表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
10/18

第十話 闇の魔王


 神殿の会議室には重い空気が流れていた。


 窓の外では昼の日差しが差し込んでいるが、誰一人として明るい顔をしていなかった。


「今週分の報告です」


 ひとりの神官が書類を机へ置く。


「寄付金は先月比で一割八分減少、地方神殿は二割を超えています」


 神父ギルバートは静かに目を通す。


 その糸目の表情は変わらないが、会議室にいる神官達の顔は険しかった。


「孤児院への支援金も減少傾向です」


「治療院も同様です」


「このまま続けば予算調整が必要になります」


 誰も軽口を叩かなかった。


「原因は」


 神父が尋ねる。


 分かりきった質問だったが確認は必要だ。


「神託掲示板です」


 神官が答える。


「神殿不要論や神殿改革論、神官の特権批判」


「そして寄付金の用途に対する疑問」


「これらは現在最も勢いのある話題になっています」


 神父は目を閉じた。


 最初は小さな議論だがここ数日でいきなり大きくなった。


 いつもの掲示板の騒ぎだとそう思っていたが違った。


 今回は勢いが異常だった。


「対応案は」


「現在検討中です」


 誰の声にも自信がなかった。


 そんな中、会議室の隅で聖女セレスティアは黙って話を聞いていた。


 胸が少し苦しい。


 神殿に問題がないとは言わないし改善すべき部分もある。


 だが孤児院や治療院、炊き出し。


 神殿が支えているものも確かに存在している。


「……」


 セレスティアはそっと拳を握ったその時だった。


「聖女様」


 神父が声を掛ける。


「はい」


「本日はもうお休みください」


「ですが」


「十分頑張っておられます」


 優しい声だった。


 セレスティアは少し困ったように笑う。


「大丈夫ですよ」


 そしていつもの笑顔を見せる。


 だが神父は知っている。


 それが無理をしている時の笑顔だということを。


「無理をなさらないでください」


 神父は静かに言った。


「神殿は聖女様一人で支えるものではありません」


「……はい」


 セレスティアは小さく頷いた。


 だがその表情は少しだけ寂しそうだった。



 同じ頃、神官のエドガーは街を歩いていた。


 神殿の用事である。


 だが最近はどこへ行っても耳に入る。


「最近の神殿ってどうなんだろうな」


「掲示板で見たぞ」


「寄付金の使い道が不透明らしい」


「神官は楽な仕事してるんだろ?」


 酒場から聞こえる声に商人達の雑談、そしてただの世間話。


 それでも立ち止まってエドガーは眉をひそめた。


「知ったような口を……」


 小さく呟く。


 神官がどれだけ働いているか、神殿がどれだけの人を支えているか。


 何も知らないくせに。


 そう言いたくなったが言えない。


 何故なら掲示板で語られている内容の一部は事実だからだ。


 怠けている神官もいるし無駄な予算もあり、改善点も山のようにある。


 だから余計に厄介だった。


「くそっ」


 エドガーは苛立たしげに舌打ちした。


 その時。


「神官さん」


 老人が声を掛ける。


「はい?」


「聖女様は大丈夫かい?」


 エドガーは少し驚いた。


「最近大変そうだろう」


「掲示板でも色々言われてるし」


 老人は心配そうな顔をしていた。


「聖女様は悪くないのにな」


「……」


 エドガーは少しだけ目を伏せた。


「大丈夫です」


 そう答える。


「聖女様は強い方ですから」


 それは本心だった。


 だが強い人間だからといって傷付かないわけではない。


 エドガーは知っていた。

 


 夜、灯りだけが消えない神殿の会議室で、神父は窓の外を見ていた。


 街の灯り、そして遠くに見える住宅街。


 静かな夜だが掲示板では今も議論が続いている。


「神父様」


 神官が近付く。


「最新の報告です」


「どうでしたか」


「神殿不要論のスレッドが更に拡大しています」


 神父は書類を受け取る。


 そして一つの名前を見た。


 それだけで会議室の空気が少し変わる。


「……そうですか」


 神父は静かにため息を着くように呟いた。


 その名前を神託掲示板を利用する者なら誰もが知っている。


 


 同刻、アルスハイム学術都市。


 神学研究院の一室。


 机の上には資料が山積みになっていた。


 神殿税、地方神殿の会計報告、孤児院運営費、治療院支出、神官人事。


 一般人なら見るだけで頭が痛くなる量だ。


 だがその人物は淡々とページをめり、小さくため息をつく。


 慣れた手つき、迷いはない。


 淡く光るログイン画面。


 そして表示された名前。


 ☆闇の魔王


「さて」


 今夜もまた議論の続きを始めよう。

感想お待ちしております!正直闇の魔王の名前なんでもいい^^;

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ