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館護戦線  作者:
終幕のあとで
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終戦の朝


その頃。


更地から少し離れた瓦礫地帯で、皐はひとり呑気そうに歩いていた。


皐「あの方の反応が消えましたねぇ…」


まるで他人事みたいな軽い口調だった。


皐「まさかとは思いますが、殺られました?」


仲間が消えたかもしれない状況だというのに、焦りも悲しみも欠片ほどしか見えない。


そんな皐の前へ、不意にひとつの人影が現れる。


皐「……ん、貴女……」


皐の視線が細められた。

そこに立っていたのはメアリーだった。


服装は崩れ、幽体の輪郭も不安定なまま揺れている。それでも消えてはいない。


そして何より、その雰囲気が以前とまるで違っていた。


皐「随分満身創痍ですねぇ。で、その姿は?」


問い掛けてもメアリーは答えない。


ただ静かに皐を見つめているその目は、感情を押し殺したような瞳だった。


やがてメアリーは曖昧な輪郭を揺らしながら、ゆっくり腐敗銃を持ち上げる。


銃身は半透明に揺れているのに、不思議なくらい強い殺気だけが滲んでいた。


皐「は、?いや…何ご冗談を……?」


流石の皐も表情を引き攣らせる。

けれどメアリーは何も言わない。


銃口を真っ直ぐ皐へ向けたまま、静かに指を引き金へ掛けていた。


メアリーは何も言わないまま、そのまま静かに引き金を引いた。


皐「_待っ!!!」


乾いた発砲音が瓦礫地帯へ響く。


放たれた腐敗弾は一直線に皐の心臓を貫き、その瞬間から黒ずんだ腐食が一気に全身へ広がり始めた。


皐「ぁ……」


皐は何か言おうとして口を動かす。

けれど言葉にはならない。


胸元を押さえた指先からも崩壊が広がり、やがて身体全体が力なく揺れた。


誰かを騙して


誰かを壊して


命を弄び続けてきた男は、最後まで後悔を口にすることもなく


その場で静かに崩れ落ち、命の火が消えた。


メアリーはその亡骸を一瞥することもなく、ゆっくり踵を返してララメと蒼柄がいる場所へ戻ろうとする。


……けれど身体が限界だった。体力も気力も、戦いの中で削れすぎている。


幽体の輪郭はぼやけ続け、足元すらまともに安定していない。


それでも数歩だけ前へ進み_そこで力尽きるみたいに倒れ込んだ。


メアリー「せ、せんぱ…い………」


指先を動かすことすら億劫だった。


それでもメアリーは必死に声を絞り出す。

もう終わりだと分かっている。


もう戻れないとも理解している。

けれど未練は、不思議なくらい残っていなかった。


ただ


仇は取った。


それだけで十分だった。


その時、ふわりと頭へ触れるような暖かさが降りてくる。


メアリーは薄く目を開けた。


視線の先に居たのは大切な人。ずっと自分がくっついていたあの顔。


クールで荒っぽいけど…大好きな人


メアリー「……せ、先輩……」


掠れた声が震える。


その人は、メアリーを見下ろしながら


今まで見せたことのないくらい穏やかな笑みを浮かべていた。


「頑張ったな」


メアリー「っ、!!」


その優しい声が耳へ届いた瞬間、メアリーの瞳から涙が溢れる。


けれど次の瞬間には、その幻影は静かに消えていた。


これで、もう会えるのは最後。


そう分かっている。


それなのに、不思議なくらい心は軽かった。


しばらくしてから、メアリーは重たい身体をゆっくり起こした。


輪郭はまだ不安定に揺れている。それでも先程までみたいな絶望感は残っていなかった。


メアリーはふらつく足取りのまま、再び歩き始める。


戻る場所は決まっていた。


そして瓦礫を越えた先で、ようやく二人の姿を見つける。


ララメと蒼柄は互いを支えるみたいに肩を貸し合いながら、なんとか立っていた。


蒼柄が最初にメアリーへ気づく。


蒼柄「メアリーさんっ!!」


ララメ「メアリーちゃあーん!!」


二人の声が重なる。

メアリーは少しだけ困ったみたいに笑いながら、小さく頭を下げた。


メアリー「し、失礼しました……」


蒼柄「良かった…良かったですよ!」


張り詰めていたものが切れたみたいに、蒼柄は安堵した表情を浮かべる。


ララメも目を潤ませながら、力なく笑った。


ララメ「いなかったんだもぉん、消えちゃったかと思った……」


その口調は以前と同じだった。


軽くて、明るくて、少し甘えるみたいな話し方。


戦いの最中はずっと張り詰めていた空気が、ようやく少しだけ緩んでいた。


メアリーはそんなララメの声を聞きながら、小さく目を細める。


生きている。三人ともまだここに居る。その事実だけで十分だった。


そして三人は崩れた瓦礫の真ん中で、ようやく胸を撫で下ろしていた。


蒼柄「……どうしましょうか」


その言葉には疲労だけではなく、どうしようもない喪失感まで混ざっていた。


もう戦う理由は終わった。


けれど行き先も帰る場所もない。


三人は瓦礫だらけの更地で立ち尽くしたまま、しばらく言葉を探していた。


やがてララメが少し困ったみたいに笑う。


ララメ「ソラちゃんの言ってたとこ…はやめとこっか」


メアリー「そうですね。少なくとも、わたくしの行くべきところではない、と思います」


その声には自嘲みたいな響きが混ざっていた。


蒼柄はそんなメアリーを見ながら、静かに首を横へ振る。


蒼柄「ご自分だけ責めるのは良くないですよ。…でも、もう戻れないですもんね」


メアリー「…わたくし達の歩める正規の道は、もう存在しないのかもしれませんね」


誰も否定しなかった。きっと本当にそうだったから。


狩として生きて、多くを傷つけて、多くを奪ってきた。


今さら普通の場所へ戻れるほど綺麗な人間ではない。


そんな現実だけが静かに残っていた…その時


崩れた街並みの向こう側から、ゆっくり朝日が昇り始める。


柔らかな光が三人を包み込み、冷え切っていた身体を少しずつ温めていく。


長い戦いで積み重なっていた疲労も、胸の奥へ溜まり続けていた痛みも、その光が少しだけ洗い流してくれるみたいだった。


ララメは眩しそうに目を細めながら、その朝焼けを見つめる。


そして、いつもの明るい声で笑った。


ララメ「正しい道にはもう行けないけど、償いながら生きていこ!」


その言葉を聞いて、蒼柄とメアリーはほとんど同時に頷いた。


明るい未来ではないのかもしれない。


これから先も苦しいことばかりかもしれない。


それでも、罪も、後悔も、失った人達への想いも。


全部背負ったまま、それでも前へ進いていこうと思えた。


朝日が照らす更地の中で、三人は静かに歩き始める。


終わった戦場を背中へ残したまま、それぞれの罪と共に、生きる為の道を選んでいた。


気持ちのいい感情だけじゃないのは明らかだ。




でも


それでも


3人は朝日に、戦闘で冷えきった体を癒されながら


傷だらけの体を支える足を、少しづつ動かして進んでいくのだった。


__________________

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