蠢く危機
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平和な館の裏で、少しずつ狩が動き始めます。
夕方。
館はやわらかな橙色に染まっていた。キッチンからは煮込みの匂い。廊下の向こうでは子どもたちの笑い声。
「それでさー!」「うんうん!」
「あ!それとってー!」「はーい!」
平和そのものみたいな音。
けれど、その館の一室だけ空気がまるで別物だった。
カーテンは閉じられ灯りもつけていない。テーブルの上には簡易地図と数枚の紙。重たい沈黙。
ヤグが椅子にだらしなく座り銃をくるくる回している。
ヤグ「……で」
カチャン。回転が止まる。
ヤグ「目標、この館で確定なんだな」
霣羅「……ああ」
短い返事の感情はゼロ。
霣羅の指が地図の一点をとんと叩く。
霣羅「人外複数。全員能力持ち。規模…予想以上」
ララメ「大家族って感じだったねー」
さっきまでニアたちと笑っていた顔のまま。
でも目は笑ってない。
ララメ「でも命令は命令だもんね」
ヤグ「あぁ」
軽く舌打ち。
ヤグ「めんどくせぇ。こういう“住んでる系”いちばんだるいんだよ」
メアリーがふわっとヤグの背中に乗るみたいに寄りかかる。腕を首に回して。
メアリー「情が湧くタイプなのです?」
ヤグ「違ぇよ」
即答。
ヤグ「後味悪ぃだけだ」
メアリー「ふふ。優しいのです」
ヤグ「殺す側に優しいもクソもねぇ」
でも否定しきれてない声。ララメが椅子の上で体育座りしながら。
ララメ「子ども多かったね」
ぽつり。
ララメ「ちっちゃい子笑ってた」
部屋が一瞬だけ静まる。
霣羅「…任務だ」
淡々。感情を切り落とすみたいに。
霣羅「対象は“敵”。それ以上でも以下でもない」
ヤグ「はいはい優等生」
メアリー「冷たいのです〜」
ララメ「でもまぁ!」
ぱんっと手を叩く。無理やり明るく。
ララメ「やるときはやる!それが狩でしょ!」
その瞬間。
____ドォン!!!!!!
壁が吹き飛んだ。
ヤグ「は???」
粉塵と瓦礫の間から夕日が差し込む。
狩ならば誰かはわかる。
そして煙の中から、ちいさな影がぴょこん
トゥトゥ「やっほーーー♡」
めちゃくちゃ可愛くて明るい声。場違いすぎる声。
人形みたいな小さな体。にこにこ笑顔なのに、目だけ笑ってない。
ヤグ「てめぇ、」
霣羅「……また壁を」
ララメ「出入口使って!?!?」
トゥトゥはてちてち歩いてきてテーブルによじ登る。足ぶらぶらさせて
トゥトゥ「会議してるの〜?」
メアリー「ノックという文化を覚えるのです」
トゥトゥ「えー?だって壊した方が早いじゃん!」
にこっと無邪気なのに、全員が本能的に距離を取る程に空気が変わる。
ララメや蒼柄の明るさとも違う。霣羅の静けさとも違う。ヤグの荒さとも違う。
“異物”。そのまんま。
ヤグ「……で。なんの用だよ。本当にお前が来ると思わなかったが」
トゥトゥ「んー?」
首かしげて
トゥトゥ「角灯とシュアがいるんでしょ〜?」
ぴたりと空気が凍る。
メアリー「……知ってるのです?」
トゥトゥ「さっき見たよぉ」
にこにこ。
トゥトゥ「お散歩してた〜!かわいかったよ♡」
声色が少しだけ甘くなる。でもぞわっとする甘さ。
トゥトゥ「やっっと見つけたけど…角灯とシュア、変わらず可愛い」
机に頬杖。
トゥトゥ「ならやるよ〜?任務♡」
ヤグ「は?」
トゥトゥ「壊していいんでしょ?」
にぱっ。
トゥトゥ「角灯とシュア以外♡」
ララメ「えっ」
メアリー「選別こわ」
霣羅「…任務は“殲滅”だ」
トゥトゥ「だから〜」
くるっと首を傾けて。
トゥトゥ「二人だけ回収して、他は廃棄でいいでしょ?」
当たり前みたいに言う。まるでいらないオモチャ捨てるみたいに。
ヤグは深いため息をついて
ヤグ「……ほんと、てめぇが一番こえぇよ」
トゥトゥ「えへへ!ありがと♡」
褒められたみたいに笑う。
夕日の赤が部屋に差し込む。壊れた壁に暗い影。遠くから館の笑い声が聞こえる。
同じ建物なのにまるで別世界だった。
夕方の館の廊下はあったかい匂いで満ちている。
キッチンからスープの匂い。遠くでララメとニアの笑い声。
「それほしいー!」
「むりー!」
「いじわるー!」
「うそだよー!」
平和そのもの。その中をどたどたどたどた!
とシロクラが走っていた。
シロクラ「ヤグーーー!!」
元気100%。
シロクラ「どこ行ったんだよあいつ!」
中庭にもいない。食堂にもいない。玄関にもいない。
シロクラ「隠れんぼかよ〜」
ぶつぶつ言いながら廊下を曲がる。ふと館の奥。
あまり使われてない客間の方。カーテンが閉まってて妙に暗い。
シロクラ「……?」
首かしげ。
シロクラ「こんなとこ来てんのかな」
近づくとなんとなく空気が違う。さっきまでの館のにぎやかさがここだけ薄い。
しん、ってしてる。
シロクラ「ヤグー?」
軽くノックしようとしたその瞬間。
ガチャとドアが開いたと思えば、中から出てきたのはヤグ。
目つき悪いまま。いつもの気だるそうな顔。でもほんの少しだけ影が濃い。
シロクラ「あ!」
ぱっと顔が明るくなる。
シロクラ「ヤグー!探したぞ!」
駆け寄って肩ばんばん叩く。
シロクラ「どこいってたんだよw みんなメシの準備してんぞ!」
ヤグがちらっとだけ見ると、ほんの一瞬視線が合う。
だがその目が妙に冷たい。
ヤグ「……」
シロクラ「?」
ヤグ「言う必要はない」
低い声で短い。それだけ言ってすっと横を通り抜ける。
シロクラ「え、あ、おい?」
呼び止める前にスタスタ歩いていく。振り返らない。
いつもの「だりぃ」とか「うるせぇ」とかもない。ただ距離を置くみたいに。
シロクラはぽかんとして
シロクラ「……なんだよ」
後頭部ぽりぽり。
シロクラ「へんなやつめ」
けらっと笑う。深く考えない。いつも通り。
シロクラ「ま、いっか!腹減ったし!」
くるっと方向転換して走っていく。どたどたどた。明るい足音が遠ざかる。
廊下の角でヤグは一瞬だけ立ち止まり、ぎりっと奥歯を噛む。
ヤグ「…チッ」
小さく舌打ち。
ヤグ「めんどくせぇ」
それからまた歩き出す。銃がやけに重く感じる。さっき叩かれた肩の感触が妙に残っていた。
冷酷でいつも奪ってきたヤグですが
一緒に食卓を囲んでしまったからやりづらいと思ったんでしょうかね。
まぁ、そんな感情なんてすぐ消して任務に行きますが




