_終息_
さっきまで確かにそこにいた。
霣羅の体温も、腕の重みも
砮裏を抱えたまま膝をついていたあの背中も。
次の瞬間、ふっと霧みたいに光の粒になって消えた。
レド「……は……?」
横たえたはずの場所の空気が軽すぎる。
腕にはもう支えていた感触がない。
掴んでいた服も
抱えられた時についた血も
もたれかかってきた重さも
……全部何もないただ空気だけ。
レド「……霣羅?」
声が掠れる。返事はない。
レド「…おい」
一歩踏み出す。何もない場所に手を伸ばす。
レド「…おい…、ふざけんな……」
地面に残っていたのは焼け焦げた跡と黒炎の名残
それだけ。
シロクラ「……っ」
歯を食いしばる音。
ララメ「そんな…やだ、やだ…」
メアリー「…霣羅、さん…」
一瞬だけ世界が止まったみたいに静まる。
フォドル「…消滅か」
冷たい声には感情がない
フォドル「処罰完了だな」
その一言
レドの中で何かが切れた。
ブチッと本当に音がした気がした。
レド「処罰?」
ゆらっと立ち上がる
レド「…お前」
ハウル「人の命を…なんだと思ってんだよ」
フォドル「裏切り者だ。処分対象。それ以上でも以下でもない」
迷いゼロのその言葉にレドは乾いた笑いを浮かべて
レド「…はっ、マジで最悪だな。テメェ」
銃を構える手はもはや震えてない。
怒りが逆に手を静かにしてる。
ララメも涙を拭った、赤い目で見る
ララメ「…もう、絶対許さない」
ピンクの電気が弾ける。空気がバチバチ鳴る。メアリーは静かに手を引き締める。
メアリー「…わたくし、怒るのは得意ではないのです」
でもその足元からは黒い腐食がじわりと広がる。
メアリー「でも今は例外なのです」
ハウルが前に出る。拳を鳴らす。
ハウル「…二人も持ってかれたんだ」
目が据わってる。完全にキレてる顔。
ハウル「もう加減しねぇぞ、フォドル」
レイズとルガも並ぶ。
ニアが震えながらバリアを張り直し、アマネが氷を再生成する。
ソラも息を飲みながら視界を固定する。
全員前を向く
もう迷いはない
失ったから止まれない。
フォドル「…人数が増えただけで勝てると思うなよ」
レド「思ってねぇよ」
カチッと安全装置を外す音。
レド「_ぶっ潰すだけだ」
霣羅と砮裏が消えた空間を背に、残された者たちはもう後戻りできない顔でフォドルへ全力で突っ込んだ。
爆音が途切れない広場はもう“戦場”どころじゃなく、ただの災害みたいになっていた。
フォドルを中心に四方八方から攻撃が叩き込まれる。
レドの銃弾が死角から撃ち抜き
ララメの電撃が空間ごと焼き
メアリーの腐敗が足場を削り
奈子の蔦が絡みつき
氷壁が逃げ道を塞ぎ
ソラの操作が瓦礫を叩きつける。
シロクラの爆発が衝撃を重ね、
エイルの微細なバグがフォドルの体制と攻撃を崩し、
來菟が盾になり、
綯緒が傷と引き換えに致命打を消す。
そして、ハウル、レイズ、ルガ。三人の攻撃が同時に叩き込まれた。
衝撃が一点で弾ける。フォドルの身体がまた大きく揺れた。
フォドル「……っ」
靴底が床を削り、ズザァッと数メートル後退。
瓦礫が砕ける。さっきまで勝てると思うなよと言っていた男が押された
確実に効いている。
フォドルのコートの裾は腐食で崩れ、頬は裂け、腕には焦げ跡、呼吸も、ほんの僅か荒い。
フォドルが明確にダメージを負っている。
ララメ「…いける、いけるよこれ……!!」
電撃がさらに強くなる。
メアリー「足場、崩します」
奈子「拘束、重ねます!」
逃げ道ゼロの完全包囲にフォドルの眉がわずかに歪んだ。
フォドル「鬱陶しい…」
でもその声にはほんの少しだけ苛立ちが混じる。
レドが気づく。
レド「……焦ってるな」
フォドルの視線が忙しい。常に誰かが攻撃して来て、防御しても次が来る。
潰してもまた立つ。
フォドル「……ただの寄せ集めが……」
処理が追いつかない。フォドルの足がまた半歩下がる。
ギリ、と歯噛みする音。今日初めてだった。押されているという感覚。
フォドル「…馬鹿な」
小さく漏れた本音。
フォドル「この程度の個体差で…俺が……?」
ハウルが正面に立つ。血だらけでボロボロ。それでも笑っている。
ハウル「どうしたフォドル」
拳を構える。
ハウル「さっきまで余裕だったじゃねぇか」
フォドルの瞳が細くなる。
ほんの僅か、ほんの僅かだけ冷静さの奥に初めてはっきりと焦燥が滲んだ。
フォドル「……チッ」
舌打ち。それが何よりの証拠だった。
絶対的だった司令官が初めて本気で「面倒だ」と感じている。
包囲はもう完成していた。前も後ろも上も逃げ道がない。
休む間なんてない。
フォドル「……っ、鬱陶しい……!」
振り払い吹き飛ばし、叩き潰す。それでも次の瞬間にはもう別の誰かが目の前にいる。
ララメ「止まるな!!」
ララメが手を前に伸ばしながら叫ぶ。
ララメ「押して押して!!」
メアリー「左腕、崩れてるのです!」
奈子「拘束追加!」
足に絡みつく蔦をフォドルが引き千切る。その瞬間。
レイズ「今だァ!!」
拳が鳩尾にめり込む。鈍い衝撃で体勢が揺れた重心が崩れる。
フォドル「……ちっ」
氷が足元を凍らせる。
アマネ「凍って……!」
動きが鈍る。その上を――
ソラ「瓦礫、操作します……!」
大量の瓦礫が視界いっぱいに浮き、そのまま叩き落とされたそこへ
シロクラ「どけぇぇぇえええ!!」
至近距離爆破。衝撃でフォドルの身体が弾かれるもまだ終わらない。
メアリーの触れた裾が腐敗で崩れ落ちる。フォドルの呼吸が乱れる
フォドル「…きっ…貴様ら……!」
でも押し返せない。四方八方から来るのは止まらない。
倒すと決めた全員の足が一歩も止まらないから
その中心にはレドが立っていた。傷だらけで息も荒い。でも絶対に諦めない
心臓がうるさい
身体の奥が熱い
_その時
黒い亀裂みたいな模様が拳に浮かぶ。
レド「……なんだ、?これ……」
今まで自分にはないと思っていた能力_
知らない力
覚えもない
…でも、分かる。
_"終わらせられる"と
フォドルが振り向くその瞬間、ほんの一瞬だけ危機の色が宿った。
フォドル「……来るな」
レドはもう聞いてない。
ララメ「決めちゃえ!!」
メアリー「先輩!任せましたのです!」
シロクラ「おい、大丈夫か、?」
全員が一直線のレドのためだけの道を開ける。
レド「うおおぉぁあああ"!!!」
地面を蹴り、ただ前へ一直線に進む。
フォドルの胸に走った亀裂が限界まで広がって
…光が漏れる。
黒い身体の内側から眩い白が
フォドル「……馬鹿な…この、俺が……」
レドは拳を押し込んだまま睨む
レド「終わりだ」
次の瞬間
___閃光。
"ドォォォォォォンッ!!!!"
世界が弾けた。音が遅れて追いつく。衝撃波が地面を剥がし、瓦礫が宙を舞い、空気そのものが殴りつけてくる。
ソラ「ニアちゃん!アマネちゃん!!」
ニア「バリアはる!!」
アマネ「氷壁、頑張って!!!」
透明な壁が何重にも重なり、その外側を氷が包む。
直後衝撃が直撃。
バリアが軋み、氷が削れ、白い霧が爆ぜる。
ソラは歯を食いしばりながら両手を伸ばす。
ソラ「絶対……割らせません……!」
守ると決めたから誰も1歩も退かない。
その少し後ろで
ララメ「うわやばっ!?!?」
メアリー「伏せるのです!!」
奈子「こっち!」
三人は身を寄せ合い縮こまって衝撃をやり過ごす。
蔦が周囲を包み、簡易的な盾になる。
その横で
來菟「……っ、嫌だ……!」
一歩前へ出る。
來菟「もう誰も失いたくねぇ!!」
身体で受け止めようとするみたいに前に出る
無茶だ。完全に無茶だ。
綯緒「馬鹿っ!!」
ガシッと腕を掴み、思い切り引き寄せる。
綯緒「死にてぇのか!!」
來菟「でも……!」
綯緒「生きて止めるのが役目だろうが!!」
抱き締めるように押さえ込む。
二人まとめて地面に伏せた前方。
ハウル「レド!!!!」
レイズ「待て父さん!!!」
二人が駆け出す。だが
エイル「ダメ!!」
ルガ「父さん!!」
背後から腕を掴まれる。
引き止められた
次の瞬間、爆炎が到達。
エイルは手袋を外しバグを家族の全面に出す。それで軌道がわずかに逸れ威力が削がれる。それでも衝撃は重い。
ハウル「エイル!!」
レイズ「母さん!!」
でも届かない。そして中心にはレドの目の前には何もかも飲み込む光。
レド「……っ」
避けられない
間に合わない
_死を覚悟したその瞬間、後ろから強引に襟を引かれ、身体が乱暴に後ろに投げられる
レド「……え?」
視界が回る
代わりに前へ出た背中
無言のまま振り返らない
シロクラ。
レド「……っ、待……」
言い終わる前に爆炎が直撃した。
熱、衝撃、視界が全部消える。
そして
……
…………
音がない
瓦礫がぱらぱら落ちる小さな音だけ
煙がゆっくり流れていく
さっきまでの喧騒が嘘のように
戦場は、完全に静まり返っていた




