第11話「ワイバーンの巣」
──山へ続く道中。
「いいか、ユージ。ワイバーンは単体ではそこまで強くない。だが、奴らが獲物を狙う時には、群れで襲ってくる」
俺は何を聞かされているんだ。獲物? そうか、俺は今から、ワイバーンに食べられに行くんだな。
「ワイバーンのランクは?」
「Aランクだ! だが安心しろ。単体ではジャイアントボアの方が強い」
それのどこに安心材料があるの?
「まぁ、ワイバーンについてはお前の方が詳しいか! ハハハハッ!」
「ははは……」
初めて聞いたよ。まぁ、ワイバーンの住むロゼント山脈を越えてきたって言っちゃったからな。
あのトラップは見事だったよ、ダイノス。
俺がBランクの登録証を受け取るためには、ダイノスとともにワイバーンを一匹討伐する。これが条件だと、ギルドマスターが言っていた。
群れじゃなければダイノスでも勝てるらしいから、俺は逃げに徹しよう。そうすれば、本当の実力に彼も気付くだろう。
レグシアでダイノスに見繕ってもらった、軽鎧と剣があれば、死にはしないよな?
金貨二枚か……。痛い、痛すぎる出費だ。
「何をぶつぶつと言ってるんだ?」
「ハッ……! いや、まぁ、今後の作戦をね……」
「そうか! 流石だな!」
あぁ、また誤解が一つ増えた。ダイノスよ、見誤らないでくれ。俺は逃げることしか考えてないよ。
◆
レグシアを出て半日。
視界の先に、それはあった。
「……うわ」
思わず声が漏れる。
──ロゼント山脈。
山脈というより、巨大な壁だった。
灰色の岩肌が空へ向かって切り立ち、いくつもの峰が連なっている。
頂上付近には白い雲が絡みつき、その全容さえ見せてはくれない。
山の斜面には木々が生えているものの、途中からは岩ばかりになる。
まるで自然そのものが「これ以上は来るな」と警告しているようだった。
そして、その山腹を縫うように一本の道が続いている。
道と呼ぶにはあまりにも頼りない。
人が二人並んで歩けるかどうか。
片側は岩壁。
もう片側は崖。
足を滑らせれば、そのまま谷底まで真っ逆さまだろう。
吹き上がる風が、ヒュウゥゥと不気味な音を立てている。
「なぁ、ダイノス」
「なんだ?」
「あの道を通るのか?」
「あぁ」
即答だった。
いやいやいや! 普通、迷うだろ。
あれは道じゃない、落下事故現場候補地だ。
しかも所々崩れている。
俺の目には、『自己責任』と書かれた看板が見えた気がした。
「ユージはここを一人で来たんだろ? 流石だ」
「お、俺が通ったのは、もうちょっと安全な道だったから……」
「ハハハハッ! 何言ってんだ? ここ以外は道なんて呼べる道はないぞ?」
「へっ?」
「お前……」
おっ、ついに気付いてくれたか?
「まさか、崖を下ってきたのか? 本当に、大したやつだよ」
だよなぁぁぁっ!
俺は彼の説得を諦めて、山を見上げる。
その瞬間だった。
遥か上空を、巨大な影が横切る。
翼。
長い尾。
岩肌をかすめるように飛ぶ巨体。
そして、遅れて届く咆哮。
『ギャオォォォォォッ!!』
山々に反響した声が何重にも重なり、空気そのものを震わせた。
俺は静かにダイノスを見る。
「今から帰れない?」
「帰れないな!」
即答かよ。もういいよ。
だが、この狭い道で襲われでもしたらひとたまりもないな。逃げようがないじゃないか。
「ダイノス、少し開けたところもないのか?」
「安心しろ、もう少し登った先にある。
そこでワイバーン狩りだ!」
安心したよ。そして、狩りは任せた!
ひっそりと隠れて、ダイノスが倒すのを見守ろう。倒し終わった後に出てきて「やっぱり俺には無理だ」うん、これでいこう。
少し登っていくと、ダイノスが言っていた通り、開けたところに出てきた。
ここでなら、存分に戦えるな。ダイノスが。
『グキャァァァッ! ギャオォォォッ!』
上空にはワイバーンが二匹。アレが普通なのか、それとも機嫌が悪いのか。
とにかく物凄い勢いで叫んでいる。
「機嫌が悪そうだな、何か起きてるのか?」
どうやら、殺気立っているようだ。
じゃあ俺は、作戦通り陰に隠れて──。
「おいユージ! 来たぞ!」
「えっ」
ダイノスの声に振り返った時には、すでにワイバーンは襲いかかってきていた。
剣で脚爪を受け止めるダイノス。隙を突くようにクチバシが顔ギリギリを掠める。
「ダイノス!」
「俺は大丈夫だっ! それより、もう一匹を頼む!」
もう一匹、そうだ。上空にいたワイバーンは二匹。
あと一匹は──。
「──ッ!」
俺が後ろを振り返ると、もう一匹のワイバーンが猛烈なスピードでこちらに突っ込んできていた。
咄嗟に身体を屈めてギリギリ避ける。
俺の上、スレスレを通過した後、遅れて猛烈な風が吹く。
「無理無理無理っ!」
頭を守るように両手で抱え、その場にうつ伏せになっていると、ダイノスの叫び声が山に響き渡る。
「ぐわぁぁぁぁっ!」
えっ? 俺は恐る恐るダイノスの方へと視線を送る。
「あっ……あ……」
俺の視界には、岩山に背を付き力なく座り込むダイノスの姿が。押さえている左手からは遠目にも血が出ているのが分かった。
「ダイノスッッッ! あれ? ワイバーンは?」
上空へ目を向けると、二匹のワイバーンは空をぐるぐると旋回している。
どうやら、もう一撃来そうだ。
「ヤバいヤバいヤバいヤバいっ!」
次話へ続く




