第十五話 最強論客
神託掲示板、神殿不要論スレッド。
今、最も勢いのある議論の中心で一つの名前が大騒ぎを起こしていた。
『ティヌス野郎!?』
『本物?』
『生きてたのか』
『帰ってきて草』
『何ヶ月ぶりだよ』
『断罪の天秤とやり合ってた奴じゃん』
『懐かし』
スレッドの流れが変わり、神殿不要論や闇の魔王☆より今はアヤトだった。
その頃、学術都市アルカディアの神学研究院では、大量の本に囲まれながら通る人物が端末を見ていた。
「……アヤティヌス?」
闇の魔王☆は頭の上に疑問符を浮かべる。
知らない名前だったが、掲示板の反応が異常だった。
『帰ってきた』
『あいつか』
『面倒なのが来た』
『神殿不要論終わったな』
まるで英雄扱扱いだった。
「気に食わない」
その一言は部屋で静かに反響した。
神殿 清掃員控室。
「すげぇ……」
ルークが端末を見ていた。
「お前すげぇな!」
「何が」
綾人はパンを食べている。
「何がじゃねぇよ!」
ルークは端末を突き出した。
「見ろよこれ!」
『その議論は神殿不要論ではなく神殿改革論です』
『話を混同しないでください』
『まず論点を整理しましょう』
『神殿が不要なのか』
『今の神殿が問題なのか』
『その二つは別です』
その下にはずらりと並ぶ共感の声。
『確かに』
『言われてみれば』
『話混ざってたな』
『闇の魔王ですら整理できてない気が』
そんな大量の書き込みを見ながら綾人はパンを齧る。
「いや普通だろ」
「普通じゃねぇよ!」
ルークは叫んだ。
「俺なんて三分で死んだぞ!」
「向いてなかっただけだ」
「ひどくね?」
『地方神殿の問題や王都神殿の問題、孤児院運営そして治療院運営』
『全部別問題であり一緒に語るから話がおかしくなる』
単純に整理に整理を重ね、議論を一つずつ切り分けていくだけだ。
すると今まで混ざっていた話が少しずつ見えてくるようになる。
『ふむ』
『わかりやす』
『だから灰の魔女も噛み合ってなかったのか』
『なるほど』
そして初めて闇の魔王☆が返答する。
『では質問です』
スレッドが静かになる。
『神殿不要論が誤りだとしましょう』
『それは私も同意します』
『ですが現状の神殿に問題があることも事実です』
『人員不足や予算不足、地方格差』
『これらをどう解決するのですか?』
綾人は画面を見る。
「……」
この女はちゃんと強い。
言葉尻を取らないし感情論へ逃げずに淡々と議論を進めてくる。
断罪の天秤のようなタイプだ。
少しだけ口元が緩んだ。
「面倒くせぇな」
でも嫌いじゃない。
同じ頃、神殿の聖女の自室。
「……」
セレスティアは夢中で端末を見ていた。
『その問題は制度の問題です』
『神殿の存在意義とは別です』
『まず分けましょう』
速く正確。
そして以前より強い。
「すごい……」
思わず呟く。
前から凄かったが今は違う。
まるで神殿で働いている人みたいに、知識や経験を混ぜて議論を進める。
「何をしていたんでしょう」
少し気になる。
そして本当に少しだけ会ってみたいと思った。
同時刻、アルカディアの神学研究院では、闇の魔王も端末を睨んでいた。
「……なるほど」
強いのは認める。
少なくとも今までの神殿擁護派とは違う。
だがそれだけであり、根本的な神殿の問題は消えない。
そしてそこから先こそ闇の魔王の得意分野だった。
数字や制度、歴史 研究を全部叩き込んできた。
正直負ける理由がない。
闇の魔王は静かに指を動かし、新たな書き込みを始める。
『では質問です』
『現状の神殿の問題はどう解決するのですか?』
『理想論ではなく』
『具体的にお願いします』
神殿、綾人の部屋。
端末に表示されたその文章を見て、綾人は少しだけ笑った。
「なるほど」
ようやく本題が来たか。
そして静かに指を動かし始める。
本当に強い相手と話すのは久しぶりだった。
「面白くなってきた」
その呟きと共に綾人は返信を書き始めた。
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