第12話「届け」
──ロゼント山脈、ワイバーンの巣。
上空では、二匹のワイバーンがこちらの様子を伺うように、ぐるぐると旋回している。
ダイノスは負傷していて動けそうにない。
「どうする? このままじゃ……」
「おい……ユージ……」
か細く力のない声に反応し、俺はダイノスの側にいく。
「ダイノス! 大丈夫か?」
「俺が、このまま囮になる……その隙にお前が仕留めるんだ」
俺が? 一人で? 無理無理無理、そんなの絶対に無理だ。
「ダイノス、一旦引こう。このままじゃやられる」
「ダメだ。アイツら、ワイバーンは知能が高い。
こんなチャンスをみすみす逃すことはない……
必ず俺を攻撃してくる。頼んだぞ……」
そう言うとダイノスは、ゆっくりと目を閉じる。
そんな……待て待て、待ってくれダイノス!
俺は慌てて首元に手を当てる。
「……息はある」
俺は、震える足を踏ん張りながら立ち上がる。眠るダイノスを背に、ワイバーンへ向け剣を抜いた。
十中八九負ける。それは自分でも分かってる。
それでも、最後が逃げてやられました。じゃ締まりが悪い。
「どうせ死ぬんだ。最後くらい誰かのために……」
ワイバーンは依然として、空を飛び回っている。
いつこっちに牙を向けるのかも分からないまま、時間だけが過ぎていく。
このまま待ってても、ダイノスが……。
クソッ! 奴ら、徐々に弱らせる気だな。
「……何が運だ。こんな時に、何の役にも立たないじゃないか……!」
剣を握る手が怒りと恐怖で震えだした。ワイバーンはこちらを見ることもなく、挑発するように空を飛び回っている。
そうかい、分かったよ。それならこっちから仕掛けてやる。
俺のジャイアントボアを倒した強運よ。お前が本当に凄いんなら、これで何か奇跡を起こしやがれ!
「うりゃあぁぁっ!」
俺は、手にしていた剣をワイバーン目掛けて思いっ切り投げた。力任せに投げた剣は、くるくると縦回転しながらそれでも真っすぐワイバーンへ向かっている。
「行けぇぇぇぇっ!」
剣に気付いたワイバーンは、慌てることもなくひらりと躱す。旋回を止めこちらを向き、その場で羽ばたいている。
明らかに、俺に意識を向けたと分かった。
『ギャアァァァァッ!』
その声に驚き、咄嗟に目を閉じる。次に目を開けたときには、一匹のワイバーンがこちらへ向け突進を開始していた。
俺の選択は、逃走。すぐさま踵を返し、駆け出した瞬間、岩に躓く。
ヒュオォォォッ!
転んだ瞬間にタイミングよく躱した形になったが、もうダメだ。次はない……。
「ハァッ……ハァッ……」
するとワイバーンは、次は避けられないように、岩山へ降りてきた。
なるほど、知能が高い。いや、そんな事今はどうだっていい。
「グルルル……」
喉を鳴らしながら、ゆっくりと近付いてくる。
もうダメだ。
そう思った瞬間──。
『ギャオォォォッ!』
もう一匹のワイバーンが間へ割って入った。
なんだ? 何が起きた? 二匹はなにやら会話をするように、鳴き合っている。
「……仲間割れか? 獲物を取り合ってる?」
これはチャンスか? ダイノスもいるんだし、二匹で分け合えばいいものを。
俺はゆっくりと立ち上がり、ダイノスの元へ向かおうとした。
『キュオォォォォン……』
俺は、驚いて背筋がピンと伸びた。
先ほどまでの鳴き声とは打って変わって、可愛らしく、まるで懐いたような声とともに、ワイバーンのクチバシが俺の腕をスリスリと撫でている。
恐る恐るワイバーンへ視線を向ける。
すると、殺気は最早無い。軽く目を閉じながら、かまって欲しそうに執拗に擦り付けてくる。
これは、あれだ。昔飼ってたネコと同じ、甘えるような仕草。
「……どういう事だ?」
つい一分前まで殺されかけたのに。気付いたら俺は、ワイバーンの口元を撫でていた。
「は、ははは……流石だな、ユージ……」
ダイノス。弱ってはいるが、目が覚めたか。
……良かった。
でもな、この状況は俺も意味不明だ。そんな目で見ないでくれ。
「ダイノス、立てるか?」
俺はダイノスに肩を貸し、持ち上げる。ズシリと重い体重が、俺にのしかかってきた。
「すまんな、ユージ」
「な、なぁに、いいってことよ……」
俺は負傷したダイノスを連れ下山するため、ワイバーンの巣を後にする。
ふらふらと重たい足取り。これ、降りるの無理じゃないか? 街に着くの何日かかるんだ?
『クァッ、クァッ』
やめろよ。俺が必死にダイノスを抱えて歩いてるのに、後ろからワイバーンがちょっかいを出してくる。
『クァッ、クァッ』
しつこいな! 何なんだよ!
振り返るとワイバーンは、自身の背中にチョイチョイとクチバシを当てている。
「えっ? まさか乗れってこと?」
『クァッ、クァッ!』
次話へ続く




