表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
16/18

第十六話 かわいいは理屈を超える


 神託掲示板の神殿不要論スレッドは、今日も議論は続いていた。


 その中心にいるのは二人。


 ◇アヤティヌスと闇の魔王☆


 互いに一歩も譲らない状態が続く。

 


 アルカディアの神学研究院では、闇の魔王は机に向かっていた。


 大量の資料と統計、予算書、地方神殿の報告書。


 そして魔道端末。


『地方神殿の人員不足』


『寄付金の地域格差』


『老朽化した施設』


『改善が必要なのは明白です』


 送信し、数秒後に返信を確認する。


『同意はする』


 闇の魔王の眉が動く。


『だが神殿不要論の根拠にはならない』


『別問題だな』


「またそれ……」


 闇の魔王はため息を吐いた。


 何度も同じ場所へ戻される。


『なら聞きます、改善案はありますか?』


『現状維持だけですか?』


『理想論だけでは何も変わりません』


 送信する。


 しかしその夜は返信は帰って来なかった。



 翌日、神殿掃除の休憩中に綾人は欠伸をしていた。


「お前顔終わってるぞ」


 ルークが言う。


「終わってない」


「終わってる」


 ルークは鏡を差し出し、綾人はそれを見る。


「……」


 少し終わっていた。


 というか目の下が普通に黒い。


「寝ろ」


 

 昼、神殿の廊下で汗水を垂らしながら綾人は掃除をしていた。


「お疲れ様です」


 聞き慣れた声に振り返ると、そこには聖女セレスティアが立っていた。


 今日も意味が分からないくらい綺麗だった。


「お疲れ様です」


 綾人は姿勢を正す。


 ふざけた性格を自覚しているが、何故か聖女の前ではちゃんとしたくなる。


「最近忙しいですか?」


「え?」


「少し顔色悪いですよ?」


「そうですか?」


「そうです」


 セレスティアは少し近付いてくる。


 そして同時に綾人の心臓が跳ねる。


「動かないでくださいね」


「はい?」


 そして柔らかい指先が頬へ触れた。


「やっぱり」


「クマ出来てます」


 綾人停止。


「最近ちゃんと寝てます?」


「ね、寝てます」


「嘘ですね」


「なぜでしょう……か」


「顔見れば分かります」


 距離が近い。


 とにかく近いので一旦綾人の脳は死んだ。


「体調には気を付けてくださいね?」


 優しく笑い、そのまま去っていく。


 そんな聖女の背中を見つめたまま、綾人は動けなかった。




 夜になり、綾人は自室のベッドへ寝転がっていた。


 そしてぼんやりと天井を見る。


「……」


 静かだった。


 闇の魔王☆との議論、神殿不要論、そして掲示板。


 全部頭の中にあるのに。


「ほんとにかわいいな」


 最初に出た言葉はそれだった。


「……」


 綾人は目を閉じ、今日の聖女の顔を思い出す。


 そしてあの指先の感触。


「天使だなあれは」


 もう一度呟く。


 本当に意味が分からないが、昔の自分ならこんなことはなかった。


 6chや神託掲示板で論破し勝利する。


 正論をかまし、理屈でねじ伏せる。


 それが全てだった。


 感情なんて邪魔であり、議論に不要だから切り捨ててきた。


 ずっとずっとそうだった。


 なのに。


「なんだこれ……」


 綾人は起き上がる。


 理屈で説明出来ず、論理でも整理出来ない。


 でも聖女の笑顔を思い出すだけで少し嬉しく、なんでも頑張れるような気がした。


「……」


 そこでふと気付く。


 ルークもエドガーもそうだった。


 神官達も孤児院の子供達も、みんな理屈だけで動いていない。


 好きだから、助けたいから、守りたいから。


 そんな理由で動いていた。


「人間ってそういうもんなのか」


 だから神殿不要論も正論だけでは終わらない。


 人間がいて、そこに感情があるからだ。


「……」


 綾人は小さく笑う。


 そしてようやく理解した。


 今までの自分は人を見ておらず、論点や理屈ばかりを見ていた。


 でも人を見ていなかった。


 聖女に会って初めて気付いた。


「俺も変わったのか」


 少しだけ昔の自分より前へ進んだ気がした。



 神託掲示板の神殿不要論スレッド。


 闇の魔王☆


『改善案はありますか?』


『理想論だけでは何も変わりません』


『反論は以上ですか?』


 綾人は画面を見る。


 理屈と理屈と理屈が並べられている。


 ただ、間違ってはいないがそれだけだ。


 綾人は少し笑った。


「なるほどな」


 だからお前はまだ見えてない。


 今までのアヤティヌスなら論理、知識で返した。


 だが人を、そして感情を知った今の綾人は違う。


 そしてかわいいは理屈を超えると知った。


 綾人は迷わずに指を動かし、返信を求める闇の魔王☆にこう言う。


『ところで』


『お前、女だろ』

感想お待ちしております!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ