第13話「ワイバーン警報発令中」
──ロゼント山脈、ワイバーンの巣。
「まさか、ワイバーンに乗れる日が来るなんてな」
俺は今、力が入らないダイノスを、ワイバーンの背中に括り付けている。
「そんなに珍しいのか?」
「あぁ、帝国にはワイバーン部隊がいるらしいが、卵から孵して育てた奴にしか乗れんらしい」
まぁ、たしかに。最初は乗れるなんて微塵も思わなかったな。
「それなのに、野生のワイバーンをいとも簡単に……」
「たまたまだよ、たまたま」
「ふふふ……俺に謙遜するのはよせ。お前の凄さはちゃんと分かってる」
分かってないんだよダイノス。俺は何一つ嘘ついてないからな。
本当に全部たまたまなんだよ。なんで急に懐いたのか、俺が聞きたいくらいだ。
ダイノスを固定出来たから、今度は俺がワイバーンの背中に乗る。
乗れないことはないんだが……。
「なぁ、お前本当に飛べるのか?」
『クァッ、クァッ!』
任せろ! ってか? なんだよ、コイツ。なかなか可愛いじゃないか。
「よし! 行くぞ! ワイバーン!」
『クアァァァァッ!』
ギュュュュューッ!
「あっ!? ちょっ、ストップ! とま、止まれ!」
『クァッ?』
あ、危なかった……! こんな急発進をするとは。落ちかけたぞ……。
「な、なぁ。もうちょっとゆっくり飛んでくれ」
『クァッ?』
クァッ? じゃねぇよ。分かってんのか?
可愛く言ってもダメなもんはダメだ。
「いいか? ゆっくりだ、ゆーっくり!」
『クァッ!』
おぉ、分かってくれたか。本当に賢いな。
「これが……ワイバーンの見てる景色か」
するとワイバーンは、街とは違う方角へ旋回を始める。何事かと思っていると、着いたそこは、まさにワイバーンの巣だった。
小さな雛鳥──いや、雛ワイバーンがクチバシを開けてお出迎えしてくれている。
「……子どもを見せたかったのか? んっ?」
巣の入り口付近に転がる大きな黒い塊が目に入る。なんだこれ?
「……ひっ!? と、鳥の死骸?」
なんだこれ。コイツがワイバーンの餌なのか?
自分たちとほとんど変わらない大きさの鳥を食うなんて、流石Aランクの魔物だな。
──カンッ!
何かが俺の足に当たる。
「んっ? えっ、これ、俺の剣? なんで?
てか、これ……血!? まだ使ってないのに……」
俺は、足りない頭をフル回転させ、状況を整理した。
ワイバーンの巣に不釣り合いな巨大鳥の死骸。
何故か転がっている俺の剣には血。
この巣から、さっきまでいた岩場が見える。
空中で飛び回り、こちらを相手にしていなかったワイバーン二匹。おそらく夫婦。
ははーん。これは、俺がワイバーンの子どもを救ったんだな。
どおりで、この二匹が懐いたわけだ。
「なるほどな。じゃあ、子どもも見たしそろそろ行くか」
俺はワイバーンに飛び乗り、巣を後にした。
「……ユージ? どこ行ってたんだ?」
空で待機していたワイバーンと合流すると、ダイノスが尋ねてきた。
これは、誤解を解く大チャンス到来だ。
「いやね、どうやら俺が投げた剣がたまたまコイツらの巣に飛んでいって、子どもを襲ってた鳥を倒しちゃったみたいで……」
「剣を……投げた? ふふ、ハハハハッ!
あっ、イテテテ……」
「ダイノス? 大丈夫か?」
「あぁ、大丈夫だ。……まったく、剣を投げるなんて、戦士の俺には思いもつかない作戦だな」
「えっ?」
「……流石だ」
もうダメだ。ダイノスフィルターを通したら、何しても英雄譚になってしまう。
こうなったら、最後の頼み。ギルドマスターに懸けるしかない。
あの人は俺を疑ってるから、きっと偶然が重なっただけって思ってくれるはずだ。
何より、討伐が条件なのに倒してないからな。
「あっ、ダイノス! 街が見えてきたぞ!
流石に空を飛んだら早いな!」
前方には街がもう見えてきた。ワイバーンとはこれっきりなのか。そう思うと、なんだが寂しくなってきたな。
「なぁ、俺の言葉、分かるか? またいつか乗せてくれよな」
『クァッ!』
本当に分かってるのか? まぁ、期待はせずに気長に待ってるか。
「ユージ、レグシアはマズイ」
「えっ? なんでだよ」
「なんでもなにも、ワイバーンだぞ。
向こうからも見えてるはずだ。きっと今頃レグシアは大騒ぎだ。もっと手前で降ろしてくれ」
それもそうだ。レグシアからしたら、ワイバーンの襲撃にしか見えないな。
「……だそうだ。街の手前で降ろしてくれないか?」
『クァッ!』
俺がそう言うと、ワイバーンはゆっくりと下降を始め、街から少し離れた場所へ着地した。
コイツ、本当に人間の言葉が分かるのか。
ダイノスをゆっくりと降ろした後、ワイバーンを見送った。手を振る俺に『クァッ!』と応えて飛び立っていく。
きっと『またな!』って言ってくれたんだろう。
「さ、街へ戻るぞ、ダイノス」
「あぁ、よろしく頼む」
俺は再びダイノスに肩を貸し、街へと急ぐ。平原だから大丈夫と思うが、肝心のダイノスがこれじゃあ、雑魚相手でも全滅は必至だ。
「おい! これはどういう事だ!」
声に驚き視線を上げると、そこには馬に乗ったギルドマスターが。
手には、双眼鏡らしきものが握られている。
「説明してもらおうか」
えーっと、どこから説明しようか……。
次話へ続く




