第22話「はじめてのダンジョン探索」
──レグシア近郊、謎のダンジョン1F。
「リディア! ここは危険だ! 帰ろう!」
「コウモリくらいで何言ってんのよ!?」
ここは俺に任せて、行け! くらいのテンションで言ってみてもダメだった……。
こいつ、どんだけ冒険が好きなんだよ。
これはアレか。このダンジョンを踏破するまで帰らない気なんじゃ……
流石にそれはしんどいぞ。
「どこまで進む気なんだ?」
「どうだろう。このダンジョンがどのくらい広いか分からないけど、早いとこ食料は確保したいわね」
「食料?」
「えぇ。水も必要ね」
泊まる気じゃん! こいつ、ダンジョンに泊まる気じゃん!
「夕方には帰るんじゃないのか?」
「日帰りなんて勿体ないじゃない」
なにが!? なにが勿体ないの!? 今日限定のダンジョンだったら分かるけど、明日もあるだろうし良くない!?
「そんな、突然消えたりしないから、また後日探索すればいいじゃん」
「それこそ勿体ないわよ! 誰かが魔核を破壊したらどうするの?」
「まっ……魔核?」
うん。リディアさん、君の目を見れば何を言いたいのか分かるよ。
きっと、魔核ってのはこの世界の常識なんだね。
「アナタまさか……」
「うん、知らないね」
「ハァ……。いい? 魔核っていうのはね、言わばダンジョンの心臓なの。魔核が周辺の魔素を吸って、ダンジョンという生き物を成長させてる」
「ダンジョンって、生きてんの!? 成長って……
じゃあなにか? 明日来たら中が変わってるのか?」
「そんな急激な成長は聞いたことないけど。長い年月をかけて、ゆっくり成長してるの」
なんと……。じゃあ、ダンジョンの入り口はまさに口ってことか?
俺たちが歩いてるここは、食道か? なんか、食べられてるみたいで気持ち悪いな。
「おっ、銅貨見っけ」
「ちょっと! 罠かもしれない──」
カチッ──バシュンッ!
俺は、まるで硬直したかのように動きを止める。
銅貨を拾おうと身を屈めた、その瞬間。
さっきまで俺の頭があった位置を、一本の矢が凄まじい勢いで横切った。
ドスッ!
矢は背後の壁に深々と突き刺さり、矢羽だけが小刻みに震えている。
俺は、わけもわからずリディアに視線を向けると、そそくさと足をどけていた。
リディアの足があった地面の凹みが、ゆっくりと元に戻る。
「あのー、リディアさん? これは一体……」
「どうやら、罠のようね」
いや、お前だよな? そこの地面を踏んだら作動するタイプの罠だろこれ。
「罠っていうのはね、ダンジョンが自分の魔核を守るために張り巡らせてるの。
魔物も同じ。最奥部に近付くにつれて、魔物も罠も凶悪になっていくわ」
「聞いてないことをつらつらと……おいっ!
誤魔化してるだろ! リディアだよな? 今、罠発動させたの!」
「えぇ、そうよ? 悪い?」
「開き直るのは違くない!?」
このままじゃ魔物に殺される前にリディアに殺されてしまう……。
んっ? あれは……
「リディア! 魔物だっ! 魔物がいるぞ!」
「大きい声出さなくても見えてるわよっ!」
『グルルルルッ!』
あぁ、やっぱり帰れば良かった……。
ジリジリと近付いてくる狼のような魔物が二匹。
あっ、二匹の後ろからもう一匹来た。はい、おしまいおしまい。
「リディア、これもう無理だろ……もうヘルフレイムでもなんでもいいから撃ってくれ。
噛み殺されるより、一瞬で死にたい……」
「何言ってんの、このくらいで」
そう言うと、リディアが杖を横に構える。
まるで弓を引き絞るかのように、左手が空中へと伸ばされた。
その指先と杖の先端を結ぶように、赤い光の弦が張られる。
「──ファイアアロー」
弦が引き絞られる。
すると、杖の先に三本の炎の矢が現れた。
矢じりは白く輝き、その周囲では熱気によって空気が揺らめいている。
「いけっ!」
リディアが指を離した瞬間、炎の矢は弦から解き放たれた。
ヒュンッ!
三本の矢は一直線に飛び出し、宙で扇状に広がる。
そして──。
ドスドスドスッ! ──ボッ!
放たれた三本の矢は、見事に狼の魔物を貫き、その瞬間、小さく爆ぜるように炎が上がった。
「ちゃんと、火加減も出来るのかよ……」
「だから最初からずっと言ってるじゃない」
これなら、案外大丈夫なのかも──いやいや、騙されちゃダメだ! 戦闘は完全にリディア任せになるから、慎重に判断しなければ……。
「よし、それじゃあそろそろ──」
「帰らないわよ?」
「だから、何でわかるんだよ!」
次話へ続く




