第29話「アルナ草を求めて」
──ロゼント山脈、入り口。
また、ここに戻ってくるとは……。でもこの間とは違うぞ。
念のため回復薬も持ったし、なんたって今回はもうすでにワイバーンとは争うこともないからな。
「なぁリディア。アルナ草ってどこに生えてんだ?」
「分からないけど、かなり高価な薬草だし危険な崖とかに少し生えてるくらいじゃないの?」
「だよなぁー。ワイバーンなら何か知ってるかな」
「まさか、ワイバーンに聞く気なの!?」
「アイツら、頭良いんだぞ?」
「……そりゃ、ダイノスが勘違いするわね」
当てもなくアルナ草を探すより、ワイバーンの巣を目指して歩き出す。
んっ? あれは──
「なぁリディア。あそこに生えてるのって……」
「えっ? ……えぇっ!? なんでこんなとこにアルナ草が生えてんのよ!?」
それは、まだ山道に入る手前、壁のように立ち並ぶ断崖の根元。
めちゃくちゃ人目につく場所に大量に群生していた。
「えっ? もう終わり?」
「アナタの豪運には呆れを通り越して笑いが出てくるわホント……街を出れただけでも良しとするわ」
なんだかなぁ。今回は珍しく少しやる気だったのに。俺は、カバンに詰め込むために群生地へと歩いていく。
「こうなってくると、もしものための回復薬が邪魔だな」
「アタシだって、ワイバーンに乗れるかもってちょっと期待してたわよ」
カバンを広げ回復薬をどけながら、隙間にアルナ草を詰め込んでいく。こんなに沢山生えてるなら、パンパンに入れてもまだ採りきれないな。
これ、高級なんだよな。勿体ないな。
──んっ?
俺は何かに手が当たり、アルナ草をかき分ける。
そこには、柴犬程の大きさのほんの少し青色が入った綺麗な白い毛並みの犬がいた。
足には傷を負い、ピクピクと痙攣している。まさに死にかけだ。
「おいっ、大丈夫か? ちょっと待ってろよ!
今、回復薬を……」
俺はカバンから回復薬を取り出すと、犬の口へと流すも、力なく口をパクパクさせるだけで飲んでくれない。
「ユージ! 回復薬は傷口にかけるだけでも多少の効果はあるわよ!」
えっ、そうなの? ダイノスががぶ飲みしてたから、てっきり飲まないとダメかと思った。
それならと、ゆっくり傷口に注いでいく。
パアァァァァッ──
淡い光とともに、傷口が塞がっていった。
犬の表情が少し落ち着いたので、口にも回復薬を近づけてみる。おっ、今度はちゃんと飲んでくれた。
身体が僅かに光った後に、犬はゆっくりと目を開く。
「良かった……元気になった、かな。流れた血は戻らないってダイノスが言ってたし、リディア、なにか食べられそうなものあるか?」
「干し肉なら。まだ完全じゃないみたいだし、小さく千切って回復薬でふやかして食べさせたら?」
「ありがとう!」
俺は、少しずつ、犬のペースに合わせてゆっくりと干し肉を与えていく。
食べる度に、元気になっていくのが分かる。徐々に身体を起こし、ガツガツと食べ始めた。
「おいおい、慌てんなって。干し肉はどっか行かないから、ゆっくり食べな?」
それにしても、綺麗な毛並みだなぁ。触っても噛まないかな……うわっ、もっふもふじゃん。
「お前、親犬はいないのか? 怪我してたし、はぐれちゃったのかな」
「まさかユージ、その子の親を探そうなんて言わないわよね?」
「なんで? 可哀想じゃん」
「この辺にいるとは限らないわよ?」
「元々行く予定だったんだ。ワイバーンに聞いてみようぜ。なっ? お前も両親に会いたいだろ?」
『わふっ!』
「可愛いなぁ、コイツ。犬って呼ぶのもなんだな。よし、名前を付けてやる」
仔犬は、キラキラした目で俺を見てきた。
「目がくりくりしてて、このもっふもふの毛並み。
うん。お前の名前は、シロだ!」
「雑すぎない!?」
『わっふ!』
おっ、気に入ってくれてるのか、尻尾を振りながらすりすりしてきた。
「ほら、シロは気に入ってるみたいだぞ?」
「アンタがそれでいいなら、何も言わないわよ」
リディアはシロを見ながら、呆れ気味に笑う。
『わっふ! わんわんっ!』
「あっおい、ちょっと待てって!」
シロは、尻尾を振りながらロゼント山脈に入っていく。
「まったく……あっ! ヤバい!」
「あっ、ワイバーン……」
「──急げリディア! シロが食べられる!」
俺たちは、追いかけるようにして山道を走り出す。ヤバいぞ、シロが食べられる前になんとか追いつかなきゃ。
◆
──ロゼント山脈、中腹。
「リディア、ちょっとタンマ……ぜぇぜぇ。
もう少し、ゆっくり行こうぜ……オェッ!」
「体力無さすぎよ! レベルアップ付き合ってあげるから、アンタも少しは戦いなさいよ!」
「それは……遠慮しとく。はぁ、はぁっ……
俺は平和に暮らしたいんだ……」
俺はリディアに腰を押されながら、辛うじて足を動かしている。
シロはどこまで行ったんだろうか。
「あれ? ユージ! なんか声が聞こえない?」
そうか? 自分の呼吸音が邪魔で何も聞こえないぞ?
んっ? たしかに、微かに聞こえるあの声は、きっとシロだ。敵にでも出くわしたか?
「──ワイバーンかっ! おい、リディア急げ!」
俺はさっきまでの疲労が嘘みたいに猛ダッシュで駆け上がった。
「あっ、ちょっと、アンタまさか今まで温存してたの!? 最低ね!」
俺たちは、シロの声が聞こえる方へと急いだ。
「あっ! いたぞ!」
シロは、ワイバーンに向かって大声で吠えていた。そして、そこにはシロの毛並みそっくりな大きな犬が一匹。
アレがシロの親犬なのか? デカすぎだろ。大人二人くらいなら余裕で乗れそうだ。
「あっ、あ……あ……」
「どうしたリディア?」
「あれは……フェンリル……なの?」
なにそれ? フェンリルって、あのフェンリル?
ゲームだと、神獣とか、最強とか言われてる?
……どういう状況?
次話へ続く




