再び、"狩"へ
音の無い戦場の中で、震える声が落ちる
ララメ「……うそ」
目の前に立つ背中を見間違えるはずがない。
メアリー「蒼柄さん、?それに、貴方っ!!」
皐「…っはは、邪魔が入りましたか。でも」
皐は口元を吊り上げながら、目の前の青年を見下ろした。
皐「随分とまぁ、ボロボロなご様子でw」
蒼柄「……はぁっ……はぁ……」
呼吸が荒く、立っているのすら無理をしているのが分かる。
服は裂けバグで全身に傷が走り、短刀を握る手も小さく震えていた。
前、エイルと対峙し消えてしまった時
そこからまた"あの時"のように消えてしまい、今"無理やり出てきた"ようなもの。
それでも蒼柄は倒れない。皐を睨みつけたまま一歩も退かなかった。
蒼柄「っぐ……」
ララメ「蒼柄くん、!」
皐「生きてるのが不思議なくらいじゃないですか?」
蒼柄「……黙れ……卑怯……者……」
掠れた声。でもその目だけは生きている
メアリー「……皐さん、何故ここに!」
皐「司令官さんと繋がっていまして」
まるで世間話でもするみたいに軽い口調で返す。
皐「それと_この方に」
パチンと皐が軽く手を叩いたその直後、軽い足音が静かな更地に響いた。
ララメとメアリーの視線が同時にそちらへ向く。
そこにいたのは白髪の小さなお人形の少女。
皐の半歩前へ当然みたいに立つ。無機質な姿に楽しそうに細められた目。
口元は前と変わらない笑み。
トゥトゥ「やっほ〜♡」
ララメ「……なんで、」
今度の声はさっきよりずっと小さかった。信じたくないものを見たみたいに。
蒼柄の肩が小さく揺れる。
トゥトゥはそんな彼をちらりと見上げ、くすくす笑った。
トゥトゥ「も〜アオ、邪魔しちゃダメだよ?」
蒼柄「……っ……」
皐「いやぁ、本当に手間をかけさせてくれますね」
ララメはゆっくり立ち上がる。目はトゥトゥから逸らさない。
ララメ「…なんのつもり、答えて」
トゥトゥ「えー?」
首を傾げる。まるで本当に意味が分からないみたいに。
トゥトゥ「やだ♡」
皐「めんどくさい事になりましたし、自分はお暇しましょうかねぇ」
まるで仕事終わりみたいな軽い声だった。
トゥトゥ「わかったー!」
メアリー「待ってください皐さ――」
言い切るより前にトゥトゥの拳が目の前に迫る。
メアリー「っ!!」
反射的に体を捻り回避した瞬間
"ドゴォンッ!!"
凄まじい衝撃が地面を叩き割った。
ほんの数秒前までメアリーがいた場所がクレーターみたいに陥没している。
瓦礫が弾け飛び、遅れて風圧がララメの髪を揺らした。
ララメ「メアリーちゃん!」
メアリーは数歩浮遊し距離を取る。だが顔色が変わっていた。
速い
見えてから避けたんじゃない。本能で動いてギリギリ間に合っただけだ。
トゥトゥは壊れた地面の中心できょとんと首を傾げる。
トゥトゥ「あれ、避けれたんだ!」
楽しそうに笑う。その隙に皐の姿はもうなかった。
ララメ「……っ!」
辺りを見回すも気配が消えている。
……逃げた。
蒼柄「……はぁ……っ……」
蒼柄が小さく息を飲む。短刀を握る手に力が入る。
トゥトゥはそんな蒼柄の方へ振り返り笑った。
トゥトゥ「じゃあ、アオから攻撃するね♡」
その言葉と同時に空気が張り詰めた。
蒼柄はララメを庇うように荒い呼吸のまま一歩前へ
震える足を無理やり踏みしめながら、トゥトゥの前に立つ。
蒼柄「……暴れるのは、よしてください……」
声は今にも消えそうなくらい弱い。それでもちゃんと前を向いていた。
トゥトゥ「えー?なんでぇ?」
心底不思議そうに首を傾げる。
蒼柄「もう…戦うのは……」
トゥトゥ「トゥトゥたち、“狩”でしょ?」
蒼柄「っ、」
言葉が詰まる。トゥトゥはにこにこと笑ったまま蒼柄へ歩み寄る。
トゥトゥ「狩はさぁ、戦って、壊して、消して、それで終わりじゃん」
蒼柄「違…」
トゥトゥ「なのにアオたち、変になっちゃったよね〜?」
蒼柄「……」
トゥトゥ「昔はもっと、ちゃんと“狩”だったのに」
その声は責めているわけでも怒っているわけでもない。
本当に、ただ変わったことを不思議がっているだけ。
だから余計に怖い。
指先が小さく震える蒼柄を見て、背後でララメがゆっくり立ち上がった。
ララメ「蒼柄くん、下がって」
蒼柄「だめ……です……」
即答だった。
蒼柄「ララメさんたちじゃ…トゥトゥさんには……」
最後まで言い切れない。
メアリー「蒼柄さんだって無理なのです!」
存在がまたノイズみたいに揺らぐ。
トゥトゥ「あはっ♡」
それを見たトゥトゥが嬉しそうに笑う。
トゥトゥ「やっぱりアオ、壊れかけてる!」
蒼柄「……っ」
トゥトゥ「じゃあさ」
トゥトゥは拳を軽く握り
トゥトゥ「完全に壊れるまで遊ぼ?」
蒼柄へ踏み込む小さな身体が、地面を砕く勢いで加速した。
振り上げられた拳が真っ直ぐ蒼柄へ向かうその寸前。
バチッ!!!と桃色の雷光が空気を裂いた。
トゥトゥ「わっ!」
電撃がトゥトゥの身体へ直撃する。火花が弾け、衝撃で足元の瓦礫が跳ねた。
ララメ「近付かないで!」
ララメが前へ出る。
掌にはまだ電気が散っている。
トゥトゥは数歩後ろへ下がったものの怯んだ様子はない。
…むしろ楽しそうに目を細めていた。
トゥトゥ「えー、抵抗しなかったら楽なのに?」
ララメ「誰が」
吐き捨てるような声。隣でメアリーも静かに前へ出る。視線は一切逸らさない。
メアリー「……終わってますね」
トゥトゥ「褒め言葉として受け取るね♡」
くすくす笑う姿はまるで会話を楽しんでいるだけみたいな空気。
なのに、その場の緊張だけが異様に重い。
蒼柄「……っ、ララメさん……メアリーさん……」
ララメ「黙って休んでて」
蒼柄「…ですが!」
ララメ「蒼柄くん、今にも消えそうじゃん」
蒼柄の身体はまだ不安定にノイズを走らせている。
輪郭が時折ぶれるたびにメアリーの表情がわずかに険しくなった。
メアリー「……今の蒼柄さんは、まともに戦える状態ではないのです」
トゥトゥ「あは♡」
両手を後ろで組み、首を傾げる。
トゥトゥ「じゃあ二対一?」
ララメ「違う」
ララメの目が鋭く細まる。
ララメ「二人で止めるの」
ララメの能力、桃色の電気がバチバチとララメの周囲で弾けた。




