第九話 神殿不要論
今日は休日だった。
神殿の仕事もなく、久しぶりにゆっくり寝られる。
……はずだった。
「お前なぁ」
綾人は呆れた。
「何だよ」
隣を歩くルークが振り返る。
「休日くらい一人で買い物行けよ」
「暇だったんだからいいだろ」
「俺は暇じゃなかった」
「どうせ寝てただろ」
「……」
「寝てたんだな」
うるさい。
と、口には出さないが綾人は視線を逸らした。
休日だからだろう、街は賑わっていおり、露店も多く子供達も走り回っている。
平和だった。
「妹の土産買わなきゃな」
ルークが言う。
「シスコン」
「違う」
「シスコンだな」
「違うって」
そんな他愛もない話をしながら歩く。
すると。
「ん?」
ルークが足を止めた。
「どうした?」
「あれ」
指差した先には神官達が数人集まっていた。
何やら慌ただしい。
「珍しいな」
綾人も首を傾げる。
休日なのに何故こんなにも神官がいるのか疑問に思うし、なにより神官たちの表情が暗い。
「何かあったのか?」
「さぁ」
二人が見ていると。
一人の神官が走っていく。
「神父様にも連絡を!」
「聖女様は!?」
「もうご存知です!」
聞こえてきた言葉に綾人の眉が動いた。
聖女に何かあったのだろうか。
「行ってみるか」
「怒られそうだけどな」
ルークと顔を見合わせ、近くの神官へ声をかけた。
「すみません」
「はい?」
「何かあったんですか?」
神官は疲れた顔をしていた。
そして。
「掲示板だよ」
そう答えた。
「掲示板?」
「ああ」
神官は深いため息を吐く。
「今朝から大炎上してる」
「炎上?」
聞き慣れた単語に綾人の胸が少しざわつく。
「神殿不要論だ」
「神殿不要論?」
「最近の神殿は金ばかり集めてる」
「税金の無駄だの、孤児院を自治体へ移せだの、神官は働いていないだの」
神官は苦々しく言った。
「そういう話が広がってる」
綾人もルークも黙る。
「まぁ毎年ある話じゃないんすか?そういうのって」
「今回は違う」
神官は首を振った。
「かなり大きい」
「有名な論客達も参加していてスレの勢いが異常なんだ」
綾人の心臓が少しだけ跳ねた。
有名な論客というその言葉が妙に引っかかる。
「聖女様も対応に追われてる」
神官は空を見上げた。
「ただでさえ忙しいのにな」
そう言って去っていく。
残された二人。
「なんか大変そうだな」
ルークが言う。
「……そうだな」
綾人は小さく頷いた。
神殿不要論。
確かに問題はある。
神官にも駄目な奴はいるし無駄もある。
だが孤児院、治療院、炊き出しを毎日見ている綾人からすると神殿がどれだけの仕事をしているのか知っていた。
「まぁ俺達には何も出来きないか」
ルークが肩をすくめる。
「買い物続けようぜ」
「ああ」
綾人は答える。
だが心のどこかに引っ掛かるものが残っていた。
その日の夜。
神殿では仕事は休みのはずなのに、神官達は慌ただしく動いている。
綾人は自室へ戻る途中、偶然見てしまった。
「……」
廊下の向こう、会議室から出てきた聖女だった。
疲れた顔をしている。
あんな表情は初めて見る。
それでも近くの神官に気付くと、いつものように笑った。
「大丈夫ですよ」
優しい声だったが無理をしているのは誰が見ても分かった。
綾人は立ち止まってただ見ているだけだった。
そしてその夜、自室の机の引き出しにあるずっと触っていなかった魔道端末を綾人は見つめる。
「……」
神託掲示板を最後に開いたのはいつだったか。
正直清掃員の仕事にいっぱいいっぱいで思い出せない。
まぁ開く必要はない。
もう辞めたのだから。
そう思いながらも綾人の視線は、いつまでも魔道端末から離れなかった。
感想お待ちしております!不要なのか!?




