第十七話 神殿に来い!
神託掲示板の神殿不要論スレッドは深夜になっても議論は続いていた。
『改善案はありますか?』
『制度は欠陥だらけです』
『感情論では何も解決しません』
綾人は画面を見つめ、少し前までの自分みたいだと若干恥ずかしくなる。
理屈や論理、知識に伴う正しさ。
それだけあれば勝てると思っていたが今はもう違う。
神殿で働き、ルークと出会い、神官達を見て、そして聖女と出会った。
気付けば理屈だけでは説明できないものが増えていた。
「ほんと」
綾人は笑う。
「面倒な世界だな」
そして静かに指を動かす。
『なあ』
すぐ返信が来る。
『何ですか』
『議論なら続けますよ』
『なんでお前そこまで神殿嫌いなんだ?』
数秒間返信が止まる。
『別に嫌っていません』
『そうか?』
『そうです』
『俺にはそう見えねぇな』
『それは貴方の勝手な解釈です』
『かもな』
綾人は椅子へもたれ頭の後ろに手を回す。
理由なんて知らないし過去も知らない。
でも闇の魔王が打つ文章だけは何百も何千もここ数日で読んできた。
そしてだからこそ分かる事もある。
『お前神殿のこと知りすぎだろ』
『嫌いな奴の叩き方じゃないく、期待してた奴の叩き方だ』
すぐの返信がないことを確認し、図星かもしれないと少しだけ笑う。
まぁ違うかもしれないが正直どちらでもいい。
『まあいい』
『でもお前みたいな奴見てると笑う』
『?』
『どうせ王都に来たら終わりだ』
『何がですか』
『お前みたいなやつはイケメン神官に弱そうだからな』
スレッドが爆発した。
『は?』
『?』
『何の話だ』
『ティヌス壊れたな』
『寝ろ』
『ちゃんと寝ろ』
『議論しろ』
綾人は無視する。
『本ばっか読んで理屈ばっか考えて、そんな人付き合い苦手そうな奴ほど弱い』
『意味が分かりません』
『分かる』
『絶対弱いな』
『弱くありません』
『じゃあ想像してみろ』
『する必要ありません』
『しろ』
『嫌です』
『効いてるな』
『効いてません』
綾人はニヤリと笑った。
そして書き込む。
『王都来るに来る、神殿で働く、書類運んでる』
『そこへイケメン神官登場』
『重いですよね持ちますよ、とか言われる』
『それで終わりだ』
『終わりません』
『終わる』
『終わりません』
掲示板が爆笑した。
『草』
『必死で草』
『終わりません』
『効いてるじゃねぇか』
綾人は止まらない。
『休憩時間にコーヒー渡される』
『いつも頑張ってますね、無理しないでくださいとか言われる』
『終わりだ』
『終わりません』
『終わる』
『終わりません』
『終わる』
アルカディアの神学研究院。
「~~~~っ!!」
赤髪の少女イヴァラは机へ額を打ち付けた。
本当に意味が分からない。
神殿不要論を議論していたはずだ。
制度改革、予算や人員を語っていたはずだ。
しかし何故か頭の中では知らないイケメン神官が笑っている。
『いつも頑張ってますね』
「だから誰なのよ!」
机を叩く。
顔が熱くなり腹が立つ。
なのに反論が思いつかない。
これ以上何言ってもおちょくられる未来しか見えなかった。
綾人は小さく笑った。
勝ったとは思わないが負けたとも思わない。
ただ少しだけ闇の魔王の人間らしい反応が見えただけで十分だった。
『来るべきだ』
短く打つ。
『王都に』
『そして神殿で働いて神官と話せ』
『現場を見ろ』
『それでも神殿不要論を掲げられるなら俺の負けでいい』
スレッドが静かになる。
いつまで経っても返信はないが綾人は来ると確信していた。
こいつは来る。
理屈だけで終われる人間じゃないと知っているからわざわざ煽った。
わざわざ腹を立てさせて、わざわざ現場へ引っ張り出そうとしている。
その時、ようやく返信が来た。
『……仕事があります』
『逃げたな』
『逃げてない』
『効いてる』
『効いてない!!』
綾人は声を出して笑った。
「来るなこれ」
端末を閉じ、そしてベッドへ倒れ込んだ。
勝負はまだ終わっていない。
でも次に会う時はきっと掲示板の向こう側じゃない。
そんな気がしていた。
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