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第二話 異端論客◇アヤティヌス


 神託掲示板を見つけてからというもの、綾人の生活は一変した。


 朝起き、適当に働き、飯を食い、夜になると急いで宿へ戻り、魔導端末を起動する。


 それが日課になった。


 気付けば毎日数時間、酷い日は徹夜まで。


 前世と何も変わっていない気もするが、綾人は気にしなかった。


 楽しいのだから仕方ない。


「さて、今日はどんなアホがいるかな」


 端末を開くとそこにはズラっと新着スレッドが並んでいた。


【議論】魔法剣最強説


【考察】ドラゴンは本当に存在するのか


【雑談】ガルバ街の宿屋の娘が可愛い件


【政治】神殿は税金を取りすぎている


「おっ」


 綾人の目が止まったのは政治スレ。


 嫌な予感しかしなく、案の定中身は感情論の応酬だった。


 根拠なし、証拠なしのただの罵り合い。


「終わってんな」


 綾人はため息をついてから、空中に表示された入力欄に書き込む。


 『まて、その税率の数字とやらはどこから出た?』


 数秒後に相手はこう答える。


『知り合いの商人から聞いたがそれが何か』


 「はい終わり」


『ソースなしな』


  即座に返信。


『神殿関係者乙』


『お前絶対神官だろ』


『火消し湧いてて草』


 「雑魚すぎる……」


 綾人は頭を抱えた。


 論理が不利になると人格攻撃に切り替えるタイプは前世にも飽きるほど見ている。


『俺が神官なら税率聞かなくても知ってるだろ』


 たった一行、それだけだったが十分だった。


『たしかに』


『草』


『論破されてるじゃん』


 目の前で明らかに流れが変わる光景に、綾人は思わず笑った。


「やっぱこれだよな」


 非常に気持ちいい。


 積み木を崩すような感覚、そして相手の理屈の穴を見つけて指摘する。


 ただそれだけなのに妙に楽しい。


 そして気付けば深夜になっており、その日のスレは綾人の圧勝で終わった。

 


 翌日、綾人は別のスレを見ていた。


【議論】魔法剣と純魔法どちらが強い?


「魔法剣好きすぎだろこいつら」


 どうやら最近魔法剣が定番テーマらしい。


 すでに数百レス伸びているが、綾人は慣れた感じで流し読み、そして頭を抱えた。


「いや比較条件がねぇじゃん」


 レベルは?距離は?人数は?


 何も決まっていないのに全員が断言している滅茶苦茶なスレだった。


 『条件をまず書け』


 綾人が書き込むと。


 『うるせぇ魔法剣最強なんだよwwww』


『貧弱魔法使い乙』


 「会話にならねぇ……」


 よくあるゴミスレだった。


 しかし綾人はめげず、その後は比較条件を設定する流れになり、スレはまともな議論へと変化した。


「少しは成長しろよお前ら」


そんな日々が数ヶ月続いた。


 気付けば神託掲示板で綾人の名前は知られるようになっていた。


 もちろん本名ではない。


 匿名掲示板なのだから彼が使う名前は一つ。


『異端論客◇アヤティヌス』


 最初は適当に付けたものだったが、今ではそれなりの知名度を持っている。


 『アヤティヌス来た』


『このスレ終わったな』


 『働けよ』


『また誰か論破されるぞ〜w』


 そんな反応が当たり前になっていた。


「悪くないな」


 綾人は満足そうに笑う。


 前世では人生で初めての敗北を期したが、異世界では違う。


 人類が科学とともに成長して培った現代のレスバ能力には、少なくとも今のところ敵はいなかった。


 議論になる、勝つ、そして終わる。


 その繰り返し。


 正直少し退屈ですらあったそんなある夜、綾人は新しいスレッドを立てた。


【議論】神殿は本当に必要なのか?


 投稿ボタンを押すとものの数分でスレは爆発した。


 『は?』


『不敬罪だろ』


『神官ブチギレ案件』


『またティヌスが変なスレ立ててる』


「よし」


 綾人はニヤリと笑う。


 面白くなってきた。


 神殿はこの国最大の組織であり、病院や学校、孤児院から治安維持までありとあらゆる分野に関わっている。


 当然信者も多く、だからこそ議論になる。


 そして綾人は次々と現れる反論を捌いていく。


 一人また一人、そしてまた一人と全員綾人を前に倒れていき、気付けば数時間が経過していた。


「やっぱ弱いな」


 思わず漏れる。


 その時だった。


 新しい書き込みが表示されたのは。


『神殿が不要であるという結論ありきで話を進めていませんか?』


 綾人の指が止まる。


「ん?」


 たった一文だが今までの連中とは何かが違う事を綾人は感じ取る。


 『もし神殿が存在しなかった場合、孤児院や治療院の運営費は誰が負担するのでしょうか?』


 綾人は思わず画面へ顔を近付ける。


 感情論でもなく人格攻撃もせず、鋭い観点から論点を見ている。


「面白い」


 久しぶりだった。


 少しだけ胸が高鳴り、綾人はキーボードへ手を置いた。


 相手の名前を見る。


 そこに表示されていたのは――。


『断罪の天秤◆』


 初めて見る名前だった。

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