第21話「Eランクの実力」
──レグシア近郊、森の中。ゴブリンの集落。
「ユージ、もう一度言ってみなさいよ」
「何回でも言ってやるよ! こんなの詐欺だ!
リディアがEランクだなんて……もう無理だ。勝てっこない」
俺は頭を抱えてその場にへたり込む。そりゃそうだ。ゴブリンの数は、見えている範囲だけでも二十匹はくだらない。
到底家とは呼べないようなボロ小屋にいるであろうゴブリンも入れると、その数は計り知れない。
「……諦めて帰ろう。なっ? いいだろ?」
「……もう、アッタマきた。ちょっとどいて!」
「あっ、おい。何する気だよ!」
「いいから、黙って見てなさい」
リディアが杖を掲げる。魔力が渦を巻き、杖の先に光が集まっていく。
「──ヘルフレイム」
次の瞬間。
森の奥が真昼のように赤く染まった。
轟音。
熱風。
──そして数秒後。
そこにあったはずのゴブリンの集落は、消えた。
集落どころではない、この辺りに森なんて無かったかのように、綺麗さっぱり消えていた。
「ふぅ、終わったわよ」
「……えっ? Eランク?」
「なによ? これでも、アタシの実力になにか文句あるの?」
「いえ、なんでもない……です」
これがこの世界のEランク魔法使いの実力なの?
ただの化物じゃん。
「ははは……」
俺はもう、笑うしかなかった。
「んっ? これでギルドに報告すれば終わりなのか?」
「──あっ!」
「えっ?」
「どうしよう……討伐部位。ゴブリン討伐の証明は右耳をその証拠にしてるの」
「右耳? ってどこにあるの?」
目の前には、まるでそこには初めから何も無かったかのような、焼け野原が広がっているだけだ。
「あぁ、やっちゃった……」
うん、大分やっちゃってるね。まさかリディアってやらかし系の魔法使いなの? そうか、だから万年Eランクなのか……可哀想に。
「まぁ、気にすんなって」
俺がリディアの頭をポンポンと優しく叩くと、その手を払いのけてきた。照れんなって、可愛いな。
「……次、子ども扱いしたら、アナタに撃つわよ」
「あっ、はい。すみません」
どうしようもないので、街に帰ろうとした、その時だった。
リディアが燃やし尽くした、焼け野原の奥に見えている岩山の下に、大きな穴が空いているのが見えた。
「なぁ、リディア。あれ、あの穴なんだろう?」
「えっ、何かしら。洞穴? どうする?」
「どうするって、魔物いたら怖いし、帰ろう」
「いや、そこは普通行くでしょ!?」
またしても、嫌がる俺をリディアは強引に引っ張っていく。
そして、洞穴の入り口にやってきた。
「これ……魔物の巣かなんかじゃないのか?」
「いや、入り口に向かって魔素が流れ込んでる。
これは、おそらくダンジョンよ」
ダンジョン!? 絶対ヤバいじゃん!
「よし、帰ろう!」
「なんでよ! ダンジョンなんて一番の冒険じゃない!」
「だからだよ! こんな中でさっきのやつ撃ってみろよ、俺らも丸焦げだよ! いや、焦げ跡が残ればいい方だな」
「ちゃんと抑えて撃つから大丈夫だって!」
「嫌だよ! 次はあちゃー、じゃ済まないぞ!」
俺とリディアは、あーでもない、こーでもないと押し問答を繰り返していた。
それでも、彼女が折れることはなく、時間だけが虚しく過ぎていく。
「じゃあ、これならどう? 中に入って、ユージが危険だと判断したら、すぐに引き返す」
「……本当か?」
「えぇ、約束する。その変わり、一歩入って危険だ! とか騒がないでね?」
「……何故分かった!?」
「アナタの考えそうなことくらい分かるわよ!
えっ、そのつもりだったの?」
あぁー、絶対嫌な予感しかしないなぁ。ちょっと行って、魔物が出たらすぐに帰れば、なんとかなるか?
「もう一つ、お願いがある」
「なに?」
「……リディアが前な」
「はいはい、分かりましたよ」
◆
──レグシア近郊、謎のダンジョン1F。
俺たちは、謎に包まれた洞窟みたいなダンジョン? の入り口をゆっくり進んでいる。
ゆっくりというか、俺がずっとリディアの服を掴んで引っ張ってるから、中々進めないだけなのだが。
「ちょっと! 引っ張りすぎよ! 進めないじゃない!」
「歩くの早いんだよ! 電気無いの!? 電気!
暗いし、怖いし、なんかじめじめしてるし……」
「あーもう! ほらっ、これで文句ないでしょ?」
リディアはそう言うと、杖の先から小さな火を出し壁に向かって放つ。
その火は消えることなく、ピタッと壁に貼り付くように留まった。
「おぉ、すげー! 火がくっついてる!」
「このくらいでいちいち驚かないでよ……」
しょうがないだろ。魔法なんて見たこと無かったんだから。それにしても有能だな。
……なんでEランクなんだよ。なんか、怖くなってきたぞ。
「なんでこんな凄い魔法いっぱい使えるのに、一人で冒険者やってるんだ?」
「……なんだって良いじゃない」
ははーん、訳ありってことか。ここで深く聞くのはガキのすること。
大人な俺は広い心で訳あり美女魔法使いを包み込んであげるのさ。
バサバサバサバサッ──!
「うぎゃあぁぁっ! こっ、コウモリィィッ!?」
次話へ続く




