気よく鳴く。するとフェンリルも警戒を解いたように鼻を鳴らした。
おっ、シロもなだめてくれたみたいだ。ご褒美にヨシヨシしてやろう。
「シロ、ありがとな」
『わふっ!』
ははっ、やめろってシロ。顔を舐めるなよっ。
「呆れた……ワイバーンとフェンリルの喧嘩を仲裁なんて、聞いたことないわ」
「俺だけじゃ無理だって。シロがいてくれたからな! なぁシロ?」
『わっふ!』
「そのシロを助けたのはアナタでしょ。
それに、アルナ草。全部繋がってたのね……」
「ホント、偶然って怖いな」
「……アタシはユージが怖いわ」
俺かよ!? こんなモヤシ男が怖いって、俺はお前のやらかし魔法の方が怖いわっ!
「おっ、そうだ! ワイバーンに乗せてもらうか?」
「今なら、フェンリルにも乗れる気がするわね……」
『アオォォォーーーーーンッ!』
えっ、その遠吠えはなに? まさか……
「お前、乗せてくれるのか?」
『わっふ!』
俺の言葉に、シロが反応する。
いやいや、お前は無理だろ。小さすぎて乗れねぇって。
その時、フェンリルが俺の襟元を噛んできた。
えっ、食べるの? 仲良くなって終わりじゃないの?
──ポイッ!
フェンリルが首を捻ると、俺は簡単に宙を舞い背中に落ちた。
めっちゃふわふわじゃん! シロもふわふわだったが、親フェンリルはまた別格だな!
「乗せてくれるんだな? ありがとう!」
『ワンッ!』
「リディア! お前もワイバーンに乗せてもらえよ!」
「えっ、い、いいの?」
リディアがおっかなそうに尋ねると、ワイバーンは首を倒した。
「はははっ! いいみたいだぞ!」
「それじゃあ、お言葉に甘えて……」
俺たちはそれぞれ、フェンリルとワイバーンに乗り、ロゼント山脈をゆっくり下山していった。
「よっしゃ! 依頼も達成したし、このまま街まで送ってもらおう!」
「……大丈夫かしら」
次話へ続く




