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館護戦線  作者:
館護戦線
48/76

「ただいま。」




____________




……静寂。


耳鳴りだけが残っている



白い煙がゆっくりと流れて


瓦礫が崩れる小さな音


そこら中に漂う焦げた匂い




ソラ「……ぅ……」


最初に指が動き、次に瞼、そして重たい体を無理やり起こす。


視界はぼやけたまま


ソラ「…………あれ……わたし……」


フォドルが倒された時の爆発により吹き飛ばされた全てを思い出す


ソラ「……っ、アマネちゃん……!ニアちゃん……!」


慌てて振り返るとすぐ後ろ。氷壁は砕けバリアの残光がまだ薄く揺れている。その内側に二人が倒れていた。


ソラ「アマネちゃん!!」


駆け寄って肩を揺する。


アマネ「……ん……ソラ、さん……?」


弱い声でも意識はある。


ソラ「よかった……ほんとによかった……」


次にニア


ニア「……ニア、まだ……バリア……できる……」


半分寝ぼけたみたいな声。ソラは思わず笑って泣きそうになる。


ソラ「もういいの……もう、頑張らなくていいよ……」


二人をぎゅっと抱きしめる。温かい温度で生きてるのがわかる。


それだけで胸がいっぱいになる。


でも


ソラ「……シロクラさん……」


はっと顔を上げる。最後に見た光景。レドを引っ張って前に出た身体


ソラ「……やだ……」


足が勝手に動く


瓦礫を越えて煙の向こうへ


……そして、見つけた




動かないまま静かに横たわっているシロクラを


ソラ「……シロクラ、さん……?」


そっと近づき膝をつく。


その身体はひどく軽く見えた。


服は焼け


傷だらけで


呼吸の気配もない



そして、輪郭がゆらゆらと陽炎みたいに透けている。


ソラ「……え……」


理解したくないのに理解してしまう。


あの爆発を真正面から


それも、人を守るために。


ソラ「……やだ……」


そっと抱き上げると軽い。びっくりするくらい軽い。


ソラ「…シロクラさん……」


返事はない。


ソラ「起きてください……」


肩を揺すっても動かない。


ソラ「シロクラさん…」


もう一度。


ソラ「……ねぇ……」


声が震える。


ソラ「……起きてくださいよ……」


ぽた、ぽた、と涙が落ちて服に染みる。


ソラ「……みんな……待ってますから……」


何度も何度も優しく揺する。


…動くはずない事くらい、分かってるのに



透け方が強くなる。指先から光みたいに崩れていく。



……時間がない。


胸がぎゅっと締め付けられる。


だから、ソラは必死に笑った




泣きながら、ぐちゃぐちゃの顔で



それでも精一杯




ソラ「……シロクラさんは……」


声が詰まりながら


……それでも言う。


絶対伝えたくて。




ソラ「……世界一……」


ぎゅっと抱きしめる。


ソラ「……世界一、かっこいい人間です……」


風が吹き、ふわりと光がほどけるみたいにシロクラの身体は静かに消えていった。


腕の中に残ったのは、ぬくもりの残像だけだった。


ソラ「……っ……」


声にならない嗚咽が、崩れ落ちた広場に小さく響いた。





__どこまでも


どこまでも、白い景色



なのに眩しくはない。ただやわらかい光だけが満ちている。


シロクラ「……ん……」


まぶたをゆっくり開ける


体がやけに軽い。さっきまで全身を引き裂いてた重さも、熱も、何もかも消えている。


シロクラ「……ぁー……」


ぼりぼりと頭を掻く。起き上がって周りを見回して、それからふっと笑った。


シロクラ「…俺、死んじまったか」


肩をすくめて笑う。


シロクラ「っははw…」


乾いたような、どこか吹っ切れた笑い。


怖さは不思議とない。


「あー、そっか」みたいな妙な納得感だけがあった。


シロクラ「まぁ、あんだけ真正面から食らったらなぁ……」


「そりゃ無理だろ」っていつもの軽口みたいに呟く。


その時、ふと気配を感じた


誰かいる気がしてゆっくり振り向く


そして



シロクラ「……え……」


少し離れたところに二人立っていた


見覚えのある背中


小さい頃の記憶そのままの姿


若いままの父と母


あの日から、時間が止まったみたいな姿。


シロクラ「……は……」


喉が鳴って声が出ない。


…夢かと思った。幻覚かと思った。


でも


ふたりは振り返る


母が笑って、父が手を振った。


あの頃と同じ顔で


あの頃と同じ優しい目で


シロクラ「……っ」


足が勝手に動く…歩くとかじゃない。


もう走ってた。子供みたいに転びそうになりながら。


シロクラ「……っ、……っあ……!」


息が詰まり視界が滲む。


叫びたいのに、もはや声にならない。


そして、そのまま勢いよく二人に抱きついた。


シロクラ「……っ……!!」


ぎゅっと思い切り…縋るように。


腕が背中に回る。


…温かい、ちゃんと温かい。


母の匂い、父の胸の固さ


全部、全部覚えてる。母が優しく頭を撫でて、父が大きな手で背中を叩く。


その空間に言葉はいらなかった。


ただそれだけで、胸の奥に溜まってたものが一気に溢れた。


シロクラ「…ごめ……」


声が震える。


シロクラ「……ごめん……俺…俺っ………」


いっぱい迷惑かけたと思うんだ


あの日、勝手にいなくなって


苦しませて


心配させて


たぶん、いっぱい泣かせた




謝らなきゃいけないことだらけなのに、見上げると母は首を振って、父は笑った。


責める顔なんてひとつもない。


ただ、「おかえり」って言ってるみたいな顔。


その瞬間


シロクラの身体がふっと軽く光る。


目の中にあった紫が消えて、髪に混じっていた色もすっと抜ける。


過去に縛り付けるように着いていた首のチョーカーも、頬の模様も消えていく


鏡はないけれど分かった。


人間の姿になれている


何にも縛られてないただのひとりの子供で、ただの息子。


母の胸に顔を埋める。父の腕に包まれる。


シロクラ「…あー……」


力が抜ける。笑みがこぼれる。


シロクラ「……悪くねぇな……これ……」


心の底から


初めてかもしれないくらい穏やかな顔で


「ただいま。」


そう一言だけ言って


__その青年は、目を閉じた。




白い光がやわらかく三人を包む


もう痛みも戦いもない


怒りも後悔もない



ただあたたかいだけの世界で、シロクラは家族の腕の中で


静かに


__幸せな最期を迎えた。

どれだけ遠くへ行っても


どれだけ姿が変わっても


帰りたいと願った場所は、きっと心のどこかに残り続けていた。


だからきっと、この青年は家族の元に帰れた。

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