それぞれの道と、その先へ
綯緒はゆっくり立ち上がった。
服についた砂を払うこともなく、ただ前だけを見る。
誰とも目を合わせない。誰の声も待たない。
足音だけが静かに遠ざかっていく。
まっすぐ行くその背中が語っていた。
「今は放っておいてくれ」
「一人にしてくれ」
「これ以上、優しくするな」
そんな触れたら壊れそうな拒絶。ハウルも、ソラも、誰も呼び止められなかった。
呼んだらきっと崩れる。あの男は今、ギリギリで立っている。
だから誰も何も言わない。ただ黙って見送るだけだった。
少し離れた場所。瓦礫の端に、ララメとメアリーが並んで座っている。
他のみんなは歩き出したのに、二人だけまだ動かない。
風が吹く。焦げた匂いがまだ残ってる。ララメが膝を抱えたままぽつりと呟く。
ララメ「……あのさ、」
メアリー「はい」
いつもの調子。でも声は静かだった。
ララメ「まだ終わってないよね」
少し間。メアリーは視線を上げる。崩れた空と煙。何もなくなった戦場。
メアリー「……トゥトゥさんが居るのです。蒼柄さんは…まだ、戻ってきてないのです」
ララメ「……」
唇を噛む。それから無理やり笑った。いつものあの明るすぎる笑顔。
ララメ「蒼柄くんはきっと、どこかでふざけて遊んでるよ!」
メアリー「…そうですか」
ララメ「…蒼柄くん、だもん……」
語尾が少しだけ弱い。自分に言い聞かせてるみたいな声。
ララメが立ち上がる。ぱんぱんと服の埃を払う。
ララメ「ほらメアリーちゃん」
メアリー「はい?」
ララメ「私たち、まだ“狩”でしょ?」
胸元を見てもそこにあったはずのリボンはもうない。
ララメ「……あ、違った」
小さく笑って
ララメ「“元”狩だ」
メアリーも自分の胸元を見て、ふっと目を細める。
メアリー「でも、やることは変わらないのです」
ララメ「だね!トゥトゥちゃんと蒼柄くん、回収しないと」
メアリー「放っておけません」
ララメ「うん」
少しだけ顔を見合わせる。いつもの相棒みたいな空気。軽く拳を合わせる。
ララメ「…じゃ、もうひと頑張りいこっか」
メアリー「はいなのです」
でも二人はまだ歩かない。すぐには動かない。
ただ、更地になった戦場をしばらく見ていた。
仲間が消えた場所。笑ってた場所。戦ってた場所。
ちゃんと目に焼き付けるみたいに。もう逃げないみたいに。
ララメ「……次は、守ろうね」
メアリー「はい」
その声は強かった。もう迷ってない、もう揺れてない覚悟だけがそこにあった。
やがて二人は同時に踵を返す。
同じ方向へ
行く先は同じ。まだ終わってない戦いへ。
出かけの朝日が、二人の背中を淡く染めていた。
別れは終わりではない。
帰る者もいる。
探しに行く者もいる。
一人で歩く者もいる。
同じ戦場を越えた仲間たちは、それぞれの道へ進んでいく。
朝日は皆を平等に照らす。
悲しみを抱えた者にも、これからを生きる者にも。




