第28話「ある魔法使いの話」
──ギルドマスターの家、客間。
「気を付ける? 話が見えないんだけど」
ダイノスが何を言いたいのか、本当に分からない。気を付けるって? 焼き殺されないようにリディアの前には立たないとかそんな話か?
「アイツがギルドに来て、たしか七年か」
「そんなに経つのか。冒険者を七年って、凄いな」
「まぁ聞け」
ダイノスはそう言うと席を立ち上がり、続けた。
「アイツが加入したパーティは、ことごとく解散、失踪している」
「えっ?」
「今ではアイツと組みたがる奴は一人もいなくなっちまった」
「どういう事だ? 一体何があったんだ?」
「それが分からないから、気を付けろと言ってるんだ。アイツには……なにかある」
ガチャッ──
話を聞いていたギルドマスターがドアを開けて入ってくる。
「あまり憶測で語るのは感心しないな」
「マスター……。マスターは、なにか知ってるんですか?」
「リディアの元パーティメンバーは全員街を去っているか、引退したからな。俺も詳しくは聞けていない」
「それじゃあ……」
「だがまぁ、気を付けるに越したことはない」
なんだよ。分からないなら、変なこと言うなよ。
次、リディアと会うとき気まずいじゃん。
「お前はどうなんだ? ユージ。一緒に仕事してみて、なにか感じなかったか?」
「いや、冒険が大好きな、普通の女の子だよ。
ちょっと力加減が難しいみたいだがな」
「怪しい動きも、なしか?」
「あぁ、少なくとも俺といるときは、な」
俺だって伊達に五年間、ブラック企業で営業をやってきたわけじゃない。
嘘をつく人間も、都合の悪いことを隠してる人間も嫌というほど見てきた。
リディアは、なにか隠してる顔をしてるが、あの冒険好きは本心だ。
「俺はアイツを信じる。いつか、リディアから言ってくれるまで待つさ」
「ユージ……すまなかった! 変なこと言っちまったな。俺たちだって、同じギルドの仲間だ。リディアが心配ではあるんだ」
「アイツのこと、頼んだぞ」
「ははっ、言われなくてもアイツとはパーティを組んでるからな」
俺は、マスターに軽く会釈をし、部屋を後にする。ドアに手をかけ、振り返る。
「ダイノス」
「なんだ?」
「門まで一緒に来てくれ」
「あぁ、別に構わないが、どうしたんだ?」
一人だと、マックス君に喰い殺されるからだよ。
◆
──翌日。冒険者ギルド。
次の日ギルドにやってくると、リディアは先にテーブルにつき、食事をしていた。
「よぉ、今日はどうする?」
「……昨日はアタシのわがままでダンジョンに付き合ってもらったから、今日は採取でもいいわよ?」
どういう風の吹き回しだ? 俺は食事を頼み、席につく。
昨日のこと、少しは気にしてるのかな。あぁ、やっぱりちょっと気まずい。……ダイノスめ、余計なことを。
「……ねぇ、ユージ」
「ん? どうした?」
「ダイノスから、なにか聞いたんでしょ?
なんで何も聞いてこないの?」
やっぱり。気にしてたんだな。
「別に。なにか事情があるんだろ? リディアが話したくなったら、その時に聞くよ」
そんな悲しげな顔で見るなよ。らしくないな。
俺は席を立ち、依頼ボードの方へと歩いていく。
こういう時は、なにかしてないと気が紛れないからな。仕事でもして、忘れようぜ。
あれ? 俺ちょっとカッコいいんじゃないか?
依頼ボードを眺めて、今日の依頼を探す。
『リザードの討伐』──却下。怖い。
『商隊の護衛』──却下。こっちが護衛してもらいたいくらいだ。
『下水道のドブ攫い』──んー、ちょっと有りだが、今リディアは街の外に出たほうが気が紛れるか……。
んっ? こ、これは──
『高級薬草アルナ草の採取』
薬草依頼は無くなったはずじゃ……。これは、薬草ハンター復活か?
俺は依頼書を剥がし、リディアの元へ向かう。
「リディア! これ、アルナ草ってなに?」
「あぁ、それは高級化粧品の材料ね。おそらく、貴族の依頼ってとこかしら」
あぁ、なるほど。回復薬の材料ってことじゃないわけね。
「これ、行こう!」
「いいけど……それ、ロゼント山脈にしか生えてないわよ?」
「ふふふっ……」
「え、なによ……」
「ロゼント山脈、むしろ好都合だ。ワイバーンは最早、恐怖の対象ではないのだよ」
「あっ、そうか。アナタ、ワイバーンと仲良くなってたんだっけ」
これは、勝確採取依頼だ! あのワイバーン夫婦にもまた会えるし、アイツら頭良いから、聞いたら普通に案内してくれそうだ。
しかも、依頼料は銀貨十枚。薬草は極運パワーでパンパンに採れるから、この一回でアルナ草を採り尽くしてやる!
「行こう! リディア! 今回は俺に任せとけ!」
「その自信、ちょっと怖いわね……」
今回ばかりは、その予感は大外れだ!
薬草ハンターの本領発揮、とくと味わうがいい!
ハハハハッ! フハハハハハッ!
次話へ続く




