表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
館護戦線  作者:
終幕のあとで
61/76

均衡の成立


いくら腐敗を纏った銃弾で応戦していても、メアリーは押され続けていた。


トゥトゥの動きはあまりにも速く重い。避けるだけでも限界に近い。


そして次の瞬間、トゥトゥの拳が真正面からメアリーの胸元へ振り抜かれる。


直撃すれば終わる。


_そう理解した瞬間だった。


黒炎を纏った刀が横から割り込み、トゥトゥの拳道を強引に逸らした。


衝撃で空気が爆ぜる。


トゥトゥ「……なに、やっと殺れそうだったんだけど」


不満そうな声。

その前へ立ったのはララメだった。


黒炎と桃色の電光を纏った姿は、どこか霣羅を思わせる。


それでも、そこへ立っているのは間違いなくララメ本人だった。


ララメ「……許すわけにいかないから。メアリーちゃんも蒼柄くんも、誰も失わないって言ったから」


刀を握る手は震えている。それでも目だけは逸らさない。


メアリーが目を見開く。


メアリー「ララメさん、! ……その姿……」


ララメは苦笑しながら刀を構え直した。


ララメ「長くは無いと思う。だけど……メアリーちゃんを助けたかったから!」


黒炎が身体の周囲で不安定に揺れる。無理をしているのは誰の目にも明らかだった。


トゥトゥはそんな二人を見比べたあと、面倒臭そうに肩を落とす。


トゥトゥ「……だーる。ま、2人ともやればいいもんね〜!」


その笑顔と同時に、空気が弾けた。

次の瞬間には、トゥトゥの姿が消えていた。


ララメとメアリーがトゥトゥへ立ち向かう姿を見ながら、蒼柄は地面へ突き刺さった短刀を震える手で掴む。


そして無理やり引き抜いた。


激痛が腹部を貫き、視界がぐらりと揺れる。


蒼柄「……っ、ぁ……!」


そのまま身体が崩れ落ちる。纏っていたバグも不安定に明滅し、抑えた袖へ赤い染みがじわじわ広がっていった。


それでも蒼柄は歯を食いしばりながら顔を上げる。


ララメもメアリーも戦っている。

限界なのに、それでも立っている。


蒼柄「……っ、自分には……誰も……」


掠れた声が漏れる。

蒼柄には頼れる存在なんていなかった。


思い浮かべようとしても誰の顔も浮かばない。


守ってくれる人も、背中を押してくれる人ももう居ない。


…唯一、脳裏へ浮かんだのはエイルだった。


優しかった姿。


頭を撫でてくれた手。


家族へ向けていた柔らかな笑顔。


けれど蒼柄は小さく首を振る。エイルは今頃、家族と幸せに暮らしている。


そんな場所に自分なんか居ない。


二度も消えて。


ボロボロになって。


こんな惨めな姿になった自分なんて、もう見向きもしてくれない。


そう思っていた。


蒼柄は苦しそうに呼吸しながら、更地になった空を見上げる。


そして小さく笑った。


蒼柄「…ほんと、自分は最後まで、独りですか……」


蒼柄は腹部の傷口を必死に押さえながら、ふらつく身体へ無理やり力を込める。


そして崩れそうになる膝を震わせながら、ゆっくり立ち上がった。


蒼柄「……なら、1人ででも立つだけ……です」


掠れた声だった。それでも、その目だけはまだ死んでいない。


目の前ではララメとメアリーがトゥトゥへ食らいついている。


桃色の電光と黒炎を纏った刀を振るうララメ。


腐敗を宿した銃撃と身体能力で応戦するメアリー。


二人とも限界のはずなのに、それでも倒れない。


蒼柄はその姿を見つめながら、自分の手元へ視線を落とす。


握っている短刀には、自分の血がべったり付着していた。


手が震え、呼吸も乱れる。纏ったバグは不安定に揺らぎ続け、存在そのものが崩れかけている。


こんな満身創痍な状態で飛び込んでも、足手まといになるかもしれない。


むしろ守られる側になる可能性の方が高い。

それでも。


蒼柄は短刀を握り直した。

指先へ力を込め、痛みを無理やり押し殺す。


蒼柄「……自分だけ逃げるなんて…できるわけがないでしょう……」


そのまま蒼柄は震える足で一歩踏み出す。


壊れかけた身体を引きずりながら、それでも戦場へ向かっていた。



ララメとメアリーは挟み込むようにトゥトゥへ攻撃を仕掛け続けていた。


桃色の電光と黒炎を纏った刀が空気を裂き、その隙間を縫うように腐敗弾が撃ち込まれる。


けれどトゥトゥも止まらない。笑いながら拳を振るい、蹴りを放ち、二人を押し返していく。


押して押される、均衡なんて呼べない危うい戦場だった。


ただ少なくとも、もう一方的ではない。

……いや、もしかしたら二対一ではないのかもしれない。


メアリーの背後には“ヤグ”の意思があり、ララメの周囲には霣羅の黒炎が揺れている。


そう考えれば、これは四対一に近かった。

その戦場へ、蒼柄がようやく辿り着く。


ふらつく足取り、血で濡れた袖、壊れかけた身体。


それでも短刀を握ったまま蒼柄は前へ出た。


トゥトゥはそんな姿を見て楽しそうに笑う


トゥトゥ「アオ、まだ動けたんだ♡」


次の瞬間拳が振り抜かれ、真正面から蒼柄へ叩き込まれた。


ララメ「蒼柄くん!!」


メアリー「危な――」


誰もが直撃したと思った。

けれどトゥトゥの拳は蒼柄の身体をすり抜ける。


トゥトゥ「……は?」


同時に蒼柄の身体がバチバチとノイズみたいに弾けた。


輪郭が崩れ、映像データが壊れたみたいに身体の一部がちらついている。


そこへ立っているはずなのに、実体が曖昧だった。


ホログラムみたいに存在が不安定になっている。


蒼柄「……ぁ、?」


蒼柄自身も理解できていない。透け始めた自分の腕を見つめながら、小さく息を呑む。

ララメが目を見開く。


ララメ「蒼柄くん!!」


メアリー「か、体が……!」


蒼柄は自分の身体へ何が起こっているのか理解できていなかった。


透ける腕と崩れる輪郭にノイズみたいに弾ける身体。


困惑したまま自分の手を見つめ、握っていた短刀を落として金属音が更地へ響いた。


トゥトゥ「なに? ララとメアみたいな変なのは感じないけど」


ララメが不安そうに蒼柄を見る。


ララメ「……蒼柄くん?」


メアリー「大丈夫なのですか!?」


けれど蒼柄は返事をしない。


虚空を見つめたまま、片手で顔を覆う。そして喉の奥から掠れた笑い声を漏らした。


蒼柄「……っははは、もう……自分は死んだも同然なんでしょうね」


トゥトゥ「アオ?」


蒼柄「二度も消えて、バグりにバグって……」


その声音には恐怖より諦めが滲んでいた。

蒼柄はゆっくりしゃがみ込み、地面へ落ちた短刀を拾い上げる。


そしてそのまま、頭上へ掲げた。


トゥトゥは意味が分からないまま首を傾げた


次の瞬間


"バコッ!!"という鈍い破壊音が響いた。


トゥトゥ「……は?」


右腕が吹き飛ぶ。

白い破片が周囲へ散らばり、小さな身体が大きくよろめいた。


蒼柄が掲げていた短刀は、すでに彼の手元から消えている。

蒼柄は勢いよく後方へ投げ放っていた。


油断していたトゥトゥの死角へ

そして短刀は、人形の身体を容赦なく破壊した。


血こそ流れない。

けれど砕けた腕の破片が瓦礫へ散乱している。

ララメが息を呑む。


メアリーも目を見開いたまま固まっていた。

蒼柄はノイズ混じりの身体で立ち続けながら、静かに短刀を構え直す。


蒼柄「なら、完全に死ぬまで戦わせてもらいます」


トゥトゥ「.....っあー、ほんっと腹立つ!!!」


瞬間、更地の空気が変わる。

凄まじい殺気が一気に放たれ、周囲の瓦礫が音を立てて砕け始めた。


トゥトゥ「ふざっけんな!!格下が!!」


今までの遊ぶような笑顔は消えている。

本気で怒っていた。

ララメが刀を握り直す。


ララメ「......来るよ」


メアリーも銃口を構え直した。


メアリー「わかってるのです」


怒りへ任せて暴れ始めたトゥトゥの攻撃は、それまでより遥かに直線的になっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ