家族の残火
守れなかった現実
取り戻したかった時間
それでも戦場は待ってくれない
進むしか道はないのだから。
そして
地面を蹴り瓦礫を踏み砕く足音。
ヤグが一直線に駆けてくる。
ヤグ「……霣羅!!」
返事はない。煙の向こう。霣羅は膝をついたままだった。微動だにしない。
ヤグ「おい……!」
肩を掴んで揺らす。
…軽い。
信じられないくらい軽い。さっきまで黒炎振り回してた男の身体とは思えない。
ヤグ「霣羅、立て!まだ終わってねぇ!」
反応なし。
霣羅視点はどこもみておらず、焦点がぼやけたまま。
ヤグ「……おい」
胸がざわつく。
……嫌な予感。
さっきの砮裏の顔を思い出す。
少しも動かず、呼吸音もなくなったまま消えた姿
ヤグ「……っ」
奥歯を噛む。状況は理解した。したくなかったけど分かった。
それでも今はあいつを止めなきゃいけない。
ヤグ「……霣羅」
低く呼ぶ。それでも返事はない。霣羅の手が自分の服をぎゅっと掴んでいる。
子供みたいに、
離したら兄のいた事実すら消えるみたいに。
ヤグ「……お前が止まったら、あいつの思う壺だろ」
沈黙。
風の音だけが通り過ぎる。
ヤグ「……怒れよ、喚けよ」
霣羅「………」
ヤグ「なんか言えよ……!」
声が荒くなる。
でも霣羅はただ小さく息をしているだけ。
唇がわずかに震えるけど、音にならない。
喉が詰まって声が出ていない。
ヤグ「……くそ」
ヤグは舌打ちして、ぐっと霣羅の肩を抱き寄せる。
相変わらず乱暴。
それでも離さない。
ヤグ「…今はそれでいい。喋れなくても、立てなくてもいい」
低く、吐き出すように言う
ヤグ「…俺が前出る」
その言葉に。霣羅の指がほんの少しだけ震えた。でもそれだけだった。視線はまだ兄が居たとこから離れない。
霣羅の世界は止まったまま。
ヤグは霣羅の前に立って銃を握る。ゆっくりとフォドルの方へ向ける。
ヤグ「……借りるぞ」
霣羅の代わりに。怒りも絶望も、全部背負うみたいに。ヤグは前に出た。
黒炎の残滓はまだ空気に漂っている。霣羅は崩れ落ちたまま。
その光景をハウルははっきり見た。
一瞬…本当に一瞬だけ呼吸が止まる。
そして次の瞬間爆ぜるような踏み込みで床が砕けた
フォドルの前にハウルが立つ
フォドル「……」
ハウルの肩が震えている。拳が白くなるほど握り込まれている。声が低く漏れた。
ハウル「……それは違ぇだろ」
フォドル「?」
ハウル「それは違ぇだろ兄さん!!」
怒鳴り声が戦場を裂いた。空気が震える。瓦礫がびりっと跳ねる。
ハウル「……っ……いや」
喉が詰まる。唾を飲み込む。吐き捨てるみたいに。
ハウル「……もう兄さんじゃねぇか」
その一言だけやけに静かだった。フォドルの目がわずかに細まる。
フォドル「何が違う?」
淡々と感情ゼロの声。
フォドル「裏切り者を排除しようとしただけだ」
ハウルの奥歯がぎりっと鳴る。血の味が広がる。
ハウル「……それが」
拳が震えて怒りで視界が滲む。
消える前の砮裏の姿
もはや泣けもしない霣羅
必死に前に出るヤグ
それら全てが全部胸に突き刺さる。
ハウル「それが屑だって言ってんだよ!!」
怒号が衝撃波みたいに広がり空気が弾けた。
ハウル「裏切った?排除?合理的?そんな言葉で、命を片付けてんじゃねぇ!!!」
胸倉を掴んで無理やり引き寄せる。額がぶつかる距離。
ハウル「人だろうが!!」
フォドルの瞳が揺れない。それが余計にハウルの怒りを煽る。
ハウル「霣羅もヤグもお前の駒じゃねぇ!家族なんだよ!仲間なんだよ!!」
声が割れる。ほとんど叫び。
ハウル「奪ってどうすんだよ……」
一瞬フォドルの胸倉を掴む力が強くなる。
震えてるのは怒りか悲しみか、自分でも分からない。
ハウル「……もういい」
低く吐き捨てる。
ハウル「てめぇは司令官でも兄でもねぇ」
拳を引く。殺意みたいに静かな目。
ハウル「ただの敵だ」
次の瞬間。拳が唸りを上げて振り抜かれた。空気が割れる。
崩れた天井から砂埃が静かに降ってくる。
砮裏の倒れた場所には黒炎の残滓がまだ揺れていた。
誰もすぐには動けない。その中心でフォドルだけが微動だにせず立っている。服についた煤を払って
フォドル「……感情的だな、ハウル」
ハウル「……っ」
フォドル「お前は昔からそうだ。情に流される」
それだけ
淡々と本当にただ事実を述べる口調。視線がゆっくり横に動く。
ヤグ、霣羅、ララメ、メアリー。順番に、まるで「標的確認」みたいに。
フォドル「ほかの裏切った奴らも」
一拍置いて冷たくはっきりと
フォドル「全員消す」
空気が凍る。怒りも憎しみもないただの決定事項。
フォドル「……蒼柄がどこいったかは知らんが、見つけ次第同じだ」
ララメの肩がびくっと揺れる。メアリーが無意識に奈子の服を掴む。
それでもフォドルはまったく揺らがない。
フォドル「部隊を乱す要因は処理する。それだけの話だ。司令官として当然の判断だろう?」
まるで会議室で作戦説明でもしてるみたいな口調。
フォドル「情で守ろうとするから壊れる。だが切り捨てれば組織は生き残る」
視線がハウルに戻る。
フォドル「お前は守りすぎるから失う」
静かな断罪。
フォドル「俺は失わない。必要なら全部捨てる」
その言葉は覚悟というより、もう生物じゃない何かの理屈だった。
自分の為なら何だって切り捨てる「フォドル・リーウェン」と、弟の為なら命を捨てる覚悟で守った「黑晶 砮裏」
同じ"兄"でも、ここまで違うものなんですね。




