第25話「開かずの扉」
──レグシア近郊、謎のダンジョンボス部屋前。
「ボスなんて聞いてない! 帰ろう!」
「ここまで来といてなに言ってんの!?」
ここはゴネるぞ……! 雑魚モンスターですら無理なのに、ボスなんてもう、自殺願望者じゃねーか。
俺は、絶対に帰る!
「無理だよ! 無理無理っ!」
「もうっ! そんなに嫌なら一人で帰ればいいじゃない! 私は一人でも行くわよ!」
「一人で帰れるわけないだろう! 何言ってんだ!?」
「じゃあ、諦めて来なさいよ! 絶対守るから!」
うーん……いや、無理だ! 流石のリディアでも、ボス戦を無傷ってわけにはいかないだろう。ダイノスだってワイバーンにやられかけてたし。
「と、扉の前で、待ってるってのは……どうでしょう?」
「無し! 行くわよ!」
え、ちょっ、引っ張るなって! てか魔法使いの筋力にも勝てないのかよ、俺。どんどん扉に近付いていく……
あぁっ、だ、誰か助けてぇぇぇぇっ!
ギィィィィ、バタン──ガチャッ。
「えっ、今、ガチャッって……ちょ、リディア?
扉が開かないんだけど!」
「ボス部屋は魔核を壊すまで開かないわよ。
もういい加減、諦めなさい」
マジかよ! いざって時にも逃げることすら出来ないじゃん! てか真っ暗で何も見えないし!
「リディア、明かり! 明かりを!」
「分かってるわよ! いちいち騒がないで!」
リディアが杖を振るうと、部屋の四方に火が飛んでいく。壁に貼り付き炎が部屋を灯す。
そこに現れたのは──
巨大な蛾のような魔物。ゆっくりと羽ばたき、その羽からは、鱗粉が舞っている。
「あっ、マズイわね……」
「えっ? マズイって……」
「アレは、パラライズモス。別名、女王蛾」
「パラライズ……って女王!? デカすぎるだろあれ! トラックくらいあるじゃん!」
「トラックって何よ!?」
「こっちの話だ……。それで? 何がマズイの?」
「あの鱗粉、火に弱いのよ……」
「良いじゃん! サクッと燃やしちゃおう!」
「そうじゃなくて、爆発しちゃうの。アイツは倒せても、アタシたちまで巻き込まれるわ」
終わった──。
「ユージ! この鱗粉は吸っちゃダメよ!」
「何だよ! 死ぬやつか!?」
「麻痺毒! 吸ったら動けなくなって食べられるわよ!」
マジかよ! 俺は袖で必死に口を押さえながら、後退りする。火で燃やしてもダメ、鱗粉を吸ってもダメ。
もうこれ、無理ゲーじゃん。アイツが羽ばたく度に、死の粉がどんどん部屋に充満してくる。んっ?
「リディア? あの壁の火は、大丈夫なの?」
「今の所は……ね。これ以上鱗粉が舞うと、ヤバいかも……」
「詰んでんじゃん!」
◆
まさに絶体絶命。パラライズモスはぐるぐると羽ばたき、鱗粉を撒き散らしている。
じわじわとなぶり殺しにする気か。
「リディア! どうする?」
「……全部、吹き飛ばしてやる……!」
リディアが強く杖を握りしめると、辺りの空気がざわめきだした。足元の石ころがカタカタと小さく揺れる。
「ウイングクラッシュ!」
杖の先から放たれた風が、巨大蛾よりもさらに大きな竜巻になり飛んでいく。
えっ、これって大丈夫なやつなの?
竜巻は、巨大蛾を巻き込み、鱗粉もろとも部屋の壁に叩きつけた。
ドゴォォォォンッ!
その瞬間──部屋中に鱗粉が砂埃とともに拡散していく。壁に貼り付いていた火は、砂埃にかき消されるように、フッと消えていく。
俺は、薄れゆく意識の中、巨大蛾がピクピクと痙攣し、やがて動かなくなった時に、視界が暗転していった。
◆
「うっ……俺、生きてるの……か?」
次に目を覚ました時、隣ではリディアがいびきをかきながら幸せそうな顔をして眠っている。
どうやら、巨大蛾は圧死していたようだ。
痺れる身体を引きずりながら、リディアに近付いていく。そして、思い切り頭を叩いた。
「しっかりやらかしてんじゃねぇか!」
スパァァァァンッ!
次話へ続く




