第26話「実家のような安心感」
──レグシア近郊、謎のダンジョンボス部屋。
「う……ん、あっ、ユージ。おはよう」
「おはよう、じゃねぇよ。危うく二人とも死にかけてたぞ」
「生きてるからいいじゃん。パラライズモスは?」
リディアは杖を振るい、火を壁に放った。
ボス部屋が、明るく照らされる。
「あっ、ちゃんと倒せてたみたいね」
パラライズモスは全く動かない。床に流れる紫色の血が、壮絶な最期を物語っている。
部屋の天井に薄っすらと残る鱗粉は、どうやら引火しないみたいだ。
そして──
「アレが、魔核……なのか?」
部屋の奥に、紫色に光るソフトボール程の大きさの玉。台座の上で僅かに浮かび、ゆらゆらと揺れながら回転している。
「そうよ。アレを壊せば、ダンジョンの成長は止まるわ」
「壊した瞬間、ダンジョンが崩壊するなんてことはないよな?」
「えぇ、おそらく。ダンジョンが壊れたなんて聞いたことないわ」
それなら……。俺は立ち上がり、魔核へ近付いていく。
「台座から落とせば、勝手に壊れるわよ」
「分かった……!」
そっと魔核へ手を近付ける。触れた手が、ほんのりと温かい。
ゆっくりと押すと、そんなに力を入れなくても、台座からゴロンと落ちていった。
──バリンッ!
落ちた魔核は粉々に割れ、床に破片が広がっていった。
「えっ、これで終わり?」
「そうよ」
「なんか、別にこれといって変化は無いんだな」
「そうね。成長が止まっただけだから、見た目にも変化は無いわね」
俺が拍子抜けしていると、リディアは立ち上がり、魔核の破片を集めだした。
「んっ? 何してるの?」
「この割れた破片、一つ一つが魔石なの。
ユージ、ダンジョン攻略はモンスター討伐の比にならないわよ」
「えっ、それってつまり……?」
「アナタが言ってた、家を建てるってのも、そう遠くないわね」
……っ! マジかよ! いやいや、騙されるとこだった。今回もギリギリだったじゃねぇか。
この先、もし魔法が効かない魔物がいたら、その瞬間終わりだぞ。
せめて剣士の一人くらい仲間がいないと、って違う違う。何をダンジョンに前向きになってんだ!
あぁ、もう! ダイノスが頭を過ぎりやがった!
アイツ誘ったら、ノリノリで付いてきそうだし。
「おーい? ユージ?」
「俺は絶対に! ダンジョンなんか行かないからな!」
「なによ、急に……」
「帰るぞ!」
「なんなのよ……」
◆
──レグシア、冒険者ギルド。
帰ってきた……いや、帰ってこれた。まさか、冒険者ギルドを見てこんな風に思う日が来るとは。
ギィッ──
ギルドへ入るやいなや、痛いほどに視線が突き刺さる。えっ? まだ何もしてないよ?
あっ、エリスちゃん……何故俺の顔を見るなり涙を浮かべてるの?
「ユージさんっ! 良かった……無事だったんですね……!」
ヤバい。エリスちゃんの温度感が意味不明すぎる。みんなの中では、俺はゴブリン討伐に行っただけだろ?
はっ! まさか、すでにステータスの事は知ってて、心配してくれてたのか!?
「ど、どうしたの?」
エリスちゃんは、堪えきれず溢れた涙を拭い、顔を赤らめながら鼻をスンスンさせている。
「どうしたも何も、ゴブリン討伐に行ったっきり帰ってこないから、次の日ダイノスさんが森へ様子を見に行ったんですよ?」
「うん」
「そしたら、森だった場所は焼け野原になってて、ゴブリンどころか、ユージさんたちの姿もなくて」
あー……
「それに、そこにはダンジョンも見つかって……」
俺は、リディアに視線を向ける。おいおい、顔をそらすなよ。
「未発見のダンジョンなんて危ない所、普通は大規模な先遣隊を送って調査するのに、きっとユージさんは単独で入ってるってダイノスさんが……」
リディア、後で話がある。おい、こっちを見ろよ。
「それで……ぐすんっ。ダンジョンはどうなったんですか? 入ってたんですよね?」
「あー、その、なんだ。えっと、はいこれ」
俺は半ばヤケクソになりながら、カバンから取り出した魔石とパラライズモスの素材をカウンターに置いた。
ザワザワッ──!
ギルド内の注目を一身に浴びる。こっからどうやってリディアがしたことを信じてもらおうかな……
「ま、魔核の破壊に成功したんですか? それに、これはパラライズモスの素材……」
「そ、そんなに凄いの……?」
「凄い……ですけど、これもAランクなんで、ユージさんにとっては普通かもしれないですね」
リディア、いいのか? このままじゃ君の手柄は全部俺のものになっちゃうよ?
あぁ、もう。なんでずっと俯いてるんだよっ!
「あのね、エリスちゃん。これは全部リディ──」
バンッ──!
「ユージ! 良かった……! 街でお前を見たって聞いて、飛んできたぞ!」
出た! タイミング! どうしてお前はいつもそうなんだ、ダイノスよ。
ズカズカと歩み寄ってきて、豪快にハグをされる。痛い、痛いのよ毎回。
「どうせお前の事だ。あのダンジョンに──って、これは……まさか……」
もう分かってるから。そんなに間を使わなくても分かってるから。
「……流石だ」
…………。
次話へ続く




